街の西
宿屋で目が覚めると食事をしないで外に出る。
日は既に頭の天辺辺りにある。
サンドラに教えて貰った通り街の西側を散策する為に街中を移動する。
昼食に向かう為か通りを歩く人は多い。
そんな中で良い匂いを漂わせてる1つのお店が目に入る。
クレープの皮のようなものにタレに浸けて焼いたお肉、千切り野菜、ソースを載せて巻いたもの。
なんて言ったっけ?トルティーヤ?タコス?ツイスター?まぁいいや。
「すいません。1つください」
「はいどうも。650マニだよ」
作り置きしてある皮に数種類の野菜を載せてその上に焼いた肉をのせてドロッとしたソースを掛け手早く巻き、紙に包んでこちらによこした。
「こう言う料理もあるんですね。この街で初めて見ましたよ」
「うちの嫁が北のノブヌーイの出身でね。そこの郷土料理みたいなものなんだよ」
ノブヌーイって確か王都の北にある第2の街の名前だったはず。
しかしNPCとさらっと会話しただけで色んな情報が混じってくる。
買った料理を食べながら街の西側に向かう。
行儀が悪いけど、ゲームの中だから大丈夫って事にする。
一応、今回の目的地は街の西のペット屋。
サンドラとヒルデが知ってて私が知らないのはちょっと寂しい。
買ったトルティーヤもどきを食べ終わり、包んでた紙だけになるとそれは光となって消える。
このゲーム、弁当の容器や包装紙がゴミにならないから楽に感じる。
「えっと・・・ここ?」
獣の独特の匂いや騒がしさを感じない普通の個人商店って感じの佇まいの店。
なんだろう?近所の駄菓子屋って感じの見た目だ。
入り口の引き戸の上に[ペットショップともだち]と看板が掲げられてる。
悩んでいてもしょうがないので中に入る。
「こんにちわ」
中は先客が数人いた。
しかし肝心のペットが見当たらない。
あれ?間違えたかな?と思ってると店員に声を掛けられた。
「いらっしゃいませ。当店は初めてですか?」
「は、はい」
「それでは当店のシステムを説明させていただきます。まずこちらのカタログからお好みのペットを選んでいただきます。そして奥の部屋で実際に触れ合っていただいて問題が無ければその後に購入となります。よろしいですか?」
「は、はぁ」
店員さんの流れるような説明に軽く付いていけない。
きっとこの店のマニュアルなんだろう。
ほぼ呼吸しないで早口で一気にまくし立てるのは1日何回も言って身に付けた職人技だなと思った。
カタログを受け取って見てみると大まかな分類として、鳥系、獣系、魚系、両性・爬虫類系、昆虫系、植物系、その他と別れていた。
とりあえず獣系を見てみると、小さな猫っぽい魔物やネズミ、イタチみたいな魔物など小動物系の魔物の写真が並んでる。
馬やゾウやパンダとか大型の魔物は居なかった。
「馬とか大型のペットは居ないのですか?」
「申し訳ありません。当店は家の中で飼えるペットのお店ですので大型のペットは取り扱っておりません」
そりゃそうだよね。
この店の中にクマとかライオンとか居てもそれはそれでビビる。
奥の部屋で触れ合ってみてくださいとか言われても何の罰ゲームって気がするし。
「もし大型のペットが欲しいのであれば、【調教】スキルを取っていただいて御自分で捕獲する方法がございますが・・・」
「い、いえ。私そこまで強くも無いですから」
「そうですか?当店では捕獲用の道具も取り扱っていますので必要な時はお申し付け下さい」
カタログの他の系統もパラパラと目を通す。
魚用の水槽や昆虫用の飼育ケースも売っていた。
あれ?前に戦った魔物の中に空中を泳ぐ魚も居た気がするけど飼う時は水槽が必要んだ?
いや種類によって違うのかな?
「もし、どのペットにするか迷われてるようでしたら、この店の隣にペットカフェがありますので実際のペット達を見てみるのも良いですよ。色々な種類のペットと触れ合えますし」
「あ、そうなんですか。それではそっちに行ってみます」
店員にマンツーマンで接客されて冷やかしですとは言い出せない雰囲気だったので、ペットカフェに行くと言う理由を付けて店を出ることにする。
「あ、お客様。ペットカフェには店内のこちらの扉から行けますよ」
どうやら簡単には逃してくれないらしい。
ん・・・一応ペットカフェも覗いてみるか。
「いらっしゃいませ。この店はワンドリンク制となっております。ワンドリンクで1時間ペット達と自由に触れ合えます。尚1時間を超えると延長料金が掛かりますので御了承下さい」
「は、はい」
店内は広いワンルーム。
座敷となっていて椅子やテーブルが無くそのまま床に座るようだ。あ、座布団を手渡された。
その部屋にイタチやウサギ、スズメやフクロウ、空中を泳ぐ金魚、トカゲやカエル、カブトムシ、歩くキノコみたいな魔物が放し飼いになってる。
「なに?このカオスは」
とりあえず適当な場所に座布団を引いて座りまわりを観察する。
すると一匹のフクロウがこちらに向かってトコトコ歩いてくる。
あれ?フクロウって歩くんだっけ?いや、足があるんだから歩けるのか?
そんな事を考えてるとフクロウは私の目の前で立ち止まってこちらを見て頭を横に傾け一声鳴く。
「あ、あざとかわいい・・・」
これは店員に躾けられてるなと思いつつもその可愛さに心を惹かれる。
これがこの店のやり方か。こっちで感情を揺さぶりあっちの店で買わせると。
このやり方でサンドラが籠絡されたわけか。
私が戸惑ってるとフクロウは座ってる私の太股の上に登り目を瞑る。
これは撫でろって事なのかな?
とりあえず恐る恐る頭を撫でてみる。
羽根の手触りが気持ちいい。
「もしよろしければ、こちらの餌を与えてみてください」
店員がフクロウ用の餌を持ってくる。
餌は白玉団子みたいなものだった。
「あれ?フクロウって生肉を食べるんじゃないんですか?」
「はい。生き餌も食べるのですがお客様で苦手な方もいらっしゃいますので当店ではこちらの餌に慣れさせています」
そう言うところはゲーム的なんだ。
そりゃそうだよね。店内でネズミも放し飼いしてるのにそこにフクロウを放し飼いしたら血生臭い事になりそうだものね。
他にも空中を泳いでる金魚に触って、その後に手の臭いを嗅いでみたけど生臭い臭いはしなかった。
「お客様、そろそろお時間となりますがどうなさいますか?」
店員さんに声を掛けられ延長せずに店をでる。
これはハマる人はハマるんだろうな・・・。
薄暗くなった街の中を宿屋を探して歩いていると、学校の校庭の様な広い場所を見付けた。
しっかり灯りが点けられ全体が明るく照らされていて、そこで数人の人が武器を持って戦っている。
これはなんだろう?と眺めていると1人の体格のよいおじさんに声を掛けられた。
「お嬢さん、訓練希望かい?」
「はい?訓練?」
「あれ?違ったか。ここは戦闘訓練場。安全に戦闘経験が積める場所だよ。ちゃんと講師がマンツーマンで教えてくれるから初心者でも安心だよ」
「でも、お高いんでしょ?」
「いやいや、4時間で6000マニ。お得な1週間フリーパスは20万マニだよ」
「いや、私には充分高いですよ。20万マニって」
「そうかい?安全に動きを練習できて経験が積めるんだよ?例えば片手剣で突きの動きを試したいとして、突きに適した魔物を探して、その魔物の攻撃を避けつつ突きを何度も練習する。それは手間でしょう?」
確かに私も豚ネズミを探して多足カエルや羽ウサギと戦ってるから狙った魔物を探す大変さはよく分かる。特にソロだと負担が大きい。
でも、そう言う事も経験となって実力が上がるんじゃないのかなぁ・・・。
「ま、実戦の方が多彩な経験は積めるけどいきなりではちょっと怖い。そう言う人の為の訓練場さ。ま、気になるなら、お試し2時間コースが1500マニでやってるから受けてみて確かめてみるかい?」
まぁ、ちょっと気になるのは確かだし、ログアウトするにはまだ早いから受けてみようかな?
話の種にもなるし。




