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幼女は剣を志す  作者: 鳥元鰐
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村を守りに来た兵士たち

 物心がついた時から、父はいなかった。兄弟どころか親族すらもいなかったので、メイアにとって家族とは母だけであった。


 メイアは母が大好きだったし、母もたった一人の娘を愛してくれた。暮らしは豊かではなかったが、食い物に困る事もなかった。


 小さな村で、母と娘で暮らしていた。村人は少なかったが、皆が協力しあって生きていた。畑を耕し、作物を育ててそれを食べる。月に一度くらい現れる行商人から珍しい物を買い、年に二回ほど訪れる旅の一座の芸を楽しむ。


 どうしても気になり、一度だけ母に父の事を聞いた時がある。母は困ったような顔をして、遠くに行ったのよ、とだけ答えた。遠くに行ったのならば、いつか会いに行こうと本気でその時は思った。父が死んだのだと分かったのは、母が亡くなった後だ。


 幼い頃の記憶はあまりない。母の温もりを感じて、村の数少ない同年代の子と遊んでいたような記憶しかない。活発で元気のある子供だったらしい、と後に聞かされた。そうだったのかもしれない、と思うだけだ。


 ただ、あの出来事の前後は深く覚えている。


 それは、メイアが六歳の時の事だった。


 雨の降る日の夕方であった。メイアは一人、母の帰りを待っていた。村の大人達が集まり、何か話し合いをしていたのだ。それが何の話しあいなのかメイアには分からなかったし、興味もなかった。ただ、母が早く帰って来ないかと待ちくたびれていただけだ。


 ようやく帰ってきた母の顔は少し暗かった。だが直ぐに笑顔になってメイアに、ただいま、と言ってくれた。それで嬉しくなり、メイアは母に抱き付いた。すると母は、優しく頭を撫でてくれる。よく、母はメイアの頭を撫でてくれたし、それがメイアは好きだった。


 それから度々、村の大人たちは何かの話し合いで集まった。その間、メイアは村の子供達と遊んだりして時間を潰して過ごした。家に帰ってくる母の顔は相変わらず暗かったが、いつも直ぐに笑顔になる。その顔に安心して、いつもメイアは母に抱き着いていた。


 ある時、帰ってくるなり母は強くメイアを抱き締めた。抱き締めて、もう大丈夫だからね、と呟いた。何が大丈夫なのかメイアには分からなかった。ただ訳も分からず、うん、と答えていた。


村に異変があったのはそれから五日ぐらい経った後だ。


 突然、重装備の防具に身を包み、長槍を手に持ち、背中に矢袋を背負い、腰に剣と弓を差した集団が村にやって来たのだ。他の子供達は彼らを恐がっていたが、メイアは全く怖くなかった。むしろ、彼らは何なのだろうという興味が強く芽生え、気付けば近付いて直接聞いていた。


「おじさん達は、悪い奴らをやっつけに来たんだ」


 眩しい笑顔を浮かべて、隊長らしき男がそう言った。


「悪い奴らって、何なの?」


 そうメイアは返していた。隊長らしき男は尚も笑顔を絶やさずに答えた。


「この村の近くでね、悪さをする魔物が出たんだ。この前、別の村が襲われてね。なに、たいした事はないのだけど、何かあった時のためにおじさん達がお嬢ちゃん達を護りに来たんだよ」


 魔物という言葉は母から聞いた時があった。とても恐ろしい生き物だから、絶対に近付いては駄目だ、と言われている。だが、大したことは無いのだと隊長らしき男は言っていた。


 ならば、大丈夫なのだろう。きっと彼らが魔物をやっつけてくれる。子供から見ても彼らは強そうで、恰好が良かった。特に、この隊長らしき男の笑顔はメイアに安心を与えてくれる。


 この男は、この部隊の本当の隊長だった。他の者から、隊長、と呼ばれている。なので、メイアも彼の事を隊長さん、と呼ぶ事にした。


 その夜、ちょっとした宴会になった。普段なら決して食べられないような御馳走を並べ、魔物を倒しに来た彼らを村中で歓迎した。お酒も用意していたらしいが、隊長の男は、いつ魔物が出るか分からないから、とそれを断った。


 メイアも純粋に母と一緒にその宴を楽しんだ。母の顔にはもう暗い色は見えなかった。嬉しそうに笑い、メイアの頭を優しく撫でる。他の村の子供達もその頃には彼らを恐がらなくなり、彼らにじゃれついている子もいた。メイアも母の手を引っ張り、隊長の男と沢山話しをした。


 彼らはこの国の兵士達らしい。お城に住んでいて、日々鍛錬をし、魔物が出たら出撃して国民を守っている。先日、その魔物の噂を聞いて、上の人から命令されてこの村までやって来たそうだ。


 メイアは隊長の男から様々な武勇談を聞いた。彼は沢山の魔物と戦い、今まで多くの人々を護ってきたそうだ。


 その話しにメイアは目を輝かせた。格好良い生き方だ。いつか自分も、そんな生き方をしたいものだと思った。だが、それは口にしなかった。すれば、母はきっと反対するに決まっている。だから心の中に、そっとその感情をしまい込んだ。母が悲しむのが一番辛い。


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