強く生きていく
死んだ村人を埋める墓が村の外れにある。簡易ではあるが、そこに母達も埋められていた。
墓の一つに、母の名前が刻まれている。墓石はなく、木の板に刻まれただけのものだ。墓の前に添えられている花はメイアが摘んだ物だった。他の村人も手伝ってくれた。
大男が一輪の花を摘み、そこにそれを加えて手を合わせた。
「すまなかった」
不意に大男はそう言った。
「もう少し俺が早ければ、お前の母を救う事もできた。だが、間に合わなかった。怨みたければ、好きなだけ怨め。どうしてもう少し早く来なかったのだと」
「そんな、怨んだりしません」
「しかし、そう思わなかったか?」
確かに、思った。この大男が、もう少し早ければ母は助かったかもしれない。怨めしいとも思った。だが、そんなのは八つ当たりだと分かっていた。だからそんな感情は直ぐに消し去った。
「思いました。ですが、ちょっとの間だけです」
「子供らしくない返事だな」
「子供ではありません」
「子供だ、まだまだ親の手が必要な子供なのだ、お前は」
言って、寂しそうに大男は溜め息をついた。
「ここにお前の母親は眠っている。いや、はっきりと言おう、死んでいる。死んだのだ、お前の母は。もう、二度と生き返ったりはしない」
「分かっています」
「ならば、この村にいつまでいたって仕方があるまい」
「でも、離れたくありません」
「ならば此処で死ぬ事になる。村人は全員いなくなり、一人だけでどうやって生きていくつもりだ?」
「死ぬならば、それで構いません。お母さんの元へ行けます」
「それをお前の母は望んでいるのか?」
返す言葉がなく、メイアは俯いた。
望んでなどいない。そんなのは、メイアにも分かっていた。本当は、死にたくもない。それでも、メイアは母と別れたくなかった。ただの我が儘だ。子供ではないと言いながら、子供らしく我が儘を言ってしまう。
「俺には子がいない。だから親の気持ちなど分からないが、お前の母はお前の事を愛していたのだろう。だからこそ、自らの命を差し出してまでお前を助けた。死んだのは、弱かったからではない。誰よりも、お前の母は強かった」
分かっている。そんなのは、分かっている。メイアを助けるために、メイアの命を救うために母は死んだ。だから母の分もメイアは生きなければならない。そんな事は、分かっている。
「好きなだけ、泣け」
「泣いてなどいません」
「そうか、泣いていないのか」
「一つだけ、聞きたい事があります」
「なんだ?」
「お母さんは、私の事を見守ってくれるでしょうか?」
「見守っている。だが、見守る事しかできない。お前は、母に頼らずにこれから、この先、生きていかねばならない」
「生きていきます」
「そうか、生きていくのか」
「お母さんに助けられた命ですから」
濡れた瞼を擦った。視界が明るくなる。母の墓に向かってもう一度手を合わせた。暫くは、来られなくなるだろう。来られずとも、母は見守っている。