魔物乱獲
森は薄らと明るくなってきていた。
あれから夜通しで狩りを続け、何度か危ない場面はあったものの誰も死亡する事なくスキル上げ兼ドロップアイテム集めは順調に進んだ。
「やっぱりあの幽霊は苦手だな・・・。前衛職キラーだよ。あれ」
サンドラが思い出してボヤいてる。
合計で3回、幽霊と戦闘をしたけどそのどれもサンドラは苦戦を強いられてた。
「遠距離攻撃が無いと攻撃が当てにくいし、あの痺れる攻撃は魔法防御が高くないとダメージ大きいしね」
魔法スキルと取ってる私やヒルデはステータス補正で魔法系の攻撃や防御の補正が入ってる。
でも魔法スキルを取ってないサンドラは魔法系の攻撃に弱い。
しかも遠距離攻撃が斧の投擲しかなく、投げた斧が投擲スキルによって手元に戻って来るには長い時間が掛かる。
投擲スキルのレベルが上がればその時間は短くなるのだろうけど今は1度の戦闘では1発限定の必殺技みたいな扱い。
あの幽霊とは悉く相性が悪い。
「何か対策を考えないと駄目かな・・・」
「対策って?スキル変えるの?」
「ん・・・それも含めて何か考えないと。あの幽霊、明らかに対私用みたいな個性してるんだもの」
サンドラが少し真面目に考え込んでいる。
「フッフッフ、魔法は良いよ?属性があるから有利属性の魔法ならある程度はダメージ入るし、しかも遠くから一方的に攻撃できる」
ま、私は属性関係なく連射してるけど。
「エリザはその分、紙装甲だけどね」
ヒルデがチャチャを入れてくる。
「それはあれじゃない?金属鎧スキルと方盾スキルを取って守りを固めれば・・・」
「固定砲台かい!!」
「えっ?駄目?」
「いゃ、なんか格好悪くない?」
それはそれで悪くない選択だと思うんだけどなぁ・・・ヒルデの趣味はよく分からない。
「コケッコー!!コケコッコー!!」
どうでもいい話で盛り上がってる最中に少し離れた場所から大音量の鳴き声が聞こえた。
「えっなに?夜が明ける事を知らせるゲーム的なギミック?」
「流石にそれは無いでしょ(笑)」
鳴き声のした方に音を立てないように近付くと、木の高い場所にある枝に止まったニワトリの様な魔物がいた。
「あ、やっぱりニワトリだった」
「えっあれニワトリなの?脚が6本ぐらいない?」
「チキンレッグが1羽から6本も取れるなんてお得じゃない?」
「いや、ドロップアイテムは増えないでしょ?たぶん」
ニワトリの様な魔物はこちらを攻撃してくる素振りを見せないので、馬鹿話をする余裕がある。
「どうする?あれ。狩る?」
「私の攻撃じゃあそこまでは届かないな・・・」
サンドラは狩る気が無いようだ。
「えっ、木を登ったら?」
「全身金属鎧の私に木に登れと?足を滑らせて落ちる時はエリザの上に落ちるからね?と言うか魔法使いの出番でしょ?」
「あそこは私の魔法でも射程外だよ。木の真下から撃てば届くだろうけど、近付いたら気付かれちゃうだろうし」
と言う事で私とサンドラはヒルデを見る。
「任せて。私の出番ね」
あ、妙にやる気になってる。
ヒルデはさっそく長弓に矢をつがえて長弓スキルを使う。
「【集中】!!」
ヒルデの放った矢は真っ直ぐに木の上のニワトリに命中する。
矢を受けたニワトリは枝から落ち地面に激突すると光となって消える。
「どう?一撃よ?一撃」
ヒルデがドヤ顔で威張る。
「落下ダメージで倒したんじゃないの?あれ」
サンドラが直ぐさまツッコミを入れる。
ドロップアイテムを見ると鶏肉が手に入ってた。
戦闘に参加しなくてもパーティーを組んでればドロップアイテムが貰えるこのシステムはありがたい。
アイテム個数はパーティーで頭割りになるけど。
「あ、ヒルデ。あっちの方でもニワトリの鳴き声が聞こえたかも?行ってみよう」
上手い事、ヒルデをノセて私とサンドラは楽をしながらニワトリ狩りをしてたんだけど、完全に日が昇り夜が明けるとニワトリは姿を現さなくなった。
「ニワトリ、居なくなったねぇ」
「狩り尽くしちゃった?」
「早朝限定で出現する魔物なんじゃないの?昨日も見かけなかったし」
朝ごはんのお弁当を食べながら雑談する。
ログアウトポイントに戻るのが面倒なので適当な場所で食べてる。
「このまま森を徘徊して昼過ぎぐらいまで狩りだね」
「そうだね。この森なら苦戦はしても死ぬ事は無いだろうし。稼がないと」
「私たち今、ほぼ一文無しだものねぇ」
「そうそう。いっぱい狩って初心者装備を卒業しないと。いつまでも初心者装備は格好悪いから」
「そう?初心者装備は耐久力のメンテが要らないから経済的よ?」
「ん・・・じゃ、エリザはずっと初心者装備ね?」
「えぇ、私だけ初心者装備ってのはなんかヤダ」
そんなこんなで午後の狩りを始める。
順調に落下傘キノコや角バッタ、歩く花、土人形などを狩って森を進んでいると、戦闘音が聞こえてきた。
音のする方に目を向けると全員4人組のパーティーがバレーボールぐらいの大きさの空飛ぶ魔物数匹と戦闘をしていた。
まだ私たちが遭遇した事が無い魔物だ。
「駄目だ!!当たらねぇ!!」
「的が小過ぎるんだよ!!」
「1発1発のダメージが大きい。耐えきれないぞ」
両手剣を振り回す男や長槍を持った男が口々に叫んでいる。
盾を持って全身金属鎧を着た男はフェイスガードを上げポーションを飲みHPを回復させつつ攻撃を引き付け一身に受けてる。
ポーションを飲むとが金持ちだな・・・。
「数が多いって!!」
唯一クロスボウを持ってる男が善戦してるけど、パーティーとしてはジリ貧に見える。
「ねぇ、どうする?」
ヒルデが私たちに聞いてくる。
「あの虫・・・てんとう虫?が飛ばしてるのってファイヤーボールの魔法じゃない?」
「魔法を使う魔物か・・・私とは相性が悪いなぁ・・・」
「でも、助けないと何人か死んじゃいそうだよ?あれ。なら助けるでしょ?」
「なにそれ?英雄プレー?」
「とりあえず相手に聞いてみたら?」
「じゃ、エリザお願い」
言いだしっぺのヒルデが声掛けるんじゃないんだ?
ヒルデ、NPC相手なら物怖じしないのに。
「すいません!!大丈夫ですか!?救援しますか!?」
私が大声で声を掛けると直ぐに反応が返ってきた。
「お願いします!!」
「助けて下さい!!」
「助かった!!」
「ありがとう!!」
「ヒルデは盾の人を回復させたら魔法乱射ね。サンドラは的を代わってあげて。私は横に回って魔法乱射するから」
ヒルデが仕切る前に私が声を掛けて横に回り込む為に走り出す。
「ヒール!!」
ヒルデが回復魔法を唱えて盾の人を回復させるのを確認する。
「ファイヤーボール!!」
「ウォーターボール!!」
「ソイルボール!!」
「ウインドボール!!」
とりあえず魔法を乱射するとモンスターに何発か当たり、モンスターを一匹光に変える。
更にクロスボウの矢がモンスターに刺さりもう一匹を光に変える。
「うわっ!?」
てんとう虫がこちらを向き魔法を撃ってくる。
ファイヤーボールを身体に受けるがHPバーは1/5も減ってない。
これが魔法特化の魔法防御力か、ただでさえ少ない私のHPをこれぐらいしか減らないとか。
これは勝ったわ。
私が勝利を確信してるとヒルデが魔法を唱えた声が聞こえた。
「ライトスピア!!」
「ダークスピア!!」
ヒルデが放った魔法は魔物を見事に串刺しし魔物を光に変える。
「ラスト!!貰った!!」
サンドラが豪快に手斧を投げ付け魔物に命中して最後の魔物が光に変わる。
「サンドラのそれ良く当たるよね?ある意味凄いわ」
「命中率アップのスキル装備してるからねぇ。斧使いの嗜みみたいな?」
なるほど。
斧は一般的に命中率が悪いイメージがあるから前もって命中率アップのスキルを取ってたのか。
たぶん移動速度アップのスキルを取ったのも、重鎧は動きが遅いってイメージがあったらからだろうな。
地味に抜け目がないんだよねサンドラ。
「あの・・・救援ありがとうございます。強いですね」
お・・・敬語だ・・・。
見た目的に大学生か若手社会人みたいなのに、明らかに年下の小娘の私たちに敬語で話すとか、社会人凄いな。
「い、いえ通り掛かっただけですし、私たちは魔法スキルを取ってるのでたまたま魔物と相性が良かっただけですよ」
しれっとヒルデが代表して答えてる。
ヒルデ恐ろしい子・・・。