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幼女は剣を志す  作者: 鳥元鰐
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大男の剣士

 誰かに、押された。隊長の男だった。転んで擦り傷を負ったが、メイアはなんともなかった。しかし、隊長の男の片腕に穴が空いていた。大量の血が出ている。


「隊長さん」


 それだけ、声が出た。


「逃げろ」


 隊長の男は残った片腕で剣を構えて言った。涙が流れていた。頷いて、再びメイアは走った。


 母は何処にいるのだろうか。きっと、家の中にいる。だから家に向かって走り続けた。村中は混乱していて、逃げ出そうとする村人たちが次々と殺されていった。小さな村だったから、殺された人をみんなメイアは知っていた。仲が良かった人もいる。必死に耐えて、メイアは家に向かった。


 矢が効かないので、兵士達は槍と剣に持ち替えて戦っていた。だが、そのどちらもあの魔物には弾かれた。それでも、彼らは逃げずに戦っている。その姿は立派だったが、それを嘲笑うかのようにまた一人、鳥の魔物は兵士を殺した。


 ようやく、家の前まで来た。玄関が開いている。お母さん、と叫びメイアは駆けた。


 だが、そこで足がほつれた。


 転ぶ瞬間が、とてもゆっくりに思えた。目の前に鳥の魔物が迫って来た。あと少しなのに、すぐ目の前なのに、悔しくてメイアは手元の土を握り締めた。


 短い人生だった。今までの思い出が、頭を過る。母との思い出が殆どだった。せめて、お別れぐらい言いたかった。


 眼は閉じなかった。閉じれば良かった。


 気付けば、魔物とメイアの間に母が立っていた。一瞬、何が何だか分からなかった。母の背中から、赤い嘴が飛び出ている。一気に、魔物はその嘴を引き抜いた。どさり、と後ろに倒れる形で母は倒れた。目が合う。母はあの優しい笑みを浮かべていた。


「メイア」


 名を、呼ばれた。それだけだった。


 それ以上は、続かなかった。終わりだった。


 声が出ない。また、魔物が迫っている。


 逃げないと、しかし体が動かない。


 このままでは、せっかく母が守ってくれたのに。でも、体はやはり動いてくれなかった。


 駄目だ、逃げられない。今度は目を閉じていた。怖くはない、母と一緒に死ねるのだから。自分に言い聞かせた。


 いつまでも痛みは感じなかった。死ぬときは、そんなものかもしれない。死ぬ前に母の顔を見たいと思い、目を開けた。


 大きな背中が目に入った。母のではない、知らない男だった。


 その奥で、あの鳥の魔物が死んでいた。母を殺し、屈強な兵士達ですら全く歯が立たなかったあの魔物が。


 メイアが今まで見てきた誰よりも背の高い男だった。手には、これまた大きな剣が握られている。その剣には血がついていた。


「脚だ、脚を狙え」


 不意に大男はそう叫んだ。まだ生き残っていた兵士の一人がそれを聞いて、対峙していた魔物の脚に剣を斬り付けた。魔物が、悲鳴を上げて苦痛の表情を浮かべる。それに大男が素早く近付いて、剣を払った。その一撃で、あの鳥の魔物は倒れた。そのまま、とどめに大男が魔物の頭に剣を突き刺す。それで鳥の魔物は絶命した。


 まさかやられるとはとは思わなかったのだろう。鳥の魔物は完全に狩る側であった。それが、一人の男の出現であっという間に仲間が二匹やられた。危機を察知したのか、一斉に残りの鳥の魔物達は空へと羽ばたいた。


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