孤独なメイア
夕方近くになると、ようやく村は落ち着き始めた。村の中央に火がくべられて、動ける村人全員が集められた。隊長の男の姿は無かったが、兵士や大男の姿もあった。
まるで昨夜の宴会のようだ。だが、昨夜と違い皆の顔色は暗かった。
「皆がどうして集められたか分かっているだろうが、話しとはこれからの事だ」
切り出したのは村長であった。小さな村だろうと、村長は必ず存在する。他の町村との親交も少なからずともあるし、何より村を纏める者は必要だった。この村の村長はまだ若い。確か、まだ三十代の前半だった。
「この村にいる人間は全部で七十八人、その内の十一人が死んだ。三人が重傷で軽い怪我を負った者はもっと多い。こんなにも失ってしまったとも言えるし、これだけで済んだとも言える」
村長以外は誰も口を開こうとしなかった。穴を掘り、死んだ人間はそこに埋めてある。棒を立て、積んだ花を添えただけの粗末な墓だった。メイアの母もそこに眠っている。
「小さい村だが、今までみんなで協力しあって生きてきた。貧しかったが、笑顔が絶えなかった。他の村の村長に、明るくて良い村だ、とよく言われたよ。それがこの様だ、たった一度の魔物の襲撃で、我々は多くを失った」
「申し訳ない、村長殿」
言ったのは、副長と呼ばれていた男だ。隊長の次に偉い人なのよ、とメイアは母から聞いている。その副長と兵士たちが一斉にその場でひれ伏し、頭を下げた。きっと彼らは村を守れなかった事に責任を感じているのだろう。
「頭を上げてください」
「しかし」
「あなた方は懸命に戦ってくれた。救われた者も大勢いる。死んだ者だって、村人よりもそちらの方が多い。感謝すれども、責める訳がありません。有り難う」
その言葉に副長たちはゆっくりと頭を上げた。目には涙が浮かんでいる。
「そういえば、隊長殿の容体は大丈夫でしょうか」
村人の一人がそう質問をした。心の何処かで彼らを怨み、責めている人もいるかもしれない。でも悪いのは魔物であり、兵士達ではない。だから誰もそれを口にしない。村長の言う通り、彼らに救われた村人も大勢いる。メイアものその一人だ。
「命に別状はないので、安心してください」
メイアに気を使った言い方だ。確かに命は助かったらしいが、片腕は切り落としたのだという噂は聞いている。
「それで村長、これからどうするんだ?」
村人の一人が言った。
「この村を捨てようと思う」
メイアは驚いたが、ざわめきはおきなかった。もうみんな、察していた事なのかもしれない。
「あの鳥の化け物は剣士殿のおかげで全滅した。しかし、一度襲われた村だ。またいつ魔物に襲われるかも分からない。それならば、別の村に移住した方が安全だ。ただ、これだけの人数を受け入れるのは大変だろうから、全員が同じ村にという訳にはいかない。他の村に親族がいる者は、そちらに行ってくれ」
それからは、誰がどの村にという話しになった。本当にこの村を捨てるのか、誰も反対しない。メイアは嫌だった。他の村に行ったら、一人になってしまう。この村から、母から離れたくなかった。
次々と何処の村に向かうのか決まっていく中で、メイアの名だけはあがらなかった。メイアには母以外の親族はいない。しかも、まだ六歳の子供だ。だから、村人の誰かが引き取らなければならない。しかし、誰も引き取る余裕がない。子供ながらに、それが分かった。
結構だ、自分はこの村を離れる気はない。