鎌コンビ
紅雲さんと蒼波さんの話を聞いて私は理解できた。
そりゃ身体を動かして武器を扱う戦闘のコツが分からないはずだよ。
だって両手鎌と鎖鎌だもの。
両手鎌ってヨーロッパの草刈り鎌だよ?死神が持ってる鎌。
それに鎖鎌って日本の片手用の鎌の柄に鎖な付いててその先に鉄の重りが付いてるあれだよ?
鎌の刃の先で突き刺す以外の使い方が分からないもの。
剣とか槍とかなら何となく使い方が分かるけど両手鎌とか鎖鎌ってVRMMOで自ら身体を動かして扱うには地雷武器だと思うの。
「忍者ってローブ着てたってけ?」
「それよりも忍者って鎖鎌のイメージが無いかも」
私が頭の中でツッコミを入れてるとヒルデとサンドラが別の方向からツッコミを入れた。
「せっかくだから使ってる人が少ない武器が良いと思って・・・」
蒼波さんが自嘲気味に話す。
あぁ、この人達はあれだ、格闘ゲームとかで人気の無いキャラクターを使うタイプの人達だ。
「えっと、それじゃ王都のまわりで軽く戦闘を見せれば良い?」
2人のキャラが分かってきたせいか、ついつい口調が砕けた感じになってしまう。
「はい。お願いします」
「お願いします」
[日陰屋]のおっちゃんに挨拶をして店を出る。
東の城門に向かう道すがら5人で雑談をする。
「そう言えば初心者用鎖鎌なんて売ってたんだねぇ」
「はい。店主さんがまだ武器スキルを獲得してないなら複合武器ってのもあるよと教えてくれたんです」
「それで紅雲が鎖鎌が良いと言い出したので、せっかくだから私も鎌系の武器にしようと両手鎌を選んだんです」
「ん・・・本当ならそういう変わった武器の使い方は南の第2の街にある訓練場で習うと良いんだけどね・・・」
私の頭には訓練場のナバロさんが頭に浮かんだ。
あの人ならどんな武器でも扱い方や立ち回り方を教えて貰える。
私も棍や棍棒の扱い方を教えて貰ったし、ヒルデやサンドラもお世話になった。
「でも、いきなり第2の街まで行くのはハードル高くない?」
「そう?乗合馬車があるから行けるんじゃない?」
「乗合馬車の料金と訓練場の料金を払ったら、一気に金欠じゃない?テントやランプだって買わないと駄目だし」
紅雲さんと蒼波さんそっちのけで私たち3人があれこれ話し合ってしまう。
「あ、あの・・・私たちは戦闘を見せて貰えればそれで・・・」
蒼波さんが困ったように私たちの会話を止める。
「あ、2人とも敬語は止めませんか?私たち年齢の近いみたいですし」
ヒルデが提案する。
「そうですか?いきなり馴れ馴れしいかと思ったんですけど良いんですか?」
「私たちも敬語で話すと疲れるのでもし良かったら、普通に話す感じで話したいなと」
サンドラもヒルデに賛同する。
「分かりました。それでは普段話してる感じでお願いします」
蒼波さんがヒルデの提案を受け入れるがまだ半分ぐらい敬語混じりの言葉になってる。
敬語使ってたのにいきなりタメ口とか難しいよね。
城門をくぐり原っぱに出ると狩りをしてるプレーヤーが多くいる。
仕方が無いので街道を先に進みプレーヤーが減ったのを確認して街道を外れ草原の中に入っていく。
今回は王都の近くなので魔物も弱いので私たちはアインとラメド、シエロを召喚してない。
少し進むと浮遊するクラゲを発見した。
「いたよ!!全部で5匹かな。それじゃ見ててね」
私たち3人が武器を持ち構える。
「ウインドボール!!」
私が浮遊クラゲの1匹に魔法を撃ち込むと、一撃でクラゲは光に変わる。
他のクラゲが私たちに気付き近付いてくる。
サンドラが大盾を構え浮遊クラゲの触手攻撃を受け止める。
そこを横からヒルデが片手剣で斬りつけ倒す。
「ウォーターボール!!」
再び私が魔法を撃ち込み、ヒルデが斬りつけ、最後にサンドラが両手斧を振り下ろし最後のクラゲを倒して戦闘は終了する。
「魔物が私たちのスキルレベルに合ってないから、サクッと倒しちゃったけど私たちは基本的にはこんな感じの戦い方をしてるよ?」
「魔法でダメージ与える事から始まって、私が攻撃を受けて、その隙を付いて攻撃して倒す感じ」
サンドラが2人に説明する。
「あまりにもサクッと倒しちゃったからビックリした」
「第1陣の人との差って凄いあるのね」
蒼波さんと紅雲さんは私たちの戦闘を見て呆気に取られてる。
「どうする?もう1戦見てみる?」
「えっと、次に見付けた魔物の数が少なかったら私たちが戦って良いんですか?数が多かったら3人が戦って戦い方を見せて貰う感じで」
「うん。了解」
膝まである草原の草をかき分けて進むと今度は動く切株を発見。数は2匹。
「それじゃ私たちが戦うね」
まだ敬語とタメ語が混在してる蒼波さんが宣言する。
「紅雲、行くよ?」
「いいよ!!」
「ダークスピア!!」
蒼波が魔法を放つと、紅雲が走り寄り鎖鎌の鎌の方を投擲する。
動く切株に鎌が突き刺さり、紅雲が鎖を引っ張り動く切株を引き寄せる。
そこに蒼波が両手鎌を振り下ろすと動く切株は光と変わる。
しかしその隙にもう一匹の方の動く切株が根っ子を鞭のようにしならせ紅雲を打ち据える。
「紅雲!!」
蒼波が両手鎌をスイングし動く切株を牽制すと、咄嗟にヒルデが回復魔法を飛ばし、紅雲を回復させる。
「ありがと!!」
紅雲は2人に御礼を言うと、戦闘を仕切り直す。
「ダークスピア!!」
蒼波の魔法に続き、紅雲は今度は鎖鎌の分銅の方を投げ付ける。
そしてそのまま動く切株に近付き鎌を振り下ろす。
さらに蒼波が両手鎌を振り下ろし戦闘は終了する。
「う~ん、やっぱり上手くいかない・・・」
紅雲が今の戦闘を振り返りボヤく。
「【服】スキルは耐久力が上がらないからレベルの低い内は大変だよね。他のスキル編成によってはステータスが低くて2発攻撃を喰らうと死んじゃう可能性があるから」
「そうなんです。パーティの人数が多いなら何とかなりそうなんですけど2人で戦うとそこが上手くいかなくて」
「う~ん、【服】スキルのレベルが上がると回避力が上がる気がするから、そうなればギリギリで横っ飛びで避けられるようになるよ?」
「そんな除け方はエリザぐらいじゃない?普通はもう少しスマートに避けるもの。それより最初は野良パーティに参加するのも良いかも?」
野良パーティに殆ど参加した事がないサンドラが野良パーティを勧める。
「蒼波ちゃんは魔法と両手鎌での攻撃と遠近が揃ってるから蒼波ちゃんがアタッカーで、紅雲ちゃんが回避盾みたいな感じで攻撃メインじゃなく、敵を引き付けるのをメインとして立ち回った方が良いかも?」
ヒルデ、なんでアドバイスが疑問系なのさ?
「あとはエリザみたいに壁役の従魔を手に入れるとか?」
「確かに2人で壁役と回復役の従魔を仕入れて6人パーティだと安定するかも?」
「それだと経験値効率が落ちるから大変でしょ?しかも始めたばっかりだとスキルポイント足りなくて従魔にスキル覚えさせる余裕無いし」
「あ、私たちスキルポイントはもう残ってない・・・」
蒼波が申し訳なさそうに話す。
「えっ?そうなの?2日目でスキルポイントを全部使うとか思い切りが良いね?ヒルデなんてずっと5ポイント残してたんだよ?」
「掲示板情報で【採取】【採掘】【伐採】【発見】【収納術】スキルを取ってフィールドでアイテム採取すると序盤の金欠が改善するって書いてあったから取ったの。昨日試したけど薬草とか石灰石とか手に入って売れたよ」
なるほど・・・序盤の攻略の正解はそれだったのか。
私たちはテントと弁当を買ってログアウトポイントに長期滞在して凌いでたからなぁ・・・。
んっ?金策の為には採取系のスキルを取って採取しまくれば良いお金稼ぎになるのかな?
「それじゃ次の戦闘に行ってみようか」
なぜか人に教えるのが楽しくてその日は夕方まで2人の戦闘訓練に付き合った。