ナンパ再び
[馬耳亭]の食堂で遅い朝食を食べて外へ出る。
[馬耳亭]の前を通る王都のメインストリートは第3陣プレーヤーが大勢歩いてる。
「うわ・・・私、人混みは苦手なんだよね」
ヒルデが人混みを見てウンザリしてる。
いや、さっき部屋の窓から通りを見て混んでるのは分かってたじゃん・・・。
「・・・私たちも服を初期服に着替えて歩けば浮かないかな?」
2人に提案してみる。
「エリザ、それに何の意味があるの?」
「えっと・・・第3陣プレーヤーごっこ?誰かクランやパーティに誘ってくれるかもよ?」
「なるほど。しつこいクラン勧誘のプレーヤーにわざと絡まれて、ふっふっふっ残念だったな私たちは第1陣だ・・・と撃退する訳ね?」
「エリザもサンドラも掲示板で晒されそうな事は止めてよ?それじゃなくても言い掛かりみたいな理由で晒しする人が居たりするんだから」
ヒルデは色んな掲示板を見てるようでそう言う事には敏感だ。
「すいません、ちょっと良いですか?」
私たちが馬鹿な会話をしていると突然声を掛けられた。
えっ、初期服を着てないのに勧誘?
一瞬そう思って振り返ると相手は初期服を着た2人組の女性だった。
赤い髪のベリーショートで小柄な人と、青い髪でボブヘアーのスラッとした人。
「はい?なんですか?」
「あの・・・皆さんは3陣のプレーヤーではないですよね?」
「えぇ、違いますけど・・・」
質問の意図が分からず混乱する。
「あの、王都でお勧めのお店とかあったら教えて貰えますか?」
「はい?」
想像してない質問にビックリする。
「えっと、どんな店が知りたいんですか?」
戸惑う私を見てサンドラが助け船を出してくれる。
「一応掲示板を見て予習はしてきたんですけど、掲示板に書いてある店はどこも混んでて、穴場的なお店があれば教えて貰えないかと思いまして」
「あ、武器屋と道具屋を教えて貰えると嬉しいです!!」
声を掛けてきた赤い髪の女の子が事情を話し、もう1人の青い髪の女の子がサンドラの質問に答える。
「それはプレーヤーの店でもNPCの店でもどちらでも良いんですか?」
そんな質問されても私たちが王都で知ってる店なんて殆ど無い。
他の街でも無いけど。と言うか北の街とか東の街には行った事すらない。
・・・私たちはこのゲームで1ヶ月以上も何をやってたんだろう?
「あ、掲示板ではプレーヤーの店の方が安くて良い装備が手に入ると書いてあったんでプレーヤーの店の方が良いです」
となるとヤットさんと丹奈さんの[金仁屋]か、魔法使い装備や付与装備を作ってるジャネットさんの[七芒星]かな?
でもあそこ良い値段するんだよな・・・初心者に紹介し難い。
「あ・・・最初は初心者装備の方が経済的に楽ですよ?初心者装備は耐久値が減りませんから耐久値回復にお金を使わず済みますから」
サンドラが初心者装備を勧める。
「そうなんですか?掲示板にはそんな事は書いて無かったんですが・・・」
「あっ、私それ見た気がする」
赤い髪の人と青い髪の人で反応が違う。
「もしNPCの店で良いなら穴場の店を教えますよ?私たちが今でも利用してるお店なんですが」
「はい。よろしくお願いします」
「お願いします」
2人が頭を下げてくる。
そしてこの間、ヒルデは一言も声を発せず私たちの後で様子を覗ってる。
まぁ、黙ってればヒルデの見た目は清楚なお姫様なので違和感は無いんだけど。
「それじゃ直ぐそこなので案内しますよ」
サンドラがサラッと発言する。
えっ?そこまでするの?場所を教えるだけじゃないんだ?
「えっ?良いんですか?」
ほら、相手も戸惑ってる。
何を考えてるんだろ?サンドラ。
それから私たちは彼女達を[日陰屋]に案内する道すがらお互いの自己紹介をする。
赤い髪の方は紅雲さん、青い髪の方は蒼波さん。
2人とも同じ高校に通う同級生らしい。
うん。私たちと被ってる。サンドラと紅雲さんは髪まで被ってる。
簡単な自己紹介を終えると丁度[日陰屋]に到着した。
「・・・ここですか?」
紅雲さんが店を見て少し戸惑う。
それもそのはず、これだけ第3陣プレーヤーが彷徨いてる今の王都で[日陰屋]には客がいる気配が全くない。
経営は本当に大丈夫なんだろうか?この店は。
まぁ、ゲームで店が潰れたとかあまり聞かないけど。
「そうここです。穴場なんですよ?店主のおっちゃんは相談すると色々と教えてくれるし」
さっそく店に入るとおっちゃんは店のカウンターに座って店番してた。
「あれ?嬢ちゃんたち、まだ装備のメンテナンスは終わって無いぞ?」
「はい。今日はお客さんを連れて来たんですよ」
紅雲さんと蒼波さんを紹介する。
「はい、よろしく。それで何が欲しいんだい?」
「えっとそれを迷ってまして・・・」
おっちゃんと紅雲さん蒼波さんの話が始まってしまう。
このまま私たちが一緒に居ても意味が無いので別れの挨拶をする。
「あの、それじゃ私たちはこれで帰ります」
「あ、あの私たちとフレンドコード交換して貰えますか?」
蒼波さんが提案してきたのでフレンドコードを交換する。
ん・・・何人かのプレーヤーとフレンドコードを交換したけど、連絡なんで取り合わないんだよね。
私は特に野良パーティとか参加しないし。
「さて、どうしよう?装備がない事には狩りも王都も離れる事が出来ないけど」
「それじゃ、喫茶店でお茶しながら今後の方針の話をしようよ?まだ決まってなくて有耶無耶になったまんまだよ?」
ヒルデが提案してくる。
「あれ?ゴーレム狩りするんじゃなかった?」
「えぇ・・・エリザがそれを言う?アンタがそれは罠だって反対したんじゃないの?」
「ちょっとそんな事は言ってないでしょ?シルバーゴーレムやゴールドゴーレムを期待するのは罠だって言っただけだよ?アイアンゴーレムやブロンズゴーレムのドロップアイテムは高く売れるんでしょ?」
「私もゴーレム狩りで良いと思うよ?私も鎚を使ってるし、エリザもメイスでしょ?刃物武器よりは狩り易そうだし」
サンドラもゴーレム狩りに賛成する。
「えぇ・・・じゃ喫茶店は行かない?」
「いや、それは行く。だって今日は他にやる事が無いんだもの。久しぶりにホットケーキ食べたい」
「ホットケーキ好きだよねぇ?エリザ」
「ん・・・と言うかメイプルシロップが好きなんだけどリアルじゃ高くてお小遣いガリガリ削られるんだよね」
「ハチミツで良いんじゃないの?」
「もう、ヒルデは初心者だね。ハチミツとメイプルシロップではホットケーキへの染み込み方が全然違うのよ?それにバターとの相性はメイプルシロップの方が上だから」
「他人の拘りって端からみると理解不能だったり、どうでも良いよねぇ」
ヒルデだけじゃなくサンドラまでハチミツもメイプルシロップの差を理解できない凡人だったとは。
「良いの。私が納得出来れば。ホットケーキにはバターとメイプルシロップ、それにメロンフロートが至高のセットなの。喫茶店の定番なの」
「えっ、王道はイチゴのショートケーキにコーヒーか紅茶じゃないの?」
「本当、他人の拘りって理解できないよね。どうでもいいから喫茶店に行こう」
その日、私たちは喫茶店に入り取り留めない話をして楽しんだ。
因みにサンドラはチョコパフェとコーヒー、ヒルデはフルーツタルトにハーブティーを注文してた。
ヒルデの中ではティープレスが今のお気に入りらしい。
確かにティープレスは田舎者の私からしたら上流階級の道具って感じがする。
ヨーロッパの庭園のお茶会で使ってそう。
やってる事は一緒でも急須とは感じる印象が違うよねぇ。