ふりむくな
怖さ加減で言えば“低“なので、薄暗い部屋、1人で読むことをお勧めします。
間違えてもトンネルの中では読まないよう
まず、これは持論なのだが、混乱は恐怖のスパイスになると思う。
例えば肝試しの時、本物の霊に遭遇したとしよう。
その霊が一言だけ話し掛けて来た。何と話し掛けて来たのだろうか。
「こっちに来い」だったり、「殺すぞ」だったりと直球か。はたまた声にもならない呻き声か。
あとあと考えると、「ふりむくな」が最も怖いのではないだろうか。
ここは裏山のトンネルだ。視界の殆ど暗闇に染まり、懐中電灯で照らさなければ足下すら覚束ない。肌寒く、ずっしりと思い空気は恐怖を増長する。
そんな時、あなたはゆらりと動く人影を見た。
はっきりと姿を捉えることは出来ないが確かに何かがいることは分かる。
しかし、よく目を凝らしてみればその影はとても人とは思えないものだった。身長は明らかに3mを超えていて、頭と呼べるものは付いていないように思える。
そしてあなたが不思議に思い目を擦った、次の時ーーその異形の影があなたの目と鼻の先にーー文字通り鼻に何かひんやりとしたものが触れ、視界がより一層闇に染まる。
息をつく間も無く振り向き様に走り出す。懐中電灯を投げ捨て、喉に唾液を詰まらせながら。
「ふりむくな」
掠れ切った男とも女とも取れる声で、そう耳元で語りかけてくる。
ふりむくなと言われると振り向きたくなるものだが、あなたの思考は既にぐちゃぐちゃだ。
ふりむけば異形の影がいるはずだが、何故わざわざそんなことを言うのだろうか。
背後には落として来た懐中電灯がある。異形の影を照らしていることだろう。異形の影は姿を見られることを拒んだのだろうか。
では姿を見てしまったあなたはーー
考えてみればそこまで怖くありませんね。
ただ、自分がどうなるのかを間接に理解することにより、思考は完全に停止することでしょう。
ほら今もあなたの後ろに
ふりむくな