12話 大型新人【暗殺者】リリアナ
冒険者として働くには、冒険者ギルドに行って登録しなければならない。
冒険者ギルドは、資格がその国のみに限定される国営ギルドと、世界中どこでも冒険者として活動できる国際ギルドがある。
全くの新人である私は、国営ギルドにしか登録できない。
一定の成績を残せば、国際ギルドへの登録もできるようになる。
宿屋の主人がこの街にある冒険者ギルドの場所を教えてくれたので、早速そこへ向かった。
ちなみにルジーは何をしているかというと、執事としての経験を生かして宿屋で働いている。
働いている時が一番楽しいらしく、実際に生き生きしているようだった。
「ここか。『ウィース王国国営ギルド・ヘイリア領支部』」
看板に書かれた長ったらしい文字を確認し、私は中に入った。
正面にあるカウンターに向かい、受付嬢に声を掛ける。
「こんにちは」
「こんにちは~。どういったご用件ですか?」
「冒険者登録をお願い」
「少々お待ちくださ~い」
ゆるふわツインテでのほほんとした雰囲気の受付嬢。
私が声を掛けた時から、ずっとニコニコしている。
「こちらの紙に記入をお願いしま~す」
渡された用紙には、氏名や性別などの簡単な情報を記載するようになっている。
名前はリリアナ。あえてアルミ―の名は書かない。
性別は女で、年齢はごにょごにょ…。
「書けた」
「ありがとうございま~す。私は登録を担当させていただくリゼアです。では、こちらの石板に手をかざしていただけますか?」
「かざすとどうなるの?」
「ステータスとお持ちのスキル、適性のある職業が表示されて、冒険者としての方針を決めるのに役立ちますよ」
私はリゼアに促されて、石板に右手をかざした。
するといくつもの光の線が走り、それが文字となって私のデータを石板に刻む。
ステータス:筋力F 持久力D 俊敏さB 器用さA 知力B 気力A
スキル:【ファイアーボール】S 【ウォーターボール】S 【ヒール】C
【鎌鼬】C 【ポイズンバレット】C 【目くらまし】D
【加速】E 【忍耐】D 【造影】C 【暗視】S 【忍び足】D
【消音】S 【気配察知】S 【状況把握】S 【隠伏】S
【無詠唱】S【無動作】S
職業適性:【暗殺者】S 【狙撃手】A 【賢者】A
「な!?何ですかこれ!?」
石板を確認したリゼアが目を見開いた。
「リリアナさん、もしかして元軍人とかですか?」
「いや、全然違うけど」
「新人でこのステータスはおかしいですって!!それにスキルも!!レベルSに達しているスキルが1、2、3…9個も!?しかも有能スキルばかり!!あなたいったい何者ですか!?」
「いや、普通に旅をしてきただけなんだけど…」
正確に言えば、婚約破棄されて地下牢に放り込まれた上に王都が滅びたので逃げ出して旅をしてきただけだ。
いや、「普通に」じゃないのは自分でも分かってる。
「まあいいでしょう…。リリアナさんは大型新人です。すぐに手続きを完了させますね~」
リゼアは3枚ほど紙を取り出し、石板を見ながらあれこれ書き込み始めた。
「職業なんですが、【暗殺者】がSなので【暗殺者】でいいですか?」
「何かあんまり響きが良くないんだけど…大丈夫かな?」
暗殺と聞くとフューリの顔が浮かぶ。
決して良い印象はない。
「大丈夫だと思います。滅多に見ない激レアな職業なので、逆に人気が出ちゃうかも?」
「人気は別に出なくていいんだけどね」
「いやいや~。新人でこの能力なら、すぐ一目置かれる存在になりますよ」
会話をしながらリゼアは手を動かし続け、ついに私の冒険者カードが完成した。
「では冒険者カードをお渡しする前に、登録料として銀貨2枚をいただきま~す」
「え?」
「へ?」
銀貨2枚?聞いてないぞ?
お金あったかな…。
財布を探ると、銅貨2枚が出てきた。
元令嬢の全財産が銅貨2枚。ははっ、笑えない。
「あのさ、これじゃだめだよね」
私が全財産を差し出すと、リゼアは困った顔をした。
「一応ルールですので…。どうしましょう」
少し考えてから、リゼアはカウンターの脇にある掲示板を指差した。
「あそこからランクGもしくはFと書かれた依頼を1つ持ってきてください。それをこなしていただき、報酬を登録料に充てるということでどうでしょう?」
「あ、それいいね」
いきなり依頼に挑戦するとは思わなかったけど、お金がないから仕方がない。
私は掲示板の前に移動し、手ごろな依頼を探した。
「ゴブリン討伐、か」
目をつけたのは、ゴブリンの住処を襲って殲滅するという依頼。
ちょうどランクFだしこれにしよう。
「はい」
掲示板から紙をはがして、リゼアに渡す。
リゼアがランクを確認し、「受領済」のハンコを押した。
「この紙はそのまま地図になるので、場所が分からなくなった時に見てくださ~い。ゴブリンは下級モンスターですが、くれぐれも油断なさらないようにしてくださいね。まあ、リリアナさんなら大丈夫だと思いますが」
「ありがとう。じゃあ行ってくるよ」
「ご武運を」
リゼアに笑顔で送り出されて、私は初の依頼に向かった。