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第1章 旅の目的(3)

 適度に開けた場所で各々テントを組み立て、ちょうど真ん中の辺りに焚き火をするための枝や葉を集めた。後は火を点けるだけなので、リチャードは点火用のコードを実装し始める。


【mp.distance(0.01 , 0.01 , axis = me)

X = branch

Fire = mp.fire[X , 0.01]

output(Fire)】


 枝に火が灯る。威力は0.01と小さめに指定したが、outputの前にそれなりの量の魔力を流した。そうすることによって、火が長い間灯ってくれるのだ。



「おっ、助かるよ」

「このくらいなんて事ない。気にしないでくれ」



 テントを張り終えたノアが肉などの食料を焼き始める。基本的に食材は現地調達となる。今日の夕飯も近場で狩った熊に決まった。



「火魔法って、やっぱり便利か?」

「まあ……時々戦闘には役立たない時もあるが、それなりに便利だな」



 火耐性を持つ魔獣は結構いる。だが、火さえ起こせれば、川から汲んだ水を沸騰させる事も出来るし、肉を焼くのだってかなり簡単になる。野宿するには火属性魔道士を連れて行けという初心者向けのガイドがある程だ。



「ノアは魔法、使えるのか?」

「いや。一応魔力はあるんだけどな、量が異常な程少ないし……剣の方がしっくり来るんだよ」

「そうか。確かに魔獣相手に遅れを取らない見事な剣技だったな」

「おお! 分かるか、リック!」



 褒められて興奮したのか、ノアはリチャードの肩をバシバシと叩いた。仮にも才ある剣士の腕力なのだから、少しは力加減をしてほしい、とリチャードは顔を引きつらせた。


 魔獣は剣などの物理攻撃に非常に強い耐性がある種族と、逆に耐性が全くない種族の二つのパターンに分かれる。ノア達が対峙していた魔獣は物理耐性特化型だったにも関わらず、魔獣の牙とまともに打ち合いが出来ていたのだから、大したものである。



「リック。ノアはすぐ調子に乗るから、あまり褒めたら駄目よ」



 同じくテントを張り終えたリサとアレシアが火を囲む。リチャードとノアが隣同士で座り、アレシアがノアと、リサがリチャードと向き合う形で座った。



「ところで、リックは何を魔力媒介にしてるの?」



 魔力媒介。それは魔法を使う者にとって、無くてはならないものだ。

 人間には魔力のある者、ない者の二種類がいるが、媒介なしに属性魔法を発動出来る者はいない。発動自体は可能だが、威力は弱く、魔力も多量に使わなければならない。


 媒介なしで属性魔法を使えるとすればそれは魔獣や魔人――すなわち魔界を住処にしている魔族である。



「私は見ての通りこのロッド、アレシアはこの本よ」

「ほ、本じゃなくて、聖書……」

「同じじゃないの?」

「全然! 全然違うよ!」



 俯き気味だったアレシアが聖書を本と言われた途端、バッと顔を上げて聖書とは何たるかを一生懸命リサに語り始めた。

 毎度の流れなのかリサはある程度聞き流しており、ノアも全く気にしていない。この国において、神を信じるか信じないかは完全に個人の自由なのだ。



「まあ、アレシアは聖書として、リックは?」


 アレシアの話が止まらなさそうだと判断したリサは、強引に話題を戻した。



「俺は、これだ」

「ふうん……珍しい形ね。見たことないわ。アレシアは?」

「……初めて見た」



 リチャードは腰に付けている白い箱を指差した。正確に言うならば、この箱は魔力媒介ではない。だが、似たようなもののため、毎度この類の質問には箱だと答えている。


 リサもアレシアも見た事がないのは、当たり前なのだ。その箱はリチャードが一から手作りしたものであり、使われている技術や発動の仕方がリサ達のロッドや聖書とは全く違うのだから。



 人間も魔族も、使える魔法は基本的に一属性のみに限られる。火属性の魔力が流れている人は火魔法を。風属性の魔力が流れている魔獣は風魔法を。自身に流れている魔力の属性しか使えない。

 ちなみに、回復魔法は聖属性だ。



「リサは確か、雷魔法だったな」

「ええ、そうよ。ちなみにノアは」

「や、やめろ! 言うな!」



 ノアは顔を真っ赤にして首を左右にブンブンと振っている。確かに数分前に一応魔力があるとは聞いたが、属性が何かまでは教えてもらっていない。


 気になってノアの方へ顔を向けるも、気まずそうに視線を逸らされてしまった。



「別に恥じることではないと思うけど」

「いや、だって! リサだって見ただろ、リックは遠距離発動が出来るくらいすげえ魔道士なんだぞ、笑われるに決まってる!」



 確かに遠距離での発動は高レベルの魔道士しか出来ないとされているから、リサも言いたいことは分かる。


 だが、世の中には魔法自体使えない人の方が多いのだ。魔力があるというだけで、羨望の眼差しで見られるという程に。



「……笑えるような属性なのか?」

「属性が、って訳ではないけど……」



 ノアは完全にそっぽを向いてしまっている。何が何でも言わない気なのだろう。


 無理に詮索はしない。ノアとリサが――――特にノアが気さくな性格のため早くも馴染んでしまっているが、本来は明日の出発までを共にするだけの間柄だ。そこまで深く関わろうとする必要もないだろう。



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