11話 これからの私は
ジズが「自分のせいで足止めしてしまうのは申し訳ない。山小屋でゆっくり回復するから先に行ってください」と言ったため、いくらかの食料をジズに渡して私たちは山を降りた。
さらにふもとの村から丸1日歩き、ついにウィース王国ヘイリア領に到着。
新たな生活の場へたどり着いた。
「長かったね」
「アン王国を出てから3週間近くが経っていますからね。これでようやく、安心して生活を始められます」
取りあえず美味しい食事が食べたい。
道中は保存食ばかりだったため、一辺倒なその味にいい加減飽きていた。
決してまずいわけではないけど、さすがに3週間同じような味のものが続くとね…。
「まずは安い宿屋を探しましょう。しばらくはそこに滞在し、お金が貯まったら家を借りるということで」
「そうね」
お金を貯める方法は、言わずもがな冒険者だ。
老人のルジーを働かせるわけにはいかないので、これからは私が稼ぎ頭になる。
「主人を冒険者として働かせて養っていただくなど、執事として不徳の致すところでございます。誠に申し訳ない」
ルジーがないやらウジウジ言っているので、私はその肩をポンポンと叩いた。
「いいのよ。私はもう令嬢でも何でもないし、あなたも別に私の執事ではない。お互いに助け合って生きていく関係。それでいいでしょ?」
「リリアナ様…」
「婚約破棄令嬢リリアナ・アルミ―はもう死んだ。これからの私は冒険者リリアナ。今から、私の新しい人生を始めるの」
「強くなられましたね…」
ルジーが涙を拭った。
「当たり前じゃない。何年あの地下牢に閉じ込められてたと思ってるのよ」
胸を張る私の姿に感動してむせび泣くルジー。
そんな彼を連れて、私はヘイリア領の中心に位置する街オインに入った。
希望の条件に適う宿屋は、意外とすぐに見つかった。
防寒着などの不要になった荷物を売ったお金で、ひとまず2部屋3日分の代金を払う。
ルジーはゆっくり部屋で休むと言うので、私は1人で街を歩いてみることにした。
「何か食べ物…」
お金はわずかに残っている。
今の私は何腹だ?
野菜や肉、パンなどを売る屋台が立ち並ぶ通りに出た。
どれもこれも美味しそうに見える。
しかし、食べたいものを全部買えるほどの余裕はもちろんない。
「これかな」
迷いに迷った末、肉をサンドしたパンを買った。
ミディアムに焼かれた肉の断面、あふれる肉汁、小麦の良い香り。
保存食ではお目にかかれない光景に、よだれがあふれてくる。
「いただきます」
広場のベンチに腰を下ろし、勢いよくかぶりついた。
「お、おいひ~」
美味しい。ただひたすらに美味しい。
考えてみれば、超久しぶりのまともな食事だ。
温かい焼き立ての肉に笑顔がこぼれる。
カサカサじゃない、ふわふわのパンに気持ちがほっとする。
美味しすぎて涙が出る。
「頑張って稼いでまた買おう」
私は久しぶりのごちそうに、この土地で頑張って生きていくことを誓った。