剣の舞の少女.一
大鳥居に茅の輪が飾られて、人々が無病息災を祈ってそれをくぐっている。夏越の大祓が近づくにつれて、街中の観光客の数も少しずつ増えている様に思われた。
貧乏神が二人並んで壁際で膝を抱えている。女の方も爺の方も詰まらなさそうな顔をして、私の方を眺めている。
私はする事がないから、煙草をくわえて煙を吐いている。
窓の外は梅雨空が広がって、雨もいくらか降っているらしい。
椿屋が息を吹き返して数日経ち、迎えに来た紀代子さんと清蔵爺さん、板長に復帰した豊貴君に連れられて、紗枝は帰って行った。座敷童子が二人になったから、椿屋は前にも増して繁盛するだろうと綾科では専らの噂である。
私の方は貧乏神が二人になった。部屋が余計に狭くなったが、他は特に変わったところがない。蹴躓いたり頭を打ったりする頻度が上がった様な気がするけれど、気のせいだと思えば気のせいだというくらいのものだから、要するに何も変わっていない。
「退屈だのう」
と爺が言った。女の方も頷いている。
「貴君たちは元々何もしやしないじゃないか」
「何を言うか。没落していく人間が苦しんでいる様を見るのがわしらの仕事だ。お主は何もない癖にちっとも苦しんでおらんから面白くない」
「趣味が悪いね」
「そういう存在なんだから仕方がない。尤も、この町の連中は信心がある分だけ普段の心がけがいい。そういう輩の所には、いくら貧乏でも儂らは入って行けん。清貧に貧乏神の出る幕はないのだ。逆に、どれだけ金があろうとも心の貧しい輩の所には入れる。むしろそういう方が儂らには遣り甲斐があって嬉しい」
よく喋る爺だと思った。
「どのみち、貴君に行く当てはないのだね」
「行く当てはそこら中にあるが、なぜだかそういう気が起きん。貧乏神からやる気を奪うとは、お主恐ろしい男だな」
「僕のせいにしなさんな。貧乏神が怠惰なのは今に始まった話ではないだろう」
「そんな事はない」
しかしながら、貧乏神が増えたせいか前よりも何かをするのが億劫である。散歩に出るのも面倒だし、くぼたにまで降りるのすらやる気が起きず、大抵は万年床に寝転がっているか、座っている。女の貧乏神の方は散歩に行きたそうにもじもじしているけれど、面倒くさいからやりたくない。
そんな風に部屋で怠けていると、夕方近くなってから誰かが扉をノックした。どうぞと言うと真田君が現れた。
「こんにちは」
「こんにちは。何か御用かね」
「いやあ、何樫さんが椿屋を助けたらしいじゃないですか。退魔師組合を助けてもらった様なものだから、礼を言いに」
そういえば、まだ退魔師組合に文句を言いに行っていない。やる気がある時に出かけて行こうと思う。
真田君は部屋で膝を抱える貧乏神たちを見てぎょっとした。
「うわ、増えてる」
「そりゃ、僕の所で引き受けちまったから当然だ」
「何か不都合がありゃしませんか。あちら、随分力が強い貧乏神みたいだけど」
真田君はぼそぼそと言ったが、貧乏神には聞こえているらしい。爺の方が自慢げに表情を緩ました。
「いろいろな事にやる気が出なくなった。何をするにも億劫だよ」
「何樫さん、何かする事があるんですか」
「ないよ」
「はあ」
真田君は思い出した様に手に持った一升瓶を差し出した。
「これ、うちからです。あと、今夜朝霧で剣舞あるんですけど、見に行きませんか。若手舞ですけど、勢いがあって中々見ものですよ」
「行ってもいい」
「じゃ七時ごろ迎えに来ます」
そういう事になった。
綾科の鬼剣舞は神楽と並ぶ有名な芸能である。鬼の面をつけ、腰に刀を差し、扇を手に踊る勇壮な舞は、神楽と違った力強さがある。
動きの違い、お囃子の調子などで種類が変わり、十種以上の型があるらしいけれど、ここでその説明をするのは面倒だから、よす。
剣舞の鬼は妖怪の鬼ではなく、不動明王が大日如来の憤怒相である様に、仏が魔を払うために化身したものであると言われている。
尤も、純然たる妖怪の鬼を模した踊りもあって、鬼瓦の様な魔を以て魔を制すという意味合いもあるが、そちらの踊りは鬼に交じって、仏が化身した猿や狐といった役柄の踊り手が交じり、荒ぶる鬼たちを鎮めて行く、という筋書きがある。
その為、巫女神楽が鎮魂、浄化の意味合いが強いのに対し、剣舞は邪気払いに退魔調伏の風が強い芸能である。季節の変わり目や節分など、物事の移り変わりの節目に舞われる事が多い。
夏越が近く、一年の半分が終わろうという節目時だから、半年の間に溜まった邪気を払うべく、剣舞もあちこちで舞われているのだろう。
真田君がくれた一升瓶を早速開けて、貧乏神と乾杯した。誰が相手でも酒が入れば楽しくない事はない。湯飲みに手酌で注いで、塩を舐めながらぐいぐいと飲んだ。貧乏神たちも何となく楽しそうに見える。
「こうして明るい所でまじまじと見ると、貴君たちは実にむさ苦しい」
「失敬な。お主も似た様なものだろう」
なぜだか物の怪の類にはいつもそんな事を言われる。
「他所の家では、貴君たちはどんな風に過ごしているの」
「気に入った所に居座るのだ。食い物を拝借する事もある。尤も、信心のない連中は儂らの姿を見ようとせんから、何をしていようと気にされんのだ。だからこそ没落させやすくなるのだが」
「綾科ではどうだ」
「人によりけりだな」
「傾向というものはあるのか」
「なくはない。しかし綾科で生まれ育った者は大体が無理だ。他所から引っ越して来た様な連中には取り憑きやすい」
綾科で育った者は、幼少時から神だの物の怪だのといった物騒なものを当たり前の存在として認識している。その様に教えられるのもあるし、実際に目の前に現れるのだから、疑いようもあるまい。
しかしながら椿屋の紀代子さんの様に、そういった存在に馴染みがなく、かつ信じようとしなかった場合は、良いも悪いも一緒くたに否定する事になる。そうなると貧乏神や疫病神みたいな仕様もない神々が寄って来るのだろう。腐った果物に虫がたかるのと同義である。
「貴君たちの様な碌でもない神は剣舞で調伏されるだろうか」
「碌でもないとは何だ。別に平気だが、そんなに好きではない」
「じゃあ留守番でもしていたまえ」
そんな風に貧乏神たちと陰気な酒盛りをしているうちに七時を回り、真田君がやって来たから、出かけた。
暮れかけた空に分厚い雲がかかって、しかし町の明かりが反射しているのか、変に明るくて不気味である。
朝霧神社は町の西側の山手の奥まった所にある。普段は無人の社で、縁日の時には綾科神社から巫女が来るが、通常は町の青年会が管理をしている。頭上に鬱蒼と木々のかぶさる暗い神社だが、却って夜などは雰囲気がある。
車の沢山停まっている駐車場から石段を上がって、鳥居の向こうに入ると、大きな銀杏の木が二本、参道を挟む様に立っていて、その奥に拝殿がある。
銀杏の木の周りの地面は苔に覆われていて、それがしっとりと湿っているから、明かりが照り返してきらきらと光っている。
電気の明かりはない。代わりにかがり火があちこちで焚かれて、それが揺れる度に集まっている人たちの顔が物の怪の様にちらちらと揺れた。
拝殿の前に五色の幕で仕切りがされていて、その前に敷かれた茣蓙の上に囃子連の連中が並んでいる。締め太鼓があり、笛があり、鉦がある。こちらも若手が揃っている様に見受けられた。
周囲の見物客は地元の人間ばかりで、観光客の姿はない。
観光用に舞う剣舞も勿論あるが、こういった邪気を払う舞などの場合は、何の告知もされずに地元民だけが知っている事が多い。観光客は容赦なくカメラでフラッシュを焚くから、神事の場合には歓迎されないのである。尤も、撮ったところでここでは無意味なのであるが。
まだ始まりには早いらしく、銘々にざわざわと雑談に興じているらしい。
脇の方に運動会なんかで使う様なテントが立っていて、そこで何か湯気の立つものを売っている。拝殿の方には名主や氏子、檀家連中が集まっている様で、幕の裏は何だか騒がしい。
「あっちに甘酒があるみたいですね。もらって来ます」
と真田君が早足で行った。
一人でぼんやりと立っていると、何となく蒸し暑い。最近はずっと持ち歩いているへらへらの手ぬぐいで汗をぬぐっていると、人影がふらりとやって来た。
「やあ、こんばんは何樫さん」
声をかけられたので見ると、在善寺の住職の立花宗次君が立っていた。
「こんばんは。貴君は見物なの」
「見物というか仕切りというか。ま、賑やかしですわいね」
「あっちに氏子だの檀家だのが集まっているんだろう。いなくていいのかね」
「どうせ後で構いますから、最初から面倒なのは嫌でしてね」
と立花君はにやにやしている。
在善寺は綾科の寺の中ではかなり古く、剣舞の本拠地でもある。不動明王を本尊とし、霊験あらたかでお祓いも確実とされて、全国から参拝者が来るらしい。
立花君はそこの住職だが、まだ三十代で、坊主の癖に髪の毛は長く、酒も生臭も食らう不良坊主である。しかしその神通力は綾科神社の神楽巫女にも比肩しうるとの噂で、普段は寺のお勤めで出て来ないが、怪異の類の面倒事が起きると、時折姿を見せて解決してくれるらしい。
剣舞の本拠地の住職だけあって彼の舞は見事だと評判だが、先代である父親の跡を継いで住職になって以来寺のお勤めが忙しく、舞の方では専ら裏方を務める事が多い様である。
寺の住職が神社の催しに顔を出すのも変な話の様であるが、元々神仏習合の風が強い綾科では珍しい話ではない。維新の頃の神仏分離政策にも表向きには従いながら、裏では同じ様なやり方を続けていたらしいから筋金入りである。
立花君は懐手をしながら私を見た。
「何樫さんの所は、また貧乏神が増えたらしいですね」
「増えたよ。在善寺にもひとつ如何かな」
「遠慮しときますよ、お不動さんに怒られます。貧乏神がかわいそうだ」
「そうか」
「しかもおたけさんが座敷童子になったそうで。また町が賑やかになりますね」
「あんなものになりたがる人の気が知れないが、まあ、そうだね」
「何樫さんは座敷童子は嫌ですか」
「座敷童子に限らず子供は好きではない」
「ははあ」
真田君が甘酒を持って戻って来た。
「ありゃ、宗次さん」
「よう慶介君。調子はどうだい」
「ぼちぼちです。檀家さんたちが捜してましたよ」
「ふぅん潮時か。じゃ、何樫さん、また」
立花君はのろのろした足取りで拝殿の方に歩いて行った。
真田君から甘酒を貰ってすする。蒸し暑い夏の頃とはいえ、梅雨時は夜になると不思議と肌寒くなるから、温かい甘酒がうまい。
やがてお囃子が鳴り出した。
ぼんやりしているから気づかなかったけれど、幕の前に八人の踊り手がしゃがんでいた。右手の扇で顔を隠すようにして、左手は腰の刀の柄にやっている。お囃子がひときわ激しくなってから、一発どんと打った。踊り手が顔を上げ、扇を前に出す。顔には鬼の面が着けられている。
「コォノヘ。エェヘ。ハァナムアァミィダァブツ」
踊りが始まった。腰を落とし、どっしりとした構えで扇を振り、頭を振る度に頭に付けた毛ザイが激しく暴れる。若手舞らしいから、確かに勢いがあって派手である。
かがり火に照らされる踊り手たちの鬼面がぎらぎらと光るし、掛け声が面越しにくぐもって異様な響きを伴うから、何だか恐ろしいものを見ている様な気分になって来た。
そのうち四人ずつ二列になっていたのが、輪を作ってぐるぐると踊り出した。そうして白面を着けた踊り手が一人、輪から外れて来た。何だか動きも妙である。およそ人間がする動きとは異なった様な、奇妙な感じがした。
「入った」
「うん」
「入ったな」
と真田君が誰かとささやき合っている。
剣舞を舞っていると、時折いつの間にか踊り手が増えていたり、あるいは踊り手に何かが憑依したりする事がある。要するに神が人の姿で交ざるか、あるいは神がかりになるのである。今回は後者らしい。
白面の踊り手は次第に大仰な動きで輪を外れ、人間とは思えぬ高さで境内を跳ね回った。
観客たちがやんやとはやし立てる。神々様を盛り上げる事は、邪気を払う事になるので、歓声を上げるのは不作法ではない。私はそういうのが苦手だから黙っている。
しかし景気よく踊っていたと思われた白面が、不意に震えたと思ったら前のめりに倒れた。
突然ごうと風が吹いて、かがり火から火の粉が舞って、あちこちに吹き流れて行く。いくらかは消えて煙を上げた。頭上にかぶさる木々の枝がざわざわと鳴り出した。
「ありゃりゃ」
「こいつはいかん」
白い着物を着た裏方組が、倒れた踊り手を助け起こして幕の裏に連れて行った。
お囃子は続き、他の踊り手たちは踊りを止めない。どうするのか思っていたら、幕の裏から袈裟を着て白面を着けたのが空いた所にするりと入って踊り出した。立花君である。流石に踊りが堂に入っていて、周囲の若手との動きの違いが顕著である。
立花君が空いた穴を埋めて、踊りは無事に済んだらしい。いつの間にか風も止んでいる。
「思わぬトラブルですね」
と真田君が私に言った。
「悪いものがとり憑いたのだろうか」
「いや、そんな筈はありませんよ。神様の動きに踊り手の方が持たなかったんです」
そういう事らしい。
剣舞にはいくつか種類があって、人数や道具、お囃子の調子などで変わる。そんな風に幾つか踊りがあって、そうして解散になった。関係者は場所を移して直会を行う様だが、私は関係者ではないので、真田君と帰った。
部屋に戻る前に、久しぶりにくぼたの暖簾をくぐると、もう人はまばらで、少しずつ片づけをしている形勢である。梓さんが「あら」と言った。
「いらっしゃい。二人して、どこかお出かけ?」
「帰って来たところ。朝霧の剣舞を見て来たんよ」
と真田君が言った。カウンターの向こうから蓮司君が顔を上げた。
「今日だったか。若手舞だっけ。どうだった?」
「よかったけど、白面が神がかりでぶっ倒れた」
「入ったの? 今日は白面誰?」
と梓さんが言った。真田君はちょっと思い出す様に視線を泳がした。
「あー、と、そうそう明日香だ」
「明日香ちゃんだったんだ。まだ高二だったよね? 若手舞とはいえ、白面取るなんて凄いじゃない」
「動きはよかったけどな。でも倒れちまったのはちょっとな。神様が少し不機嫌になったぜ」
風がごうごう吹き荒れたのはそういう事情があったのである。
中野明日香は綾科市内の高校に通う少女で、一度は綾科神社の神楽巫女になろうとしたらしかったが、神様の姿が見えなかった為断念し、以降は剣舞に邁進している。
「蓮司君たちは明日香君を知っているの」
「僕らも昔は舞やお囃子をかじっていたんですよ。梓の方が長いかな?」
「そうですね。蓮さんは徳山に入ってからは疎遠になっちゃったけど、わたしは一緒になるまで続けてたから」
「それは存じ上げなかった。それで明日香君とも見知りなのだね」
「ええ。それに、舞や囃子の直会に料理を頼まれる事もありまして、そういう時に話をしたりするんですよ」
綾科の住人同士のつながりは、案外網の目の様になっているのかも知れない。
剣舞は元来男の踊りとされていたが、昨今は男女の垣根なく誰もが舞う事が出来る。むしろ女の方が腰の入れ方がしっかりしていて、見事に舞う事も多い。
明日香はすらりと背が高くて、だから剣舞みたいな腰を落とす踊りには向かない様に思われるが、踊りのリーダー格である白面を任されるくらいだから、腕前は確かなのだろう。実際、さっきの踊りも中々のものであった様に思う。
「体力がなかったのだろうか」
「いや、そんな事ありませんよ。明日香はずっと踊りまくってますからね。一番庭から三番庭、八人加護から一人加護までぶっ通しで踊った事もあるし、たった一番でくたびれるわけありませんよ」
「しかしあんな神がかった動きでは、人間には大変なんじゃないだろうか」
「いや、倒れずに踊り切る踊り手も沢山います」
「原因が判然としないね」
「そうですね」
「朝霧さんが乗り移ったのだろうか」
「朝霧さんの神社だからあり得ますけど、あの穏やかな神様が暴れるかなあ? 多分他の神様だと思うんですけど」
「そうかね」
考えてみたが、よく解らない。真田君も首をひねっている。退魔が本職の彼にも解らないらしい。しかし解らなくたっていい。
蓮司君がお銚子を出してくれて、久しぶりにくぼたで飲んでいるうちにそんな事はすっかり忘れてしまった。
そうして部屋に戻って、もらった焼き味噌をくれてやったら、貧乏神どもは嬉しそうにそれをちまちまと舐めた。
「焼き味噌までもらえるとは、変な所だな、ここは」
「他所じゃもらえないのか」
「勝手に失敬する事はあるが、わざわざ供えてくれる事はない」
「そうか」
まだ余っていた一升瓶の酒をまた茶碗に注いで、焼き味噌を肴に二次会と相成った。
貧乏神はする事が貧乏くさいので、何事も少しずつ、けち臭く消費する。見ていてくさくさするけれど、貧乏神を住まわせている因果と諦めた。
「剣舞はどうだったのだ」
「勢いがあった。気になるなら一緒に来ればよかったではないか」
「そういう意図ではない。話は酒の肴と言うではないか。黙々と飲むだけでは面白くない」
それはそうかも知れない。女の貧乏神は基本的に無口で、一人でじっとしているのが好きな様だけれど、爺の方は喋るのが好きらしい。貧乏神も色々だと思った。
「貴君は剣舞を見た事はないの」
「あるともさ。あちこちで舞うんだから、見ない筈がない」
「そんならやっぱり調伏されるわけではないのだな」
「そう言ったではないか。まあ、怒られている様であまりいい気はしないが」
「神がかりになった所は見た事があるかね」
「無論だ。しかしああいう神はこっちをぎろりと睨んで威圧しにかかるから気に食わん。人間の守護者を気取りよってからに。しかし人のふりをして踊りに交ざる神の方はまだいい。連中はただ楽しみに来ているから、見ていても気が楽だ」
さっきも言ったけれど、かがり火だけの薄暗い場所で踊っていたりすると、いつの間にか踊り手の数が増えているという事がある。これは剣舞に人のふりをした神々が交ざっているのである。先ほどの様に踊り手に乗り移る方と、どういう違いで変えているのかと思ったが、どうやら宿る神の性質に違いがあるらしい。
「では、自分勝手に踊りたい陽気な神々は人のふりをして、退魔をつかさどる様な荒々しい神は踊り手に乗り移るという事か」
「陽気に踊りたい神も人に乗り移って踊る事もあるし、逆も然りだ。要するに必ずしもそうであるとは限らないが、おおむねそういった理解でよろしい」
「では今日宿ったのは荒神の方だったのかな」
「そんなら行かなくて正解だった。連中は名前の通り荒っぽいから好かん」
どうも乗り移ったのは朝霧さんではないらしい。それは解ったけれど、ではどんな神であったかは解らない。解らないけれど、別に解らなくたっていい。そんな話をしたのも、爺が言うように酒の席での肴に過ぎないのであって、それで問題を解決しようだとか、そんなつもりは毛頭ない。
いい加減で眠くなったのでお開きにして、寝た。