目的決定
「ちょっと!!サンドラ、選択肢に魅力が無いって他に選択肢があるの?」
選択肢を提示したヒルデが不満げにサンドラに聞く。
「あるよ?第5の選択肢が」
サンドラが勿体付ける。
「あ、分かった!!」
「はい。エリザさん」
「ここから南の第2の街か、北の第2の街までフィールド横断!!」
前に話し合った時に出てた案を少し変えて言ってみる。
「あ・・・それがあったねぇ。それも良いかも」
サンドラが私の意見に流される。
むぅ・・・と言う事はハズレか。
「ちょっと、流石にそれは準備不足だよ?買い込んだお弁当の数とか日数的に足りないし」
ヒルデが律儀に案を却下する。
いや、流石に私も本気では言ってないからね?
・・・ちょっと面白そうだけど。
「ヒルデ、流石に私も準備不足なのは分かるよ?愉快犯のエリザと一緒にしないでよ?」
「それじゃ、第5の選択肢って何よ?」
「それはね、東の第2の街イタプルに戻って街を観光するの」
サンドラが思いがけない提案をしてくる。
戦闘とシエロにしか興味が無いと思ってたのに。
「えっ、観光って・・・クランハウス改築の為の資金集めが目的なのに散財してどうするのよ?」
「落ち着いてヒルデ。お金に集めも大事だけど1番大切なのはゲームを楽しむ事でしょ?お金に執着して修行僧みたいなプレーしてたって楽しく無いでしょ?」
おぉ、サンドラがまともな事を言ってる。
「確かに東の街はまだ見てないね。・・・前に行った西の街も見た記憶は無いけど」
「そんな事を言ったらしい王都だって東側ぐらいしか見てないよ?」
「だからねぇ。特にやる事が決まらないなら観光も良いんじゃないかなと思うの。時間が経てばやりたい事が見付かるかも知れないし」
サンドラが得意満面で話す。
「いや、やりたい事はお金を集めてクランハウス改築でしょ?」
「もぅヒルデ、そこまでクランハウスに責任感じる事は無いよ?誰だって失敗はあるんだから」
「えっ?あれ?クランハウス購入は私の失敗なの?サンドラも乗り気だったよね?」
「うんうん。みんなの責任だよねぇ」
なんだ?サンドラが良い話風にまとめようとしてるけど、なんでサンドラが加害者からそれを許す被害者風に話してるんだ?
・・・まぁ、いっか。私も観光に興味が出てきたし。
「じゃあ東の街を観光するとして、街道を歩いて戻るんじゃなく、森の中を歩いて狩りをしながら戻ればある程度のお金は稼げるんじゃない?」
とりあえず妥協案を言ってみる。
「えぇ、エリザも観光したいの?・・・2対1じゃ折れるしかないじゃない。でも狩りしながら帰るの?昆虫祭りなのに?」
・・・あ、失念してた。
けど今更発言を撤回出来ない。
「サンドラは狩りをしながら帰るの不満?」
サンドラに賭けてみる。
「えっ、あ、良いよ?狩りしても。エリザの言う通り狩りをしてお金を稼げばヒルデも納得すると思うし」
見事に賭けに負けた。
戦闘狂め・・・。
「じゃ、森の中を帰るんで良いけど迷わないよね?エリザ大丈夫?」
「えっ?私?」
「だってエリザ、マッパーでしょ?ここに来る時もちゃんと地図を見てたじゃない?」
「ヒルデ大丈夫だよ?エリザはちゃんと歩幅を揃えて、歩測して、歩数を数えて、距離を測って、地図に記入してたんだから。迷う訳がないじゃない」
ちょっと待てサンドラ。
私はそんな事はしてないよ?
何勝手に私の実績を詐称して間違えない雰囲気を作ってるの?
それ間違ったらイジる前振りじゃない。
そうして私たちは森の中を狩りをしながら街へ戻った。
森の中は荒野と比べてかなりプレーヤーが少なく狩りは大漁でウンザリ。
「うーん、当分虫は見なくて良いかな」
「何言ってるのよ?エリザ。あなたの家の回りは虫しか居ないじゃないの」
「失礼な。私の家の回りは雉やタヌキやハクビシンも出没するから。この間は裏山に野生のウサギすら居たし」
「・・・野生のウサギって、それ誰か捨ててって野生化したんじゃないの?」
「たぶんそう。猫より大きいサイズだったから」
流石の私もあれを見た時は驚いた。
「エリザの家って秘境と化してるよね」
「止めて。ヒルデの家も一緒でしょ?前にヒルデの猫が雀を咥えてたりしたじゃない」
「あれね・・・褒めて貰いたくてわざわざ捕まえた獲物を見せに持ってくるのよ。玄関先に蛇の死骸が置いてあった時の気持ち分かる?最初、陰険な嫌がらせかと思ったわよ?」
「ねぇ、2人の田舎自慢は良いから。早くドロップアイテムを売りに行こうよ?」
「いやサンドラ、あなたの家も変わらないからね?」
街に到着して虫祭りから解放された為かおかしなテンションで街の大通りを冒険者ギルドへ向かう。
冒険者ギルドで魔物のドロップアイテムを売ると思いのほか良い金額になった。
「まさか森の虫たちがこんな金額になるとは。これあのログアウトポイントと往復するのを繰り返したら今月中にはクランハウスの改築費用が貯まるんじゃないの?」
ホクホク顔のヒルデが妙な事を言い出す。
「ヒルデ、気付いてる?あなた金の亡者みたいになってるよ?虫祭りの森の往復繰り返すとかどこの修験者よ?」
「お金の為に修験者の様な事をするとか、破戒僧みたいだねヒルデ。六根清浄を唱えて身を清めた方が良いんじゃない?」
「あんたら言いたい放題ね?それに何よ?六根清浄って。それに私は清らかな乙女だから」
そんな事を言いながらヒルデがポーズを取る。
「ねぇ、サンドラ。淫らなホルがなんか言ってるよ?」
「そうね。一度、修験者として真冬の奥羽山脈を縦走でもさせた方が良いのかも」
「ちょっと。なんで私が神主修行みたいな事をしないと駄目なのよ?(笑)」
「もう・・・ヒルデ。修験者は仏教でしょ?」
「えっ?そうなの?」
「あれ?エリザも神主さんだと思ってたの?」
サンドラがお前もかっと私を見る。
「えっ?だって修験者って天狗の元ネタでしょ?天狗ってお坊さんだったの?仏様系じゃなく神様系だと思ってた」
天狗を見て仏教とは思わないよね?烏天狗とか神社っぽいし。
「えぇ!?天狗ってお坊さんでしょ?如意ヶ嶽薬師坊とか有名じゃない?山寺の和尚さんだよ?」
「ごめん。まって。なんで修験者とか天狗の話に成ってるの?それに私もヒルデもそこら辺は詳しくないからどこからがサンドラの嘘か判別が出来ないからね?ツッコめないからね?」
長くなりそうなのでサンドラの話を止める。
「そうだね。アホなサンドラに付き合うのは止めて何処かでご飯を食べよう。森での狩りを頑張り過ぎてそろそろログアウトする時間だし」
私もサンドラとのやり取りを切り上げて、ご飯の話をする。
「南の街では出現する魔物が動物系が多かったから、肉料理が名物だったけど、こっちは虫かゴーレムとかガントレットだったから何が名物か想像しにくいねぇ」
サンドラも天狗話を止めてご飯の話にのってくる。
「東の街では保存食が名物らしいよ?」
「何?保存食って?」
ちょっと嫌な予感がする。
いや虫料理じゃなくて良かったと安堵するべきか?
「えっと・・・乾物とか燻製とか漬物とか?それを使った料理だよ」
「うわ・・・微妙そう」
「エリザ・・・乾物って高級食材よ?干し海老、干し椎茸、干しアワビとか」
「あとは、生ハムとか新巻鮭とかソーセージとか」
「あ、それ魅力かも。てっきり染み大根とか、染み豆腐とか、染みこんにゃくとか、凍み餅とかそっち系の煮物かお雑煮だと思ったよ」
「えっ?それはそれで美味しいでしょ?」
「ん・・・なんかさっきの話の流れから精進料理を想像しちゃってた。私も若者だから精進料理よりは肉や甘い物が良いなと思って」
「エリザは俗物だからねぇ」
「そうね。若者ってより馬鹿者だし」
「いや、あんたらもその仲間だからね?」
私たちは東の街の名物を堪能してログアウトした。
食べても太らないってのはVRゲーム様々だわ。




