15話 歓迎会
「こんばんわ~。来ましたよ~」
リゼアがジークさんの家の玄関をノックすると、小さな男の子が出てきた。
おでこや膝に擦りむいた痕がある。
さては、相当なわんぱくだな?
「おっすリゼア姉!!」
「おっす~」
リゼアと男の子がハイタッチを交わす。
私とルジーも自己紹介をした。
「こんばんわ。リリアナです」
「こんばんわ。ルジーです」
「俺はリーア!!お父さんが言ってたお客さんでしょ?入って入って!!」
リーアに手招きされて家の中に入る。
すぐに良い香りが漂ってきた。
「お母さんがめっちゃごちそう作ってたぜ!!お母さんの料理は世界一なんだ!!」
得意気に胸を張るリーア。
お客さんが来るのが楽しくて仕方がないという感じだ。
「おう、みんな来たか」
食卓に座っていたジークが、グラスを置いて片手を上げた。
上機嫌で赤ら顔。どうやらグラスの中身はお酒のようだ。
「お邪魔します」
「ゆっくりしてってくれ。その人がリリアナの連れか?」
「そうです」
私が視線を送ると、ルジーは一歩前に出てあいさつした。
「初めまして。ルジーと申します。どうぞよろしくお願いします」
「よろしくルジーさん。楽しんでってくれ」
席に着くと、奥さんとリーアが料理をたくさん運んできた。
どれもすごく美味しそうだ。
「初めまして。ジークの妻のエニーです」
「リリアナです。どれも美味しそうですね」
「そうでしょう?料理には自信があるんです。たくさん作りましたから、好きなだけ食べてくださいね」
エニーさんも食卓に着き、メンバーが全員揃った。
「それじゃ、乾杯でもするか」
ジークさんの一言で、みんなが自分の前のコップを手に取る。
「リリアナの冒険者協会加入を祝って乾杯!!」
「「「「「かんぱ~い」」」」」
私はコップに注がれたぶどうジュースを一気に飲み干した。
ああ、美味しい。
「どんどん食べてくださいね~」
エニーさんが取り分けてくれた料理をいただく。
これも美味しい。
リーアの「世界一」という表現が少しも滑稽じゃない。
まさに絶品だ。
「時にリリアナ」
「何ですか?」
「リゼアから聞いたんだが、ゴブリンを【鎌鼬】で斬りまくったそうじゃねえか」
な、なぜそれを!?
リゼルめ、いつの間に喋ったんだ。
「解体用のナイフは必須だ。ほら、これをやるよ」
ジークさんは、きれいに包装された箱を取り出して私にくれた。
箱の大きさの割に、意外と軽い。
丁寧に包み紙をはがして箱を空けると、中には両刃のナイフが入っていた。
「俺も使ってるおすすめのナイフだ。片っぽはざっくり切るよう。もう片っぽは細かい作業用になってる」
「いただいていいんですか?」
「おうよ。加入祝いの記念品ってやつだ」
「何から何までありがとうございます」
私が頭を下げると、ジークさんは豪快に笑った。
「気にすんなって。新人が働きやすい環境を用意するのは、上司であるギルマスの役目だからな」
ジークさんって本当に理想の上司だ。
人の上に立つものとして、どこぞの王子にも見習ってほしい。
あ、もう死んでるから見習おうにも見習えないか。
「何か、おすすめの訓練方法ってありますか?」
私が聞くと、ジークさんは腕組みをしてう~んとうなった。
「一概にこれっていうのは言えねえんだよな、人それぞれタイプがあるし。ただ1つ挙げるとすれば、実戦経験は本当に大事だ」
「実戦ですか」
「そうだな。まずは、とにかく依頼をこなすこと。あるいは自分からモンスターのいそうな場所に出向いて、積極的に狩っちゃうってのもありだな。核晶さえ持ってきてくれれば、その分の金は払うから」
「なるほど」
年がら年中、自分のランクにあった依頼があるわけじゃないもんね。
自分からモンスターを探して倒すことも、強さとお金のためには必要なんだ。
「ま、思いつめることはねえよ。能力はあるんだから、それをじっくり磨いていけばいい。真面目な話はこれくらいにして、今夜は飲んで食おうや」
そう言ってコップのぶどう酒を一気飲みするジークさん。
いつの間にか、ルジーとリゼアもお酒を飲んでいる。
そういえば私、お酒って飲んだことないな。
地下牢に入れられた時には、ギリギリ飲める年齢ではなかった。
「私も、お酒飲んでみていいですか?」
「おう。飲め飲め」
ジークさんの注いでくれたぶどう酒を一口。
即座に体が反応した。
「うっ、気持ち悪い…」
「はっはっは!!リリアナの弱点は酒か!!」
もう絶対にお酒は飲まないと誓う私だった。