表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼女は剣を志す  作者: 鳥元鰐
6/50

これからの事

「後で私の家に来い、メイア」


 話しの最後に村長が言った。結局は、村長が引き取る事になるのか。彼には妻と子もいるし、経済的な余裕もないはずだ。だが、人が良いから仕方なく引き受けたのか。


 メイアは頷いたが、断るつもりだった。


 話し合いが終わり、それぞれが自分達の家へと帰って行く。今夜がこの村で過ごす最後となる。メイアも一度は家に帰ったが、何もする事はなかった。母のいない家は静かで暗く、寂しいものであった。また流れた涙を拭い、村長の家へと向かった。


 直ぐに中に通された。薄暗い一室、驚く事にそこにはあの大男がいた。


「立っているのも辛いだろう、座りなさいメイア」


 村長に促されて大男の隣に座った。大きな体に大きな剣、短くて茶色い髪と一睨みすれば相手を黙らせるような容姿、左の頬には大きな斬り傷がある。だが、恐さはない。彼は一言も発していないが、メイアに気を使っているように見えた。なんとなくだが、安心できる。彼があの魔物と戦っていた時もそうだ。それがメイアには不思議だった。


「君のお母さんについては残念だった」


 席に着いた村長が言った第一声はそれだった。


「君のお母さんは大人しかったが、実に優しい人だった。誰かが困っていれば直ぐに助けに行くような人で、家の子が産まれた時も産婆を呼びに行ってくれたりしたな。その後は、初めての出産で不安がっていた妻にずっと寄り添ってくれた。旦那の私は慌てる事しか出来なかったのに」


 そのまま村長は母の昔話をしてくれた。幼い頃、母は祖母に連れられてこの村を出たらしい。そして五年前に、赤ん坊だったメイアを連れて戻って来たそうだ。その間に何をしていたのかは分からないが、母を連れて行った祖母は既に死んでいるとの事だった。祖母を失い、父を失い、行くあての無くなった母は村へと戻って来たようだ。


 出戻りという形になるが、母は決して村人達から嫌われていなかった。むしろ、好かれていたような気がする。村長の言う通り、母は優しかった。その優しい母がメイアは大好きだった。


「それでメイア、これからの事なんだが」


 村長の口からそう言葉が出て、メイアは身を硬くした。


「待て、そこから先は俺が話そう」


 村長を遮るようにして大男が言った。どうして此処で彼が出てくるのか、メイアには分からなかった。大男がメイアを見下ろしてくる。メイアも彼を見上げた。やはり、恐さはない。


「お前は俺が預かる事になった」


 目が点になった。予想外の言葉だった。メイアが返す前に、大男は続けた。


「と言っても、少しの間だけだ。遠くにお前の親族…叔父か叔母がいるらしい。しかし、何処にいるかははっきりしていない。なので、そこまで俺がお前を連れて行く事になった」


「この村を出るのですか?」


「嫌か?」


「嫌です、お母さんと別れたくありません」


 自然と、そう口から出ていた。敬語なんて普段は使わないが、母から教わっていたので知ってはいた。どうしてこの大男に敬語を使ったのかは分からない。命を救われたからか、見事に魔物を倒した強さに敬意が現れたのか、いずれかなのだろう。


「来い、お前の母の墓へと行こう」


 少しの沈黙の後に、大男はそう言った。メイアは素直に頷いた。大男は村長に目配せし、家を出ていった。その後ろをメイアは付いて行く。大きな背中を追い掛けた。大男はメイアに合わせて歩調をゆっくりとしてくれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ