16話 イノシシと犬
宴から一夜明け、ジークさんにもらったナイフと共にモンスター討伐に向かった。
今回の依頼は歩いて1時間ほどのところにある農村から。
畑の作物を食い荒らすブラックボアーを倒して欲しいという。
ランクはFランク。ゴブリンレベルの相手なので、サクッと終わらせて帰ろう。
「ここだな」
農村に入り、依頼を出した村長に話を聞く。
村長によると、ブラックボアーは村人が共同で管理している畑のトウモロコシを狙うようだ。
トウモロコシは村にとって重要な資源なので、一刻も早く対策してほしいと言う。
「ではよろしくお願いします」
「任せといて。完璧にやって見せるから」
畑まで案内してもらい、危険を考えて村長には帰ってもらう。
辺りを見回すと、5体ほどの黒いイノシシがトウモロコシを食べまくっていた。
芯まで食べて何も残さないあたり、人様よりも立派だ。
「近づいて素早くって感じかな」
昨日のゴブリン戦のように【ウォーターボール】をドーンなんてやったら、トウモロコシまでだめにしてしまう。
また、一撃で仕留められずに暴れれらても畑が荒れてしまう。
確実に1体1体倒すのが良さそうだ。
「まずは…あいつにするか」
私は一番近くにいるブラックボアーに目をつけた。
気付かれないよう、姿勢を低くして近づいていく。
【忍び足】と【消音】を持っている私にとって、音を出さずに近づくのは朝飯前だ。
手を伸ばせば触れる距離になっても、ブラックボアーは気付いていない。
暴れさせずに倒すにはどうすればいいか。
簡単な話だ。
小さくした【ファイアーボール】を、確実に脳へ撃ち込む。
そうすれば、トウモロコシに被害は出ない。
「…っ」
私が軽く息を漏らすと同時に、ブラックボアーが倒れた。
額の部分には黒焦げの痕。
狙い通りの討伐が出来たようだ。
「さて、あと4体」
私は次なる獲物に狙いを定め、無音で忍び寄って行った。
畑にいたモンスターをすべて倒し終え、私は1体ずつ村の中へ運んだ。
作業場に案内してもらい、もらったナイフを取り出す。
ブラックボアーを作業台に載せ、解体の準備完了だ。
大体の見当をつけてナイフを刺すと、すんなり刃が入っていく。
そのまま横に動かせば、スーッと腹が開かれていった。
ほとんど力が要らない。
さすがはジークさん愛用のナイフだ。
本当は解体するにあたってちゃんとした順番があるのだろうけど、そんなのは知ったこっちゃない。
核晶が傷つかなければいいだろう。
細かい方の刃を使って内臓を取り出していくと、淡い光を放つ石にたどり着いた。
「よし、まず1個」
残ったブラックアローは、村の人が毛皮を使いたいと言うので作業場に放置する。
次のブラックボアーを作業台に載せて、またぞろナイフを刺し込んだ。
解体を無事に完了し、核晶とナイフをカバンに入れて私は村を出た。
村長がお礼にとトウモロコシをくれたので、それも持って帰り道を歩く。
半分ほど歩いたところで、茂みから男が4人飛び出してきた。
彼らはこん棒や剣を持っていて、私を取り囲む。
完全に油断していて、隠れていることには全く気が付かなかった。
「ようようお嬢ちゃん。俺らが誰か分かるか?」
一番大柄で眼帯をつけた男がニヤニヤ笑う。
それを冷たい目で見ながら、私は「あ、勝てる」と思っていた。
退治した時に、自分より上か下かが大体分かる。
多分、【状況把握】の効果だ。
「誰か分かるかって聞いてんだよ!!すかしてんじゃねえぞ、ゴラァ!!」
男が大声を出して凄んで見せた。
虚勢を張るとは、まさにこのことだ。
「いっつもこんなことしてんの?」
「あ?」
「いつも道行く人取り囲んで襲ってんのかって聞いてんの」
全く怖がらない私に苛立ちながらも、男は名乗りを上げた。
「俺たちは赤犬盗賊団だぞ?知らねえとは言わせねえ」
知らねえ。
でも盗賊団ってことは、普段からこういうことをしているということだ。
初犯なら見逃してあげようとも思ったが、そうはいかないみたいだね。
私は両腕をだらんと垂れ下らせたまま、左右と後ろの男に【ファイアーボール】を放った。
盗賊たちの足が短く腰の位置が低かったせいで、股間へクリティカルヒットしてしまう。
「「「ぐっ…」」」
悶絶して男たちが倒れた。
ただ1人無傷な眼帯男は、突然の事態に目を見開く。
「おい、てめえら何の真似だ!!立ちやがれ!!」
慌てる男のポンポンと叩き、私はニヤッと笑った。
「バイバイ、負け犬盗賊団さん」
「赤犬だ…ぐはっ!!」
言い終わらないうちに、私は【ファイアーボール】を撃つ。
今度は故意に股間を狙って。
「倒したはいいけど、この人たちどうしよう」
さすがに、街まで男たちを担いで帰るのは無理だ。
本当は牢屋に入れたいところだが、筋力Fの私は諦めた。
「帰ろっと」
男たちを道の真ん中に残したまま、私は再び歩き出した。