17話 犬の散歩
「すかしてんじゃねえぞ、ゴラァ!!」
依頼帰り、街から少し離れた一本道。
私はこん棒や剣を持った4人の男に取り囲まれていた。
いや、決して時間が戻ったわけじゃない。
昨日、私はイノシシ退治の帰りに犬を返り討ちにした。
そして今日は…
「俺たちは青犬盗賊団だぞ!!」
今日も犬らしい。
私が考えているのは、ただ1つだけ。
「あ、勝てる」
「何だとてめえ!!」
しまった。
つい口に出してしまった。
「随分となめてるようだがな、俺たちは赤犬盗賊団と並ぶこの辺りの2大盗賊団だぞ」
じゃあ弱いじゃん…。
「見たところ金目のものは持ってねえようだな…。まあいい。身ぐるみ剥がれても泣くなよ」
正面に立っていた男が、こん棒を思いっきり振り下ろした。
私はそれを余裕で避ける。
男はさらにこん棒を振り下ろすが、かすりもしない。
予備動作が大きい上にスピードもそこまでない。
力任せの攻撃では、俊敏さの高い私には当たりませんよ。
「てめえら何してやがる!!数で押せや!!」
怒鳴られてようやく、残りの3人も武器を構えた。
囲まれているためにスペースがない。
さすがに、4人からの同時攻撃を避けるのはきついな。
「「「「おりゃああああ!!」」」」
「…っ」
こん棒と剣が同時に振り下ろされるその瞬間、私は【目くらまし】を使った。
たちまち煙が立ち昇り、盗賊たちの視界を奪う。
その隙に私は囲いを抜け出した。
煙は私の視界も遮るが、こちらには【気配察知】がある。
「ほい、ほい、ほい、ほいっと」
「ぐはっ」「ぐはっ」「ぐはっ」「ぐはっ」
【ファイアーボール】をリズミカルに4連射。
そのリズムに合わせて、男たちのうめき声が響いた。
煙が晴れると、地面に盗賊たちが泡を吹いて倒れていた。
昨日はここで見逃したが、残念なことに今日の私のカバンには長めのロープが入っている。
「寝ているうちに…」
犯罪者の縛り方などもちろん知らないが、とにかく身動きが取れないように固く縛る。
そして4人を繋ぎ、ロープの端っこを握った。
ちょっと引っ張ってみるが、筋力のない私が男4人を引きずれるはずがない。
「仕方ない」
私はその場に座って、盗賊たちが目を覚ますのを待つ。
数分後、うめき声と共に全員が意識を取り戻した。
そして、縛られていくことに気付き慌てふためく。
「ほどけやこの野郎!!」
なぜ圧倒的に不利な状況にあって虚勢を張れるのか分からないが、私は笑って流した。
「お前の力じゃ俺たちを引っ張ってけねえだろ?とっととほどけ。見逃してやるから」
「まあ、引きずってはいけないね」
「だろ?ほどけ」
「嫌だ。歩け」
「は?」
「縛られたまま、街まで歩けって言ってるの」
盗賊たちは、ぽかんと口を開けた。
まるで、私が何を言っているのか分からないというようだ。
「馬鹿じゃねえのか?誰が歩くってんだ」
「そう、歩かないならいいや」
私はそう言うと、カバンからナイフを取り出した。
盗賊たちの顔色が明らかに悪くなる。
「お、おい。何をするつもりだ」
「残念だったね。素直に歩いてれば、罰金払って少し牢屋に入るだけで済んだのに。命を粗末にしたね」
「命!?分かった!!分かったよ!!」
男は必死に叫んだ。
「歩く!!歩くから変な気は起こすな!!」
「そう、なら歩こうね」
盗賊たちは立ち上がり、私について歩く。
ふと、私は後ろを振り返って言った。
「そっちこそ、変な気は起こさないでね。何かしようとしたらすぐに分かるから」
盗賊たちの虚勢とは違い、私は本当に気配を察知できる。
みんな、顔を青くしてがくがくと頷いた。
どうやら、さっきのナイフが相当効いたらしい。
こうして私は、街までの十数分間、4匹の犬の散歩をすることになった。