帰ってきた日常
目が覚める感覚で意識を取り戻すと、自室のベッドの上だった。
「おぉ、ちゃんとログアウトできた・・・」
そんな独り言を言いつつ、VRのヘルメットを脱ぐ。
そして手袋を脱ぎ、首に巻かれたマジックテープを剥がして肩当ても脱ぐ。
ベッドから降りると床擦れ防止用のエアマットの稼働スイッチを切る。
地味に電気料金が掛かりそう。
ま、そこはお父さんに頑張って貰おう。
なにせ月額料金の2700円は自分で払ってるんだから、電気料金は知らん振りして甘えよう。
壁掛けの時計と見ると時間はPM4:46。
あれ?もう少し遊べたかも?
ゲームの中では6時間ちょっと過ごして外も暗くなってたのに窓から外を見るとまだ明るい。
時間も1時間半ぐらいしか経ってない。
「これは感覚が狂うわ・・・健康に害はないのかな?」
とりあえず凜と祐奈に
『ログアウトできた!!デスゲームじゃなかった!!』
とメッセージを送っておく。
そんな事をしてから家の手伝いをする。
家のお風呂のお湯を抜いて浴槽を洗い、それが終わったら、外で飼ってる番犬の助六の散歩に行く。
散歩から帰って水と餌をあげてから、茶の間でだらだらとテレビを見てたらFEOがニュースで取り上げられ担当者?広報の人?がインタビューに答えてた。
「FEOは今までのゲームみたいに『敵を倒して強くなり魔王を倒す』そう言うゲームではありません」
「そうなんですか?」
「はい。街を歩いてウインドショッピングをしたり、喫茶店で友達とお茶をして楽しんだり、自分で自由に設計した家を建てたり、畑を買って農業をしたり、好きなペットを飼ったり考えられる事はだいたい出来るようになっています」
「へぇ、凄いですね。空も飛べたりもするんですか?」
「い、いや・・・空は飛べないですが・・・海や川で泳いだりは出来ますよ?もちろんリアルとは違って安全です」
「そうですよね。人は空は飛べないですよね(笑)でも安全に水遊びが出来ると言うのは子供を持つ親としては安心ですね。毎年水の事故がありますからね」
「それにゲーム内では、味も香りも食感すら現実そのままの料理が食べられます。それでいて太らない。普段ダイエットしてる女性の方にもお勧めです」
「それは魅力的ですね」
「はい。月額料金2700円。税込みでも1日約100円で余暇時間が4倍になります。皆さんFEOをよろしくお願いします」
・・・。
言ってる事は正しいんだろうけど、ゲーム内で好き勝手に遊ぶ為のお金を稼がないと駄目なのは一切触れなかったな・・・。
甘い話には落とし穴があるのに。
1日100円払って馬小屋生活になる可能性もあるのに。
あ、初期費用の話もしてなかったな・・・。
それに初回生産分はほぼ売り切れてるはず。
ネットの転売サイトには幾つか残ってるかも知れないけど。
そんな事を考えてると夕飯の時間になったので家族でご飯を食べて、その後お風呂に入る。
そんなこんなでログインを約束したPM8:00近くになった。
少し早いけどゲームにログインする。
視界が真っ白な光に包まれて、それがガラスの様に砕け散る。
そこは宿屋のベッドの上だった。
隣のベッドには凜・・・じゃなかったヒルデがまだ寝てる。ログインしてないとこんな感じなのか。
これでは変な場所でログアウトしたら悪戯されそうだ。
・・・そう悪戯が出来そうだね。
ヒルデに悪戯しようと身を乗り出すと後から声をかけられた。
「葵、何してるの?」
後を振り返ると窓際に座って外を眺めてたっぽいサンドラがこっちを見てる。
「ん?あ・・・死体の様に寝てるんだなと思って。それとゲーム内でリアルの名前を呼ぶのはマナー違反だよ?祐奈」
「あ、ごめんごめん。使い分けが難しいね」
「私も早めにログインしたけどサンドラはいつからログインしてるの?」
「10分前行動が基本かなと思って8時になる10分前にログインしたんだけどさ。こっちで40分も待つ事になっちゃった」
「時間の流れがが4倍違うからねぇ。それでずっとボーッとしてたの?」
「うん。窓から通りを歩く人たちを眺めてたんだけど、初心者装備じゃないっぽい人たちが結構歩いてたよ。あと緑の初期服のままの人たちも」
窓の外を見ると街は夜が明け朝だった。
荷物を運んだり、仕事に行くのかNPCらしいキャラが多く歩いてる。
その中にチラホラとプレーヤーっぽい装備を着た人が歩いてたり、初期服を来てキョロキョロしてる人たちもいる。
「社会人の人たちは今ぐらいからじゃないとログイン出来ないものね」
「約6時間ログインが遅れただけで丸1日分も出遅れるって凄いねぇ」
「時間が経てば経つほど廃人に差を付けられそう」
「付けられそうじゃなく、既に付けられてるからね!?」
後から声がして振り返るとヒルデがログインして起き上がってた。
「そうなの?」
サンドラがヒルデに聞く。
「あんたらネット見なかったの?公式の掲示板や他の掲示板でも色々な情報が書き込まれてたよ?」
「どんな情報?」
「ん・・・まずはこの街がミズダシア王国って国の王都だって事と、第2の街や隣の国への行き方が書かれてた」
「えっ?もう次の街に行った人たちがいるの!?」
「次の街って街道を歩いて行けば着くんじゃないの?」
私とサンドラの質問にヒルデが得意満満に答える。
「この街から乗合馬車が出てるんだって。この街から四方にそれぞれ街があってそこまでは50000マニで載せてって貰えるって。移動時間は約2日。魔物に襲われて全滅する可能性ありだって」
「全滅ってどう言う事?」
「一応、NPCの冒険者の護衛が付くらしいんだけど馬車に乗って昼間は移動して夜は野宿してって移動になるらしい。その間に魔物に襲われ撃退出来れば問題ないけど、全滅したら王都に戻される。料金の返還は無いらしい」
「全滅したら時間と料金丸損じゃない」
「それでも徒歩で行くよりは早く着くらしいよ。乗ったプレーヤーは今頃馬車に揺られてるんじゃない?」
「隣の国への行き方は?」
「それも乗合馬車。料金は50万マニ。移動時間は15日。最低執行人数は10人だって」
「最低執行人数?」
「なんか乗合馬車を運営してるNPCに10人以下での移動は赤字になるから駄目って言われたらしいよ」
なるほど。
と言うか50万マニも払って出掛けて途中で全滅したら目も当てられなくない?
やっぱり罠の臭いがする。
「デスペナってあるの?」
「お金が半分になったり、スキルのレベルが下がるって事は無いみたい。死んだら王都の神殿に強制転送されてそこで復活。あとスキルがゲーム内で4時間全て外れるって」
「スキルが外れる?って何?」
「このゲーム、スキルスロットにスキルを装備して能力が使える様になるじゃん?ステータスも付けたスキルによって補正されるから、スキルが全く使えなくなりステータスはオール1になる・・・みたいな?」
「街でお茶して時間を潰すぐらいしか出来ないね」
「ステータスオール1で街の外に出るのは自殺行為だよねぇ」
「運営としてはログアウトして休憩しろって意味合いが強いんじゃないかな?廃人は長時間プレーするだろうから」
「あとは王都の周辺の魔物の情報も分かったよ。これで効率良くスキルのレベルあげられるわ」
ん・・・そんな事を言いつつ宿屋部屋で駄弁って時間消費してる事にヒルデは気付いてるんだろか・・・?