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第1章 旅の目的(1)

 リチャードが熊討伐の依頼を受けたことには、明確な理由があった。


 一つ。討伐対象がただの熊だというのにも関わらず多くの冒険者が討伐を失敗しているという事。他の熊討伐依頼はかなりの割合で達成されているのだが、この依頼だけが長らく達成されなかった。考えられるのは、熊が異常な程に強いか、あるいはただの熊ではなく魔力を持った熊――いわゆる魔獣であるのか、あるいは付近に歪みがあるからか。


 二つ。その熊が住処にしているという山の奥で不思議な空間のようなものを見かけたというもの。


 これらから推測されることはただ一つ。リチャードや他の冒険者達がいるこの世界、すなわち人間界と魔物達がいる魔界(デモンズレルム)が繋がってしまっている点――歪みといわれる現象が発生している可能性が高いということ。



 歪みが発生すると、魔力の影響を受けやすい動物は巨大化する事がある。とはいえ、もしかしたらこの熊はただ単に個体差で大きくなってしまっただけかもしれないし、不思議な空間が見えたというのは、熊に怯えて錯覚してしまっただけかもしれない。しかし、もしも本当に歪みが生じているとしたら、塞がなければならない。だからリチャードはこの依頼を受けた。


 自分の本来のやるべき事を成す為に。




 山の中を歩くこと数時間。何匹か野生の動物を見かけたが、普通の大きさに過ぎなかった。やはり歪みがあるという話は単なる錯覚だったか――そうリチャードが思いかけたところで、少し離れたところから声が聞こえてきた。焦ったように叫んでいる声と、爆発音のようなものも聞こえてくる。リチャードは声のする方へ駆け出した。



 冒険者達の姿が見えるくらいになったところで、岩の影に身を潜める。戦闘中であることは確かだが、無策で飛び出すのは愚の骨頂だ。まずは現状をしっかり分析する。



 戦っているのは、人間と――――魔獣。人間は三人、武防具と戦い方からして冒険者だろう。魔獣は一匹、犬と熊を掛け合わせたような不思議な見た目をしている。爪はそこまで大きくないものの、牙が鋭く、更に鮫の歯のように全ての歯が尖っている。噛まれたらひとたまりもないだろう。


 だが幸いなことに、目はそこまで良くないらしい。リチャードは岩に隠れているとはいえ、全身が隠れている訳ではない。並の魔獣ならばこちらにも魔法を飛ばしてくるだろうが、どうやらその気配はない。



 熊とはしっかりと対峙したが、リチャードは元より暗殺向きだ。対象に気付かれる事なく、素早く命を奪う。目や勘が悪い相手ならば、リチャードが負ける理由はない。



 腰につけている白い箱は先程起動させてからそのままにしてある。後は頭の中でコードを実装するだけだ。

 リチャードのいる位置から魔獣がいる位置まで、およそ直線にして50メートル程。左に30メートル、前に40メートルと歩けばちょうど魔獣の位置に付くだろう。だが、念の為少しだけ広めに範囲指定をする。




【mp.distance(-40 , +50 , axis = me)


X ≠ human

FireBall = mp.fire[X , 50]】



 範囲指定のマイナスやプラスは、方向を表す。横方向で言うとマイナスは左、プラスは右。縦方向で言うとマイナスは後ろ、プラスは前だ。今回は範囲を広めにとる必要があったため、前後左右の指定をした。



 対象は熊と違い未知のもののため、人間ではないもの、とした。魔獣は基本的に未知のものが多い。人間界には存在しないものなのだから当たり前だが、そのせいで特定の指定が出来ないため、慎重にやらなければならない。



 また魔獣は火などに強い場合があるので、基本的には威力を強めに設定しておかなければならない。火を浴びると回復するタイプもいるが、あの魔物は風属性の魔法しか放っていない。回復する属性と使用する属性は必ず一致しているはずなので、大丈夫だろう。



 残る問題はタイミングだ。威力を高めにしているが、リチャードはそれを集束させる方法を知らない。威力を高くすればするほど、炎も大きくなっていく。対象を人間以外に指定しているので人間に被弾してもダメージは喰らわないだろうが、驚きはするだろう。

 助太刀に来たのだから、出来れば溝を作るようなことは避けたい。



 一番魔獣の近くにいるのは、灰色の髪の男だ。手には剣を持っていて、背中に盾を背負っている。恐らく剣士という類だろう。先程から魔法を一切使っていない辺り、魔法耐性は低いと見える。


 次いで近くにいるのは黒髪の女だ。ロッドのような物を持っていて、時折不意をつくように魔法を出しているところから、魔道士と思われる。


 一番遠くにいるのは、金髪の女。本――――恐らく聖書を持っているので、回復系魔道士だろう。



 バランスがいいチームに見えるが、魔獣にはほとんどダメージを加えられていない。剣士の男はやはり魔法が苦手なのかあと一歩のところで攻撃が届かず、魔道士の魔法も魔獣の風魔法でいとも簡単に吹き消されてしまっている。



 体力が尽きて反撃を喰らうのも時間の問題だろう。早めに助太刀に入れるよう、リチャードは最後の一文を書き込む準備をした。



 何度か剣と牙でやり合った後、剣士の男が後ろに飛びのいた。その隙間を縫うように魔道士が放った魔法が魔獣に近付き、それが風で吹き飛ぶ。またか、と皆が悔しそうに表情を歪めた、その瞬間。



【output(FireBall)】



 剣士に喰いかかろうとした魔獣のすぐ後ろに、巨大な炎が現れた。

 勘の悪い魔獣が背後から迫ってきている炎に気付くも、もう遅い。それを視界に捉えた頃には、既に火が全身を覆っていた。


 炎は指定された対象が息絶えるか、リチャードが注ぎ込んだ魔力がなくならなければ消える事はない。そして案の定、魔力が切れる前に対象である魔獣が先に事切れた。


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