19話 3人の幹部
「…とまあ、いきなり議題をぶち込んでも、お互いを知らない状態だとやりづらいだろう。自己紹介をしようか」
ジークさんはそう言うと、私の方を向いた。
「彼らはこのギルドの幹部3人だ。これから長い付き合いになるだろうから、顔と名前くらいは覚えておけよ」
そして、私の無化に座る男性に視線を送る。
合図された男性が、一礼してからあいさつした。
「俺はエルグ。職業は【剣闘士】で冒険者ランクはB。よろしく」
エルグさんか。
ジークさんに負けず劣らず屈強な体つきで、やはり風格がある。
冒険者ランクBで幹部ってことは、相当な実力者なんだろうな。
「次は私ね」
続いて、ピンク髪にビキニアーマーという目を引く格好をした女性が自己紹介する。
「名前はミリィよ。職業は同じく【剣闘士】。エルグが使うのは大剣で、私はレイピアだからタイプは違うんだけどね。あ、冒険者ランクはBよ」
最後に残されたのは、他の2人の男性に比べて細身で私が来た時からずっと仏頂面を浮かべている青年。
多分、見た感じは同い年くらいだと思う。
「アーヴィン」
青年がぼそりと呟いた。
「【剣闘士】。B」
明らかに不機嫌なアーヴィンさん。
無表情でうつむいたまま、こちらと視線を合わせようとしない。
「それじゃあ最後に、リリアナも自己紹介をしてくれ」
「分かりました」
ジークさんに促されて、私は全員を見回してから口を開いた。
「リリアナといいます。職業は【暗殺者】です。冒険者ランクは…」
うわ、A、B、B、Bの前でいうの恥ずかしいな…。
「じ、Gです」
「は?G?」
アーヴィンさんが初めて顔を上げた。
「どういうことですかジークさん。見ない顔がいると思ったら新人ですか?青犬を潰すってのに、何でGランクの冒険者がいるんです?」
「そう思う気持ちも分かるけどな」
不満げなアーヴィンさんをジークさんがいなした。
「彼女はこの作戦に必要だと、俺が考えて選んだんだ。俺の判断が信用できないか?」
「そりゃ、ジークさんのことは全面的に信頼してますけどね」
アーヴィンさんはなおも食い下がる。
「青犬を潰すなら、結構な戦闘になることも予想できる。命の危険が生じた時、Gランクに背中を預けられますか?」
「なるほどな。お前の言うことはもっともだ」
確かに、経験も実績も信用もない今の私がピンチの時に心から頼れる仲間といえば、そうではないかもしれない。
「どうやったら納得できる?」
ジークさんの問いかけに、アーヴィンさんは少し考えてから答えた。
「彼女の実力を見せてください。ジークさんが選んだんなら、俺と戦ったって死にはしないでしょう?」
え?戦う?幹部と?
いや無理無理無…
「いいだろう」
ええ!?
ジークさんが許可を出してしまい、アーヴィンさんは後ろの机に置かれていた長剣を手に取った。
「悪いな、リリアナ。信頼は作戦の成功に必須。お前の実力なら十分戦えるはずだから、ちょっとやってみてくれ」
「いやいや無理ですって!!」
正直、盗賊たちを相手にした時の「あ、勝てる」という感覚は全くない。
幹部3人の中で一番強く感じるのが、このアーヴィンさんだ。
「まあ、ついてこい」
ジークさんに連れられ、私たちはギルドの裏側にある建物に移動した。
土の地面がきれいにならされ、周りは金属の壁で囲まれている。
「ここはギルドのメンバーが自由に使える訓練場だ。建物自体が特殊な金属で作られているから、どれだけ攻撃スキルをぶっ放しても壊れやしない。アーヴィンに、お前の実力を見せてやってくれ」
アーヴィンさんは訓練場の真ん中に立ち、剣を構えてすでに戦闘モードだ。
やっぱり勝てるイメージがわかない。
「1つだけアドバイスをやろう」
ジークさんが私の耳元で囁いた。
「今お前は、絶対に勝てないと思ってるだろ?」
「はい。Bランクでしかも幹部なんですよね?」
「まずはその思い込みを取っ払え。戦闘において重要なのは肩書きじゃない。集中して相手を見極めろ」
「…分かりました」
私は土の地面を踏みしめながら、アーヴィンさんと少し距離を取って向かい合う。
【状況把握】の精度を上げ、全神経を集中して相手を見つめる。
バクバク騒ぐ心臓を深い呼吸で落ち着かせた。
「ルールは簡単!!どちらがギブアップするか、俺が続行は不要と判断した場合に終了とする!!」
ジークさんと幹部2人の視線が、私とアーヴィンさんへ一心に注がれる。
「開始!!」
大きな声が響き、アーヴィンさんが動き出す。
その瞬間、私の中にあった自信が揺らいだ。
絶対に負けるという自信が揺らいだ。
あれだけ騒がしかった心臓が、何事もなかったように静まっている。
「あ、勝てる」
もう目の前に迫ったアーヴィンさんは、勝利を確信したのか不敵に笑っている。
そこへ私も笑顔で返した。