モンスター狂想曲
続きモノ
街壊滅ルートのフラグを回収しました…
エームの街は大混乱に陥っていた、街の外れから放たれた極太レーザーが砦を破壊した…という話が街中に拡がり上へ下への大騒ぎになっていたからだ。
「冒険者は東門だ!遠くから大量のモンスターが街に向かってるそうだ!」
冒険者ギルドの入り口から2メートル程の大斧を担ぎ、黒く鈍い光を放つ全身鎧を着込んだ完全装備のリバーゼが大声を上げる。
砦の一部が破壊された直後、東からは3メートルクラスの大型オークの集団、西からは数体の5メートル以上はありそうな巨大な体格のサイクロプス、北の山岳地帯からは1匹のワイバーンが何処からか現れ、レーザーに驚いた兵士が偵察に出た際に発見したのだ。
「軍は南からのゴブリンの大群相手で動けないそうです!今居る冒険者の実力じゃあオークで手一杯だ!ワイバーンは城壁の警備に任せて…サイクロプスは…俺が行く。」
「ギルド長!サイクロプスですよ?お一人で!?」
ギルドの前に居る冒険者のメンツを見たリバーゼがため息を吐きながらそう言う、ギルドの受付嬢が驚いて聞き返すとリバーゼは、
「なーに、サイクロプス如き何匹も仕留めてるんだ…………"剛撃の"リバーゼを舐めるな?、それよりお前も魔法でアイツら援護してやれ…なぁ…副ギルド長の"聖女"リプシン?」
「もうっ!その肩書は要らないって言ったし、"聖女"も代替わりしたから違うって言ってるじゃないですか!アレから何年経ったと思ってるんですか!」
軽口を叩きながら後ろを振り返らずに手を振って、1人西門へと歩いて行った。
リバーゼにオークの相手を任されたリプシンは気合を入れる為に自らの両頬を叩くと、いつも身に付けている指輪を大きな紅い宝石の付いた錫杖に変化させ、一言。
「豚どもを早急に殲滅します!その後は全速力でギルド長の援護に向かいますのでオーク如きで死なないように!」
いつもは大人しい金髪の目立たない受付嬢は、錫杖を掲げて光に包まれると魔法で着替えたのか上位聖職者が着る様なローブを纏い、ギルドに集まる冒険者を率いて東門へと向かった。
*****
「ここに来るまでにゴブリンの集団が幾つもあった…アレが街に攻めてきたら大ごとだと思ったので半数を報告に戻らせて俺達は決死隊で元凶を確認しに来たんだが……」
「喋って強そうで偉そうな魔法使うゴブリンさんは居たのですが…私が"アレ"で…………」
アサゲが洞窟でメディナに質問をすると、メディナが洞窟の上部に空いた大穴を指差す…そこには未だに赤熱して岩が溶けている洞窟の先、エームの街の砦の一部が見えた。
「………………アレ………嬢ちゃんだったのか……しかしそれなら何故あんな大群が?」
「……さぁ?偶然としか…」
アサゲをはじめとした兵士達とメディナが考えを巡らしていると、ドゴーーン!と大きな音がする。
そちらを向けばランテルが洞窟の岩壁にめり込んでいて、
「ふーーーっ……ランテル君…お母さんに逆らうなんて………うーーん………300年は早いんだよ♪」
右の拳を振り抜いた姿のロイテストがセミロングの金髪を汗で湿らせ、ひたいの汗を拭いながら言い放つ
その表情は非常に晴れやかで、労働に汗する少女の様だった。
*****
「ブヒィィッッ!!」
「ゴブリンどもがあんな秘密兵器を持っていたとは知らなかったが良いのろしだったな、総攻撃であの街を蹂躙してやる。」
オークの集団の最後方で筋肉質の人間と変わらないオークが手下のオークに指示を出しながら進軍していた。
「ううむ…進化してから同族に食指が動かんのは困ったが、人族のメスはなかなか良いではないか…昔は仕方なく使っていたが今は人族のメス以外では満足できんしな。…………おいっ!戦況はどうなっている!」
戦況を確認したオークロードのオロークは遠くに見えるエームの街を確認すると、門の前で冒険者にオークの先頭集団が蹴散らされているのが見えた。
「人族の冒険者が出てきたか…仕方ねぇ…俺が殲滅してやろうかっ…なぁ?」
通るのに邪魔だったオークを手に持つ巨大な棍棒……もはや柱のようなそれを振り抜き吹き飛ばすと、赤い肌で紅い目…そして頭頂部に1本生えた角の"オークロード"オロークが冒険者達に向けて歩き出した。
*****
「前衛は怪我をしたものから後退を!弓隊、矢の補給忘れないでください!……?…あれは?……なに?……」
東門の守備についていた冒険者ギルドの面々は軍や遊撃の冒険者が撃ち漏らしたオークを倒して未だ防衛に成功していた。
ギルド長のリバーゼに東側を任された副ギルド長のリプシンは指示を出しながら支援魔法や回復魔法で戦線を維持する事に貢献していたが、だんだんと敵の圧力が強くなっている気がしていた。
その時、リプシンは遠くで何かが空に打ち上げられているのが見えた、何だろう?と目を凝らしたリプシンは後悔した。
「ギャハハハハッ!脆い!脆いなぁっ!さすが人族っ!一撃でッ!吹っ飛んでくぜっ!……」
リプシンの居る東門でも僅かに聞こえる大きな声、打ち上げられていたのは冒険者や兵士…そしてオーク、敵味方関係なくオロークは手にした巨大な柱を振るい、空へと打ち上げていたのだ。
粉砕された"誰か"だったモノの一部が空を舞う……その光景に、戦っていた冒険者達の一部が吐き気を催して戦場の所々で嗚咽が聞こえる。
「……ぅっ!……酷い…味方ごとなんて…それにアイツには私達じゃ勝てない……リバーゼ…ごめんなさいちょっと無理かもしれないわ………伝令!あの強い奴には接近禁止!遠距離攻撃で削れるだけ削って!」
指揮していたリプシンは吐き気を堪えると弱音を吐きながらも支援魔法と回復魔法をかけ続けていた。
「んん?……あんまり仕掛けてこねえ?…っと、こんな豆鉄砲喰らっても痛くも痒くもねぇが………おっ?アイツがリーダーか?……良い女じゃないか…アイツを犯ればこいつら大人しくなるかなぁ?」
オロークは冒険者達の攻め方の変化に気がついて不思議そうに考えていると、指示を出しているリプシンに気がつく、敗者は勝者の言いなり…再起不能まで叩き潰し、見せしめに辱めてやればこの街で逆らう奴も減るだろう。
そう考えたオロークは進路をリプシンに定めて一直線に向かって行った。
「怪我人は門の中へ…私に魔力回復ポーションを…」
リプシンが折れかけた心をなんとか持たせて指示を出す、魔力がだいぶ減ってきたのを自覚したリプシンが、近くの冒険者に魔力回復ポーションを取ってもらおうと視線を動かす。
「分かりました、副長どうぞ!」
リプシンは差し出されたポーションを受け取りぐいっと一気飲みする、飲み終えて視線を戻そうとすると目の前にいた冒険者が宙を舞ってリプシンの頭上を飛び越えて行った。
恐る恐る視線を戻して飛んでいった冒険者が立っていた方を見ると…
「俺のおもちゃ…みぃ〜〜つけた♪」
リバーゼと同じくらいがっしりした体格の上半身に何も身につけず赤い肌を晒した鬼の様な"オークロード"オロークが、顔を青ざめさせてガタガタ震えるリプシンを楽しそうに見つめていた。
とある冒険者と聖女
「生贄なんて下らない!俺があの化け物を仕留めてやる!」
そう言って、冒険者は生贄となる運命の聖女を食べようとした邪悪なモンスターを倒しました。
しかし、聖女はその甲斐なくモンスターの攻撃を受けて跡形もなくなって死んでしまったのです。
その聖女の形見だと冒険者は、血に塗れた教典と聖女がいつも身に纏っていたローブを教会に差し出して名前も告げずに去って行きました。
それ以降は生贄も要らなくなったその村は、今までの知識を新たな聖女に伝え、新たな聖女もそれに応えて力を振るい繁栄したそうです……めでたしめでたし……
「おかーさん…せいじょさましんじゃった…」
「違うのランテル君、聖女様は悪い冒険者に拐われたのよ?誘拐?になるのかな?」
ゆーかい?と聞く幼いランテルにロイテストは一言、
「そう誘拐♪だってリバー君犯罪者ヅラだし!歳の差30は行きすぎでしょ?」
「…………それなら俺たちは何千何万年違うんだ?」
「愛があればいーのっ!」
いつかのオーランド武具店の光景