狩りの成果
「やっぱりパーティーのバランスは大事ですね」
全身金属鎧を着て方盾を持った片手剣使いのルドルフさんがしみじみと話す。
私たちがたまたま通りがかり、何となく救援したパーティーの人達と軽く情報交換する。
「僕たちも一応は考えて役割をきめたんだけど魔法を誰も取らなかったからね」
クロスボウ使いのバッキーさんが頭を掻きながら話す。
「盾役のタンク、攻撃役のアタッカー、後衛の遠距離役とバランスは良いと思ったんだけどね」
両手剣を使うゴロウザさんも思うところがあるようだ。
「だから、4人パーティーは戦士、モンク、白魔法使い、黒魔法使いが定番だって言ったろ?」
長槍を使うアッテさんが言う。
「いや、戦士、シーフ、白、黒だろ?定番は」
ゴロウザさんがアッテさんに反論する。
「えぇ?勇者、戦士、僧侶、魔法使いじゃないんですか?」
ヒルデがつかさず話に混ざる。
混ぜっ返すなよ・・・。
「お前ら、拘る癖に魔法を取ってないじゃないか」
ルドルフさんがツッコミを入れる。
「いや、だって男なら直接攻撃でしょ?」
「だよな・・・」
言い争ってたゴロウザさんとアッテさんが途端に同盟を結び、正論を言うルドルフに対抗する。
私はファンタジーものならまず魔法を使いたいと思うのが普通だと思うのだけどこの人達は違うみたいだ。
「私たちも好き勝手にスキル選びしたんですよ?
エリザなんて特に酷くて止めたぐらいで」
「エリザは最初に魔法6属性と回復魔法と魔法スキルで7枠埋めようとしてましたからねぇ」
ヒルデとサンドラがなぜか矛先を私に向ける。
「えっ、私?私は純魔法使いを目指しただけだよ?」
「ねぇ?」
サンドラが4人に同意を求める。
4人は反応に困って苦笑いしてる。
これはマズイ。話を変えないと。
「この森だとさっきのてんとう虫と白い布を被った幽霊みたいのが、空を飛んで魔法みたいな攻撃をしてきますね」
それを聞きバッキーさんが困ったような顔をする。
「ジャンケンで負けた奴が魔法取るか?」
「いや壁役のお前が魔法取っても意味ないだろ?後衛のバッキーが良いんじゃないか?」
「いや、俺は索敵系のスキルを取ってるから魔法まで取るのはキツいって。ゴロウザとアッテが取ればバランス良くなるんじゃないか?」
なんか4人が揉めだした。
これは長くなるやつだ。とりあえずこの場を離れよう。
最初の礼儀正しい社会人ってイメージは既に消し飛んだ。
もしかしたら高校生パーティーなのかも知れない。
「じゃ、私たちはこれで。それではまたどこかで」
私が挨拶をすると4人がそれぞれ挨拶を返してくれた。
4人と別れてまた私たちで暗くなるまで狩りをして、ランタンに灯りを付けログアウトポイントまで戻った。
「もう少し早く帰って来れば良かったねぇ」
サンドラがボヤく。
暗くなってから帰って来たので、月明かりとランプの灯りの中でのテント設営となった。
テント設営は今回で2回目なのでまだまだ設営手順がうろ覚え。
テント設営の仕方の説明書を見るのにも暗いとそれだけで手間だった。
「なんか冒険してる感があるよね」
ヒルデは何故か嬉しそうだ。
「意味が分かんない」
「こう言う細かい部分がVRゲーの醍醐味だと思わない?」
「そう?こう言うのはメニューからボタン1つでテント現れるシステムでも良いと思うけど・・・」
「最初は良いけどだんだん面倒になるパターンだよねぇ」
「面倒臭いのが良いんじゃん」
自分のテント設営が終わったヒルデは【収納】から小枝を取り出し焚き火をする為に組んでいく。
「エリザ、火ちょうだい!!」
私もテント設営が終わったのでヒルデの所に言ってファイヤーボールを唱えて小枝に火を点ける。
そして近くに腰を下ろして一息つく。
「ねぇ、ファイヤーボールで火が点けれるなら、ウォーターボールは飲み水になるの?」
「試してみる?」
ヒルデが両手で器を作ったのでそこにウォーターボールを出してみる。
「痛っ!!エリザ、勢い付けすぎ!!」
「魔法の発射の勢いとか調節できないから。それでどう?」
手の器に入った水を飲むヒルデ。
「ん・・・ヌルい」
「味は?」
「普通かな?不味くはないよ。ただもう少し冷えてて欲しかった」
「鍋かヤカンがあったら、焚き火で沸かしてコーヒーとか紅茶とか飲んで見たいね」
やっとテント設営を終えたサンドラが会話に加わる。
このゲームにコーヒーや紅茶かあるか分からないけど、きっとあるんだろうな・・・ハーブティーとかも。
「やっぱり料理スキルは必須?」
「さぁ?とりあえず料理スキルの要らないお弁当を食べよう」
焚き火を囲みお弁当を食べながら今日の反省会。
「ゲームの中で夕飯食べて、ログアウトしたらリアルでも夕飯なんだよねぇ。変な感じ」
「ゲームの中は食べても太らないよ?良かったねサンドラ」
「えっ、私いつの間に大食いキャラ?」
「ほら、今日の反省会するよ?」
ヒルデが話を戻す。
たぶん、体重の話とかしたくないのはヒルデだ。
胸の分だけ重いのだろう。
悔しくなんかないからな。
「ドロップアイテムが結構手に入ったよね」
「あと2日ぐらいで【収納】はいっぱいに成るかも」
「ニワトリがコスパ良いよね。群れないけどドロップアイテムはいっぱい落とすから」
「全員分であわせて10個ぐらい鶏肉を落とすものねぇ」
「あとはどのドロップアイテムが高く売れるか?だよね」
「鶏肉が10マニとかだったら泣けるよね」
「収納スペースを圧迫するのに安いとか罠だよね(笑)」
「幽霊の落とす布は需要ありそう」
「生産者のプレーヤーが欲しがるかもね。白いから染めて使えるだろうし」
「あ、そう言えば私、斧スキルがLv.5になって【強振】って技を覚えたよ?」
そう言えばスキルの成長を見てなかった。
とりあえず見てみる。
『エリザ』
【長杖 Lv.5】
【服 Lv.2】
【火魔法 Lv.3】
【水魔法 Lv.3】
【風魔法 Lv.3】
【土魔法 Lv.3】
【MPup Lv.3】
【MP回復up Lv.4】
【魔力up Lv.4】
【詠唱短縮 Lv.4】
私も長杖スキルがLv.5まで上がってた。
ただ長杖は魔法用なので攻撃スキルは覚えないみたい。
ただ魔法が発動するまでの時間が微かに短くなったり、威力が少し増えたりしてる気がしないでもない。
サンドラのスキルレベルも見せて貰う。
『サンドラ』
【片手斧 Lv.5】
【重鎧 Lv.5】
【大楯 Lv.5】
【投げ斧 Lv.3】
【投擲 Lv.3】
【力up Lv.2】
【耐久力up Lv.3】
【命中率up Lv.3】
【移動速度up Lv.2】
【HP自動回復 Lv.3】
「【大盾】もLv.5になって【挑発】って技を覚えたの。【挑発】で相手がやってきたところを【片手斧】の【強振】でバッサリ出来そう」
「首刈り族かい。サンドラはどこに向かおうとしてるのか」
「王道の重戦士だと思うんだけど?」
「使ってる武器が斧だから蛮族感あるよね。定番はさっきのルドルフさんみたいな片手剣じゃない?」
「ヒルデ、あれは騎士でしょ?【方盾】に【片手剣】は。私は重戦士なの。まったく別ものだよ?」
「そうなんだ?」
「そうよ?“糸コンニャク”と“しらたき”ぐらい違うんだから」
ん・・・その違いが分かるような分からないような。
盾が五角形か、長方形かの違いでしか無いような気がする。
まぁ、本人の拘りなんて他人から見ればそんなものよね。共感されない部分だってのは私でも分かる。
「ヒルデは?なんか技を覚えた?」
『ヒルデ』
【片手剣 Lv.4】
【軽鎧 Lv.4】
【小盾 Lv.3】
【長弓 Lv.3】
【光魔法 Lv.3】
【闇魔法 Lv.3】
【回復魔法 Lv.4】
【敏捷性up Lv.4】
【スタミナup Lv.3】
【走破 Lv.3】
「うわ・・・ザ器用貧乏って感じだねぇ」
「剣と弓と魔法と回復の4刀流は欲張りだよね」
「いいの。今は器用貧乏でも最終的には万能型に成るんだから」
確かに敵の数が多い時は引き付け役、魔法が効く敵には魔法攻撃、遠くの敵に射撃、そして回復役と何気にヒルデは役にたってる。
「サブタンク、遠距離アタッカー、回復役とパーティーに1人ヒルデがいると役立つよね。困った時のヒルデみたいな」
一応、フォローしとく。
どれかスキルを外されても困るから。
そして私たちは、リアルでの夕飯の為にそれぞれのテントに入りログアウトした。