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青春と僕たちの架空  作者: 白木雨芽
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第六話 校則違反と恋

僕は見逃さなかった。あの梶谷仁美がアニメ「救急マピモン大合戦」の数量限定レアキャラ、〝にゃちゅみ〟のストラップをスクールバッグに付けているのを!コレクターの僕なら、ガラスケースに入れて大切に保管するところだが、彼女は惜しみもなく、いつ落として無くすかもわからないスクールバッグなんかに、ゆらゆらとぶら下げている。なんて無防備なんだ!

「のっきー、どこ見てんの?」

間芹汰壱がおにぎりをくわえながら言う。

「あれ、見てくれよ。お前も知ってるだろ?にゃちゅみのストラップなんてどこを探しても売り切れだったのに、梶谷さんが持っているなんて」

「梶谷さんって、たしか社長令嬢だよね。ストラップ一つなんて容易いんじゃないかな?」

社長令嬢……。世の中はなんて不平等なんだ。こんなところで格差を感じるだなんて。

ん?待てよ、たしかうちの高校って、バッグにストラップを付けるの、校則違反じゃないか⁉だとしたら、にゃちゅみのストラップは間違いなく没収される!先生に見つかる前に梶谷さんに教えてあげなきゃ。

「僕、梶谷さんと話してくる」

「えぇ、いってらっしゃーい」

僕は梶谷さんのもとへ向かった。しかし、梶谷さんは複数の女子とお弁当を食べていて、何だか入りづらい。僕は汰壱以外の人とはあんまり喋らないし、何より女子の集団というのが恐ろしい。しかし、ビビっている場合ではない。あの貴重なにゃちゅみが教師の手に渡ってしまうかもしれないのだ。そんなの、見ていられない!

「軒沢くん、うちらに何か用?」

しまった。女子集団の方から先に声をかけられてしまった。

「あ、梶谷さんに話が……」

まるで告白をする前の呼び出しのような感じになってしまった。

「ひとみん、軒沢が話あるってー」

案の定、女子集団はにやにやと僕を見ている。

「軒沢じゃーん。何の用?」

梶谷さんはサバサバしている人で、見た目も派手な方だった。ふくよかな体型は、その裕福さを物語っていた。

この場で言ってもいいのだろうか。しかし、内容は梶谷さんが校則違反を犯しているということだ。こんな公の場で伝えてしまえば、梶谷さんに恥をかかせてしまうのではないか。だとするならば、

「ちょっと、廊下でいいかな?」

僕の言葉に女子集団が歓声を上げる。梶谷さんも周りからのヤジを「やめてよ」と言いつつ、まんざらでもなさそうな顔をしている。告白じゃない、とはとても言いずらい。

僕たちは、周りに注目されながら、廊下に出た。

「あの、軒沢。私、彼氏とかそういうの、今は作らないって決めてるんだよね。だから、ごめん」

告白してないのに振られた。しかも「今は彼氏いらない」宣言までされてしまった。いつものサバサバした梶谷さんではなくて、なんか、ちょっと女子になっている。いや、女子だけど。ここからどう、にゃちゅみのストラップの話を切り出したらいいだろうか。

「校則違反って、知ってる?」

しまった。ちょっと怖い出だしになってしまった。うわ、梶谷さん、急にそんなこと言われてめちゃくちゃビビってるよ。

「まさか、脅してまで私と付き合いたいっていうの⁉」

激しい誤解を生んだ。なんか、初めから話がかみ合ってないからややこしい。でも、ここで梶谷さんに対する好意を否定したら、それはそれで梶谷さんを傷つけてしまいそうな気がする。社長令嬢という肩書きのある梶谷さんのことだ、僕にそんなことをされたらプライドがズタズタになったりしないだろうか。

ここは、思い切って話題を変えて、「救急マピモン大合戦」の話をしてみてはどうだろう。きっと、あのストラップを持っているということは、梶谷さんもファンに違いない。うん、そうしよう。

「梶谷さんって、好きなアニメある?」

これならどうだ。今の流れで突然アニメの話に切り替えるというのは、とても不自然ではあるが、これでストラップの話まで辿り着けるだろう。

「デ、デートの誘い?いきなりお家デートって、私たち、ただの友達でしょっ」

ダメだこの人。自分が告白されたという認識が粘り強く頭の中に残っているようだ。しかもちょっと顔を赤らめているじゃないか。とんだ誤解の連鎖だ。

「僕、救急マピモン大合戦っていうアニメが好きなんだよね」

「えっ、私も好き……。もしかして、私の好きなアニメを調べてくれたの?」

勘違いも甚だしい。いくら期待を煽るシチュエーションを作ってしまったとはいえ、物事を自分への好意だと解釈しすぎじゃないか?

「のっきー、にゃちゅみのストラップのこと、話したー?」

救世主‼ここにきて汰壱の登場、ナイスタイミングだ。この空気をどうにかしてくれ。

「あら、間芹くん。どうしたの?」

「さっき、のっきーと梶谷さんのこと話しててさー、社長令嬢だって話したらのっきーが梶谷さんのところに行ってー」

その言い方だと、まるで僕がお金持ちという事柄に釣られたみたいじゃないか!

「軒沢ったら、私のこと好きだって言ったの、お金目当てだったんだね!」

違う。それに梶谷さんのことが好きだなんて一言も言っていない。

梶谷さんは泣きながら、「帰る!」と言い出し、スクールバッグを教室から取り、廊下を走り去っていった。にゃちゅみのストラップがゆさゆさと激しく揺れるのを見て、僕はため息を漏らした。

読んでいただき、ありがとうございました!

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