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第1章 旅の目的(5)

「さ、ノア達と交代するまで少しお話しましょ」

「ああ……まあ、それはいいが。俺はここにいて本当にいいのか?」

「ええと……どういうこと?」

「知り合ったばかりの俺をここまで信用していいのか、って話だ」



 もしもリチャードが悪人だった場合、リサは襲われて、物や金を取られる恐れだってある。特に冒険者には心や生活に余裕がない者が多く、善人面して悪事を働くものも少なくはない。


 冒険者協会も厳しく取り締まってはいるものの、拠点を持たず放浪する冒険者ばかりで対処のしようがないのが現実だ。



「うーん、普通ならそうね。でも助けてもらった恩があるし、それだけでも信頼に値するってものよ」

「……そういうものか?」

「ええ。……って格好つけて言ってみたけど、本当は盗られて困るものなんて持ってない、っていうのもあるの」



 へへ、とリサは頬を小さく掻いた。少し前、ノアは素材採取の依頼で森に来たと言っていた。こういった素材や野草の採取依頼を受ける冒険者は、あまり実績のない者達だと言われている。


 現に、魔物と戦っていた際も遅れはとっていなかったものの、決定打に欠けていた。実力がないというよりは、実戦経験が少なく模範的な戦い方しか出来ないのだろう。リチャードが助太刀に入らなければ、ノアの体力とリサとアレシアの魔力が尽き、あの場で命を失っていた。それが分かっているからこそ、ノア達はリチャードを信頼する事にしたのだ。



 リサは同じ魔道士として、リチャードと話したい事があったのだろう。ゆらゆらと揺れる小さな炎を眺めながら、小さな声で話し出した。



「リチャードって、パーティメンバーはいるの?」

「いや、いないな。というか、いた事がない」

「…………理由、は聞かないほうがいい?」



 冒険者として依頼を受けるならば最低でも三人ないし四人のパーティ単位で受けるのが基本だ。簡単な依頼でも目的地の周囲に強い魔物がいる可能性があるし、常に危険に晒されていると思って行動しなければならない。だからこそ、ノア達のようにバランスのとれたパーティを組む事が推奨されている。



 逆に――リチャードのようにパーティを組まずにいる人は、パーティを組める人が見つからないとか、そもそも一人で戦える程強いとか、あるいは性格に難があるとか、様々な理由があるものの、大多数は性格に難がありパーティが崩壊するから、だ。


 だからこそリサもパーティについて聞いてきたのだろう。



「そうだな……簡単に言えば、冒険や旅をする事が俺の本来の目的ではないから、だな」

「本来の目的……それは、歪み?」



 リチャードは「ああ」と短く答えた。



 歪みは魔界と繋がっていて、存在するだけで厄災を引き起こす。最初は小さな歪みでも、少しずつ大きくなっていき、やがてこの人間界を滅ぼせる程の魔物が出てくる。そうなる前に、リチャードは一刻も早く歪みを封じ、根本から叩かなければならない。



「冒険者をしていると、人脈が広がるだろう。そうすれば情報収集はしやすくなるし、依頼の延長線で歪みを封じられるかもしれない。ただ闇雲に探すよりも、だいぶ効率が良い」

「へえ。色々と考えてるのね」

「ああ。だが、だからといってパーティを組む訳にはいかないんだ」



 実際、今日リチャードが狩った熊の情報だって冒険者から得たものだ。協会に参加せずフリーで活動していたら、よほど幸運でもない限り、知り得なかっただろう。


 けれど、パーティを組んでしまえば、メンバーが反対する事もあるし、何より歪みの付近は魔物が出やすく動物も巨大化してしまうため危険に晒す事になる。


 だからリチャードは一人で冒険をしているのだ。



「でも協会はパーティを推奨してるでしょ?」

「何度か声は掛けられた。個人よりもパーティの方が依頼を受けやすいのも確かだしな」

「そりゃ、そうね」

「まあでも、自分で言うのもなんだが、依頼達成率は悪くないんだ。だから協会も認めてくれてる……渋々だけどな」



 単独で依頼を受けているのにも関わらず達成率が低ければ、協会の名誉や信頼にも関わってくる。


 だが、リチャードは一人でも強い。

 そしてあまりにもパーティを組めとしつこくしてリチャードが協会を脱退したとなれば、痛い損失になる。



「そうね。リックが強いのは私も分かってるわよ」

「……強い、か。俺は――――」




【mp.distance(3 , 3 , axis = me)

x = boar

FireBall = mp.fire[x , 3]


output(FireBall)】




 最後の言葉をかき消すように、リチャードは火球を生み出す。それは木々に隠れてテントを狙っていた猪の眼前にいきなり現れた。


 驚いて逃げ出した猪を火球は追いかけるが、発動者であるリチャードから3メートル離れたところで闇に溶けるように消えていった。



「……気付かなかった」



 リサが驚いたように瞬きを繰り返した。野生の猪程度ならば、テントに接近してきてからでも対応は出来るが、気付いているのにわざわざ襲われるのを待つ必要はない。


 牽制のような小さい火球で恐れをなして逃げてくれるのならば、それで良い。



「凄いわね……ありがとう」

「いや、礼を言われるほどじゃない。一人で野宿する事も多いから、探知には慣れてるんだ」

「一人で……ね。もう時間だし、二人を起こして交代しましょう」

「そうだな」



 見張り役をノアとアレシアと交代した後、すぐにリチャードは眠りについた。――朝、リチャードを起こそうとしてテントに触れたノアがFireWallを喰らったのは、また別の話だ。



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