第七話 駐車場に潜む楕円形
好きな色は?と聞かれたら、オレンジまたは黄色!と即答するほどに、僕は柑橘を愛している。あの「酸っぱい」と「甘い」の絶妙なバランスがたまらないのだ。僕の筆箱はレモンのイラストが大きく描かれていて、とってもファンシーだ。占いのラッキーアイテムは、僕の場合、絶対に柑橘だろう、しかも毎日だ。
「君はエブリイ休み時間、オレンジを食べているけれど、お腹の中はオーケーなの?」
僕の行動を不審がるこの男は、菊美博一という。会話の中に無理やり英語を挟むという、ちょっとうざめなキャラである。正直、僕はこいつのことが、少しばかり苦手だ。
「これは、オレンジじゃなくてみかんだよ」
「へえ、クレイジーだねえ。それが君のリラクゼーションかい?」
知っている英単語の範囲が狭いのか、会話の流れがちょっとずつズレてくる。
「僕は柑橘がすごく好きなんだよ。それに小腹を紛らわすにはちょうどいい量なんだ」
「ティーンは食べ盛りだからね。そうだ、パーキングの端に何のフルーツかわからない実がなっているんだけれど、君は知っているかい?」
そもそも駐車場に用がないので知らなかった。
「滝肥田くんがいつも登っているツリーなんだよ。彼にも聞いてみよう」
滝肥田稔は、高校生ながら木登りが趣味らしく、落ちることもしばしばで、どこかしらにいつも包帯が巻かれている。
「俺が登っている木?ああ、ジェリーね」
これは僕の想像であるが、滝肥田は自分の登った木に名前を付けている。そして、まるでペットのように戯れているのである。僕の想像であるが。
「そんなに気になるなら、今日の放課後、お前らも一緒に来いよ」
木登り名人・滝肥田くんに招待された。
「オフコース!本賀くん、柑橘ニストとしてはこのミステリーを確かめに行くしかないね!」
ツッコミどころが満載だったが、僕もこの学校に潜む柑橘には興味があったので、一緒に行くことにした。
「よし、今から登ってもぎ取ってくるから」
滝肥田くんは慣れた手つきで枝をよじ登り、どんどん上がっていった。
僕でも手が届きそうなところに実を見つけたのだが、滝肥田くんの勢いに、それを言いだすことはできなかった。
「滝肥田くん、モンキーみたいだ」
こいつは相変わらず無駄に英単語に変換してくる。
「ほらよっ」
滝肥田くんは、実を僕たちに投げ、菊美がそれをキャッチした。自分で「ナイスキャッチ!」と、どや顔で言っていたので、僕は無視した。
「本賀くん、これ、何かな」
「無花果だね」
何だか期待をしすぎていたようだ。それに、僕は無花果が好きじゃない。そもそも無花果は柑橘だっただろうか。
「滝肥田くん、登るならもっと立派な木にした方がいいんじゃないかな?」
「そうだよ、なんか虫もいそうだし。もっとビッグツリーの方がエンジョイできるよ」
僕と菊美はなぜか気を使った笑顔でそう言った。
「俺も実はそう思ってたんだ。いつか大きなクリスマスツリーをよじ登って、そこから景色を眺めたい」
一体どんな話の流れでそうなったのか、おそらく僕と菊美は理解できなかったが、僕たち三人は、理想のクリスマスツリーを探しに、森へ出発することになっていた。
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