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天使な美女と、野獣な俺

 それは、本当に突然の出来事だった。



「好きですっ! 私と付き合って下さいっ!」



 俺は教室のど真ん中で、告白された。

 何でこんな事になったのかというと、正直よく分からない。

 色々あるようで無いような、そんな自分でも訳の分からない状況に陥っているのであった――。



 ◇



 俺の名前は、村田源蔵(むらたげんぞう)。高校二年だ。

 幼い頃から親の影響で柔道一筋で、名前のイメージ通りのゴツゴツとした熊みたいな大男だ。

 身長は186センチあり、人より付いたこの筋肉のおかげもあり学年、いや多分学校一俺はでかい。

 まぁそんな我ながら熊のような俺だけど、この身体のおかげで続けている柔道ではそれなりな成績を収める事が出来ているし、人から頼られる事も多く友達も多い。

 学校へ登校するなり、クラスメイトの男子達が俺の元へと集まってきて談笑が始まるというのが、高校生になって以降の俺の日課になっている。


 だが、この見た目のせいもあって、残念ながらこれまで彼女が出来た事なんて一度もない。

 つまり俺は、良く言う年齢イコールってやつだ。

 正直自分でも、こんな熊みたいな大男の自分なんかに彼女がいる姿なんて全く想像できないし、きっとこれからも何も無い事ぐらい分かっている。

 だから俺に出来るのは、続けてきた柔道を頑張る事、それから困っている人の役に立つ事だった。


 そういうわけで、男友達は沢山いるが女子達からの人気はからっきしな俺だけど、まぁそれなりに楽しく高校生活を送っているのであった。




「みんなおはよー!」


 男友達と談笑していると、後ろの席から可愛らしい声が聞こえてくる。

 男だらけの中、その天使のような可憐な声に集まっている男子達は一斉に振り向く。



「おはよう村中!」

「おう! おはよう村中さん!」

「おはよう! 今日も可愛いね!」


 そして男子達は、口々に後ろの席の村中さんに朝の挨拶をする。

 その光景を見ていると、もしかして皆は俺と話す以上に、後ろの席の村中さんに近付きたいだけなんじゃなかろうかと思ってしまう。

 まぁそれならそれで、皆青春してるなって感じで別にいいのだが。



「うん、みんなおはよー」


 そしてまた、後ろから天使のような声が聞こえてくる。

 男子達から一斉に返事をされた事に対しても、ニッコリと微笑みながら返事をする彼女は、もしかしたら本当に天使なんじゃないだろうかと思ってしまう程可愛かった。



 村中紬(むらなかつむぎ)さん。

 彼女のことは、一年の頃からよく知っている。

 何故なら彼女は、この学校で一番の美少女として有名だからだ。

 背は150センチちょっとだろうか、あまり高くはない。

 茶色がかった、ふんわりとウェーブのかかったロングヘアーは美しく、ぷっくりとしていて愛嬌たっぷりなその顔立ちはテレビで見る芸能人なんて比じゃない程可愛いことで有名だ。

 そして何より、彼女はさっきみたいに誰に対しても笑顔で微笑みかけてくれるため、そんな気さくで人当たりの良い彼女と一度会話をしたら最後、皆村中さんに惚れてしまうというわけだ。


 とは言っても、俺には全くもって関係の無い話だった。

 そもそも女子とほとんど会話をしたことの無い俺なんかが、学年一の美少女である村中さんに受け入れられるはずもないし、期待するだけ無駄ってやつだ。



「おはよう、村中さん」

「う、うん! おはよう村田くん! 今日もあっついねぇ!」


 だから俺は、距離感を大切にただのクラスメイトとして村中さんと挨拶を交わす。

 すると優しい村中さんは、自分の顔を手でパタパタと扇ぎながらこんな熊みたいな俺にでも平等に微笑みかけてくれた。


 俺はもう、それだけで嬉しかった。

 だからもし何か村中さんが困っている事があれば、力になってあげよう。

 こんな俺に出来るのは、そのぐらいだから――。



 ◇



「は、離してくださいっ!」


 帰り道。

 突然路地裏から、女性の声が聞こえてくる。


 その声から、ただ事ではない事を察知した俺は、後先考えず声のした方へ駆け出す。


 そして路地裏へ入ると、そこに居たのは二人の男と一人の女性だった。

 男達は女性の手首を掴みながら、逃げ道を塞ぐように二人で立ち塞がっていた。



「いやいや、俺達は普通に仲良くなりたいだけなんだって」

「そうそう、君めっちゃ可愛いから」

「だ、だったら離してくださいっ!」

「いやぁ、そしたら君逃げちゃうでしょ?」


 うん、これは確実に困っているやつだ。

 何となく今の会話で状況の分かった俺は、そんな三人の元へ歩み寄る。



「おい、お前達! その子困ってるだろ! 離してやれっ!」

「あっ? 誰だよテメ……あ、いや」


 俺が割って入ると、当然のようにつっかかってこようとする男達。

 しかし、俺の容姿を見た男達は、言葉に詰まる。

 そしてバツが悪そうな表情を浮かべると、そのまま黙って一目散に逃げ出した。


 大体こうなるのだ。

 よく漫画とかだとこのまま喧嘩に勃発するけれど、実際は俺の姿を見て相手から簡単に引いていくのだ。



「君、大丈夫だった? これからは気を付け――」

「村田くんっ!」


 とりあえず助けた女の子を安心させようと話しかけると、女の子は突然俺の胸元に抱きついて来た。

 きっと怖かったのだろう、こんなゴツゴツとした胸で良ければいくらでも貸して――ん? 今、俺の名前言わなかったか!?


 そう思い、胸元で震えてうずくまる女の子の姿をよく確認すると、それはなんと後ろの席の村中さんだった。



「む、村中さんっ!?」

「助けてくれてありがとう! 村田くんっ!」


 小さく細い腕で、ぎゅっと抱きついてくる村中さん。

 相手はまさかのクラスメイトで驚いたが、まぁそれでも怖かったのは一緒だ。

 だからやっぱり、俺は村中さんが落ち着くまで胸を貸してあげる事にした。



 ◇



「ごめんなさい……」

「いや、落ち着いたか」

「はい……」


 ようやく落ち着いた様子の村中さんは、恥ずかしそうに下を俯いていた。

 きっとクラスメイトに縋ってしまった事が、恥ずかしいのだろう。

 だけど気にする事はない、俺は誰にも言わないし、今みたいな事があって不安になるのは当たり前だからな。


 そう思うと、こうして女の子を傷つけたさっきの男達は、やっぱりちょっと懲らしめてやれば良かったかもしれないな。

 こういうのは、場合によっては一生ものの傷にだって成りかねないのだから。



「とりあえず、外はまだ明るいけど一人で出歩く時は気を付けるんだぞ?」

「うん、そうだね……」

「じゃ、じゃあ俺はそろそろ行くけど、一人で帰れるよな」


 そう言って俺が立ち去ろうとすると、制服の裾をぎゅっと掴まれる。



「む、無理! 帰れないです!」


 制服を掴んだ村中さんは、必死にそう訴えかけてきた。

 正直大丈夫そうに見えなくも無いのだが、こうして女の子が不安がっているのだ。

 だったらこのまま置いて帰れるはずも無かった。



「分かった! じゃあ家の近くまで送って行こう!」

「ほ、本当に!?」

「ああ、クラスメイトが困ってるんだ! 力になるのは、当たり前だろ?」


 安心させるように、俺はそう言って笑ってみせた。

 すると村中さんの顔が、何故だか見る見る真っ赤に染まっていく。



「お、おい! だ、大丈夫か!?」

「へ? あ、はい! 平気ですっ!」


 そ、そうか、なら良かった。

 こうして俺は、急遽村中さんを家の近くまで送って行く事になった。



 ◇



「あそこが、うちです」


 10分ぐらいだろうか、住宅街を歩いているとすぐに村中さんの自宅に到着した。



「へぇ、意外と学校から近くに住んでたんだな」

「う、うん! 家から近いから、今の高校にしたんだ」

「そうか、じゃあな! 明日からは気を付けるんだぞ!」


 まぁこれでようやく俺もお役御免だと、そう言って立ち去る事にした。

 あまりこんな所で俺なんかと立ち話していても、村中さんも会話に困っちゃうだろうからな!



「ま、待って!!」

「ん? なんだ? もう家の前だぞ?」

「その……お茶! お礼にお茶でも!」

「い、いや、それは悪いって言うかなんていうか……き、気持ちだけ受け取っておこう!」


 流石に、助けた事を理由に村中さんの家にまで上がるのは不味いだろう。

 そう思った俺は断りを入れると、そのまま逃げるようにその場を立ち去った。

 後ろから引き留めるような声が聞えた気がしたが、そもそも異性に対する耐性も無い俺には振り返る余裕は無かった。



 ◇



 翌日。

 俺はいつも通り登校すると、いつも通り今日もクラスの男子達が集まってくる。



「おはよう村田!」

「おう、おはよう!」


 そんないつも通りの挨拶を交わしながら、俺は自分の席に着く。

 そして、それから少し遅れて後ろの扉が開かれると、そのまま俺の後ろの席の椅子が引かれる音が聞こえてくる。



「みんなおはよー!」

「お、村中さんおはよー!」

「おはよう!」


 そんな村中さんに、クラスの男子達が口々に挨拶を返す。

 そしていつもだったら俺も一緒に挨拶をするのだが、昨日逃げるように帰ってしまった手前、なんだかちょっと気恥ずかしさがあって後ろを振り返れないでいた。


 ――き、気にし過ぎだよな


 そう自分に喝を入れると、俺も挨拶をすべく後ろを振り返る――。



 ギュッ



「へ?」


 しかし、後ろを振り返ろうとする俺の制服が、何故か後ろからぎゅっと握られてしまっており身動きが取れない。

 驚いた俺は、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。



「む、むむむ村田くん! き、きき昨日はありがとうございましたっ!」

「え? お、おう、気にしないでいい。それより制服――」





「好きですっ! 私と付き合って下さいっ!」




 ん?今、なんて言った?


 村中さんのまさかの一言に、静まり返る教室内。


 ノールックで突然浴びせられたその言葉の理解が及ばない俺は、思考停止してフリーズしてしまう。



「む、村田くんっ!」

「は、はいっ!」

「いきなりごめんなさいっ! でも、好きなんですっ!」

「そ、そうか!」


 村中さんの勢いに引っ張られて、俺まで勢いよく返事をしてしまう。


 いやいや、なんだこの状況――。

 とりあえず、さっきより強く制服をぎゅっと掴まれてしまっているせいで、俺は後ろの村中さんと背中越しで会話を続ける。

 そんな傍から見たら可笑しな状況で、どうやら俺はあの村中さんに告白をされた事をようやく理解する。



「と、とりあえず手を離して貰えないか?」

「手……? あ、ご、ごめんなさいっ!」


 俺の言葉でようやく気が付いた村中さんは、制服を掴んでいた手を離してくれた。

 やっと解放された俺は、気恥ずかしさを感じつつも突然告白をしてきた後ろの席の村中さんの方をようやく振り返る。


 そして振り返るとそこには、顔を真っ赤にして下を俯く村中さんの姿があった。

 その姿は控えめに言って、めちゃくちゃ可愛かった。



「えっと、昨日のお礼のつもりかな?」

「ち、違います!」

「そ、そうか。でも正直、これまでろくに会話もした事無かったけど」

「ずっと見てました!」

「み、見てた?」

「はいっ! 授業中もずっと、村田くんを見てましたっ!」


 いや、それは前の席に熊のように大きい俺が座ってるから、物理的に見たくなくても見てしまうという事では?

 なんて思ってもしまうが、きっとそうじゃないのだろう。

 それは村中さんの目を見れば、そういう意味では無いという事が伝わってきた。


 しかしじゃあ、何故俺なのか。

 こんな俺なんかより格好いい男は沢山いるし、このクラスにだって沢山いる。

 なのに、よりによってどうしてこんな俺にあの村中さんが告白してきているのか、正直未だに意味が分からなかった。


 やっぱり昨日の出来事が引き金になっているだけで、勘違いなんじゃないだろうか……。


 そんな事を考えていると、俺達のやり取りを隣で黙って見ていたクラスの男子達が口を開く。



「正直村中さんを取られるのは悔しいが……いや、マジでめちゃくちゃ悔しいが……村中さん、やっぱ可愛いだけじゃなくて見る目もあるんだな」

「そうだな! 村田に惚れたんじゃ仕方ねーよな!」

「おい村田! こんな可愛い子から告白してくれてるんだ、バシッと答えてやれよ!」


 男子達は口々に、そう言って俺と村中さんのあと押しをしてくれた。

 そんな周囲の反応に驚いているのは、俺だけじゃなく村中さんも同じだった。


 そして、男子達が俺を立ち上がらせると、それに引っ張られるように村中さんも立ち上がる。


 そしてポンと俺は背中を押されると、村中さんと至近距離で向き合う。

 俺の胸元ぐらいの高さで、村中さんは不安そうに俺の顔を見上げてくる。



「えっと、その……」

「は、はい!」

「気持ちは嬉しいんだが、なんて言うか……」


 俺のその言葉に、真っ青な表情を浮かべる村中さん。

 今の俺の言い回しから、フラれるとでも思ったのだろう。


 しかしそういう話ではないから、俺は構わず言葉を続ける。



「……まずはお互いをもっと知るべきだと思うんだ。だから、その、友達からよろしくお願いします」

「ふぇ?」

「だ、だから、友達から」


 な、なんだその反応?

 俺もどうして良いか分からず、とりあえずそっと手を差し出してみる。


 すると、ようやく言葉の意味を理解してくれた村中さんは、その小さな両手で俺の差し出す手をぎゅっと掴んでくれた。



「うんっ! 友達から、よろしくお願いしますっ!」



 満面の笑みでそう返事をする村中さんは、やはり皆の言う通り天使そのものに思えた。

 周囲を見渡すと、多くのクラスメイトは俺達の事を応援してくれているのが分かった。



「じゃ、じゃあ、改めてよろしくな。村中さん」

「うんっ! よろしくね村田くん!」


 こうして俺は、初めての異性の友達が出来た。

 相手はこの学校で一番の美少女と言われる、天使のような女の子。



「あの、ね。早速友達としてお願いがあるんだけど、いいかな?」

「お、おう。なんだ?」



「やっぱりまだ一人で帰るのは怖いから、その……一緒に、帰りませんか?」



 恥ずかしそうに、上目遣いでそんなお願いをしてくる村中さんは、正直反則級に可愛かった。

 だから、答えは勿論一つだ。



「おう、分かった!」


 指でグーポーズを作りながら、笑って返事をする。

 すると村中さんは、俺の返事に安心したようにふんわりと微笑む。

 こうして俺は、今日から村中さんと一緒に下校する事になったのであった。


 これまで恋愛経験の無い俺には、この先どうやって男女が付き合ったりするのかとかはまだ正直よく分からない。

 けれど、そういうのも全部含めて俺は、この天使のように可愛らしい彼女と共に学んでいけたらいいなと思う。


 しかし、そう思ってしまっている時点で、もう俺の中では答えは決まっているようなものなのだが、この温かい気持ちはまだそっとしまっておこうと思う。


 いつか時が来たら、その時は彼女からでは無く、俺からちゃんと伝えようと胸に誓いながら――。



きっとすぐに付き合うでしょう。

そんな二人の、ちょっとした恋のお話でした。


もし面白いと思って頂けましたら、評価頂けると嬉しいです。

評価は下の☆マークからです。


他にも色々執筆しておりますので、少しでも本作気に入ってくれた方は他の作品もよろしくお願いします!

それから、現在執筆中の「クラスのアイドル美少女が、とにかく挙動不審なんです」という作品が、この度書籍化される事が決定いたしました。

元アイドルで挙動不審な女の子のラブコメです。

レーベル等は今後発表できればと思います。

こちらの作品もまだ読まれた事が無い方がいらっしゃいましたら、良かったらよろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 拝読しました。うん。王道ですね。 お嬢さん、お逃げなさい。 あら、クマさんありがとう。って聞こえてきました(笑) [一言] 問、次の台詞に込められた想いを書きなさい。 「む、無理! 帰れ…
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