家を見て見よう
「では、さっそく私たちの家を見に行こうよ!!」
待ちきれないとばかりにヒルデが提案する。
「でも、もう暗くなるよ?一旦ログアウトして仕切り直しした方が良いんじゃない?」
「ちょっと待ってサンドラ。家を買ったのに宿屋に泊まるの?」
「そうだよ?早く見に行こうよ?こんな話してる時間が無駄だよ!!」
「え・・・でも家の場所がよく分からないから、
暗くなるまで迷った挙げ句に泊まれずにまだ宿屋まで戻るとかに成ったら二度手間じゃない?」
「いや、家と言ってもログアウトするだけでしょ?あ、でもそもそも私たち家の場所が分からないね」
「「あっ・・・」」
結局、その日は宿屋に泊まった。
翌日、商業ギルドのグラムさんを訪ねて家までの道のりを地図に書いて貰った。
「すいません。地図まで書いて貰って」
「いえいえ、簡単な地図ですから。それにしても実際の家を見ずに買ったんですね・・・」
グラムさんが私たちを残念な人を見るような目でみてる。
「えぇ、まぁ。チャンスの神様は前髪しがない。思い立ったが吉日だと騒ぐやつが居たので、その勢いで」
「いやいや家を衝動買い出来るほど稼いでるのが羨ましいですよ。私はしがない宮仕えですから」
グラムさんに御礼を言って別れマイハウス・・・いやクランハウスへと向かう。
村の中心部が次第に遠離り、分かれ道を細い道へと進む。
馬車がすれ違える幅の道から馬車1台がやっと通れる幅の道に。
更に進むと馬車では通れない幅、人が2人並んで通れるぐらいの道に・・・。
「ねぇ、地図を見てるマッパーさん。この道で合ってるの?かれこれ1時間以上は歩いてるんだけど?」
「そうよ?エリザ。迷ったなら早めにごめんなさいした方が良いよ?」
ヒルデとサンドラが私を責めてくる。
「いやいや、地図の通りに歩いてるから!!見てよ?この地図。間違う要素が無いでしょ?それにあのおじいちゃんは中心部から少し外れてるって言ってたじゃない!!」
「えぇ・・・本当に?この道であってるの?」
「確かに中心部から外れてはいるよねぇ。と言うかまだ村の敷地内かちょっと疑問が出るレベル」
人が2人並んで歩ける程度の道の両脇は雑木林になっている。。
まわりに民家は無く、目隠しをされてここまで連れて来られてこの景色を見せられたらここは森や山の中と思うレベル。
「まぁ、村の外れの一軒家なのかもね」
「確か静かで良いところって言ってたものね」
更に結構な時間をかけ道を進んで行くと道にロープが張られていて看板が立っている。
『この先、プライベートエリア。無断侵入は出来ません』
看板にはそう書かれていた。
「あ、着いたかも!!ここから先が私たち『魔女の庵』のクランハウスのエリアだよ。きっと」
ヒルデが声を上げ、嬉々としてロープを跨ぎ中に入る。
「ヒルデが入れたと言う事は、ここからが私たちのプライベートエリアなんだろうねぇ。でも・・・家が見当たらないよね?」
まわりを見渡しても見えるのは獣道のような細い道と、一面に生えてる針葉樹の森だけ。
「ん・・・木が邪魔で見えないだけじゃない?土地自体は結構広いって言ってたし」
道中から感じてたが嫌な予感が更に増大する。
もう家と言うよりは別荘と言った方が良い感じの立地になってる。
「エリザ!!サンドラ!!ちょっと来て!!早く!!」
遠くからヒルデの声が聞こえる。
私とサンドラがヒルデの声がする方へ行ってみると、そこには別荘と言うよりは山小屋とか炭焼き小屋と言った方が適切であろう小屋が1つ建っていた。
小屋は見るからに作られてからかなりの年月を感じる見た目だ。
「ね、ねぇ・・・ここ?」
私がヒルデに質問する。
ヒルデは答えない。
「これ、掘っ立て小屋とかって言うやつだよね?」
サンドラがボソッと呟く。
「と、とりあえずもう少し見て回ってみよ。土地自体は広いんだから。他にも建物があるかも知れないし、この小屋の中を見るのは最後にしよう、ね?」
ヒルデが現実から逃避するように家を探そうと促す。
「そうだね。どっちにしても敷地内の把握は必要かも」
3人でまとまって敷地内を歩く。
人が歩いて押し固められて出来た幅50センチぐらいの獣道が出来ていたのでその道を辿り敷地内を歩く。
「ここは畑だったんだね。3反歩以上は軽くあるよこれ?」
ふと音がするのに気が付き、そちらの方へ行くと少し斜面を下った所に小川が流れているのを発見した。
「ここから水を汲んで畑に撒いてたのかな?」
「飲み水もここから?」
「さぁ・・・でも、もしかしたら釣りは出来るかもよ?」
「自宅の庭で釣りか・・・私、老後はこう言う田舎でまったりとスローライフおくりたいな・・・」
「大丈夫だよ?リアルのエリザの家もこんな感じだから」
「ひっどい!!と言うかあんたらも同じ環境で育ってきたんだからね!!」
私とヒルデで相手の地元を馬鹿にするとそのまま自分の地元を貶す事になる自爆テロのような軽口を交わしていると、まわりを見渡していたサンドラが私たちを現実に戻す。
「ねぇ、やっぱり家はあの掘っ立て小屋みたいだね?」
「あの掘っ立て小屋に400万マニ・・・しかもここは村はずれの僻地・・・」
「あ、私こういう状況にピッタリの言葉が思い付いた」
「な、なんて言うのよ?」
「原野商法の被害者」
「・・・」
「ば、馬鹿ね?サンドラ。今はスローライフが流行ってるのよ?キャンプやる為だけに山を買う人だって多くいるってこの間テレビでやってたもの!!」
半ば悲鳴に近いヒルデの声が山に響いた。
「ねぇそう言うのは良いから、小屋の中を覗いてみましょうよ?」
「そうよね。見た目は小さな掘っ立て小屋でもそれはカモフラージュで、中は地下に近代的な生活空間がある可能性だってあるんだから!!」
「いや、無いでしょ?何からカモフラージュするのよ?許可した人しか入って来れないプライベートエリアで」
「・・・ねぇ、知ってる?シュレディンガーの猫ってのが合ってね。その目で確認するまでは可能性は0じゃ無いって話が」
「シュレディンガーの猫ってそんな話だったっけ?」
「エリザ、こう言う時のヒルデには構っちゃ駄目。ヒルデもいい加減に現実に帰って来なよ・・・」
「ここはVR内だから非現実だもの・・・」
まだヒルデが何か言ってるがサンドラに怒られるのでスルーする。
掘っ立て小屋の中は、玄関を開けると6畳ぐらいの土間があって、その奥に1段高くなってる板張りの6部屋があり、更に奥にもう一部屋ある簡素な作りだった。
掘っ立て小屋の裏手側にはキャンプ場にある炊飯場のような作りの小さな炊事場があり井戸も掘られていた。
「ちょうど3部屋あるから部屋割りしようか?私とアインとラメドは1番奥の部屋を使うから、あとはサンドラとヒルデで話し合って」
私が宣言する。
「ん・・・それじゃ私とシエロは手前の板張りの部屋を使うから、ヒルデは土間で良いよね?」
私に続きサンドラも宣言する。
「ちょっと待ってよ!!なんで私が土間なの?土間で寝るっておかしいでしょ!!2部屋をみんなでシェアするのが普通でしょ!?」
ヒルデは抗議してくる。
「今回の衝動買いを率先してたのはヒルデでしょ?何が運命の神様は前髪しかないよ?その神様、運命の神様じゃなく貧乏神だったじゃないの!!」
「えぇ!?エリザだって最終的には賛成しただじゃないの?」
「したよ?1人だけゴネてる面倒臭い人扱いされた後にね?」
「まぁまぁ、2人とも喧嘩しないの。買っちゃったものは仕方がないじゃない。エリザはそんなにヒルデを責めないで上げてよ。ヒルデだってこれに懲りて衝動買いは控えるだろうし。ね?そうだよねヒルデ」
サンドラはサラッとヒルデに全ての責任を押し付け自分は仲裁役を演じる。
いや、あんたも乗り気だったの私は覚えてるからね。
「それにね、これだけ広大な土地を400万マニで手に入れられたのはお得だと思うのよ?シエロだって好きに飛び回れるだろうし、アインやラメドも駆け回れるでしょ?」
「それはそうだけど・・・」
「でしょ?エリザ、私に感謝してね?」
開き直ったヒルデが恩着せがましい。
「家はどうするのよ?これ」
「そこはそれ、建て直すかリフォームすれば良いんじゃない?」
サンドラが思いもよらない事を言い出した。




