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青春と僕たちの架空  作者: 白木雨芽
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第三話 神様のいる教室

かっこいいだとか、美しいだとか、そんなありきたりな言葉では、僕の魅力は語り尽くせない、というのが僕の見解である。歩けば誰もが振り向くほどの輝かしいオーラを放ち、僕が笑えば世界の幸福度が五十パーセントは上がる。スマホの待ち受け画像はもちろん、僕。僕はこの世界の中心にいるのだ。

そんな僕の周りに「王子」と呼ばれ、もてはやされている、いけ好かない男が現れた。

名は弧国湊という。もちろん、僕よりは劣るが、彼の容姿は一般的にイケメンと呼ばれるものに属する。しかし、あんなへにゃへにゃした坊ちゃんに僕は絶対に負けない。彼が王子なら、僕は人間を超えた〝神様〟だろう。異論は認めない。僕は、神なのだ。

「羽立くんってナルシストだよね」

それは平穏な休み時間に訪れた。ナルシストなどという言葉で僕を一括するなんて、それはもう失礼な人間だ。しかし、青石左利というこの女、僕と話したことなど一度もないはずなのに、一言目がナルシスト呼ばわりとは、こんな屈辱は初めてだ。

「青石さん、僕がナルシストだなんて、何か誤解しているんじゃないかな?」

僕は神、それならば人間の言うことにいちいち動揺なんてしないのだ。ここは穏やかに、冷静に、いつも通りの笑顔で。

「さっきから、自分のことを神って言ってるよね」

エスパー⁉この女、心の声を読み取れる能力があるのか?だとしたら、めちゃくちゃ恥ずかしい。僕が尊い存在であることに変わりはないけれど、それを他人に聞かれるだなんて、僕の威厳が失われる!

「次、移動教室だよ。教室の中で一人ぽつんと何か喋ってたけど大丈夫?」

僕は周りを見渡した。僕と青石さん以外、誰もいなかった。

「え、もしかして心の声、僕が声に出してた……?」

「かっこいいだとか、美しいだとか、そんなありきたりな言葉では、僕の魅力は語り尽くせない」

うわああああああああああ。改めて他人から聞くととても恥ずかしい。しかも、こんなことを電気の消えた暗い教室で一人ぶつぶつと言っていたというのは、度を越えた変態じゃないか。

「弧国くんのこと、ライバル視してるんだね」

そうだった。僕は弧国湊のことまで呟いていた。アウトオブ眼中という姿勢が、僕のような崇高な存在にとって大切であったのに、もはや弁解の余地がない。

「青石さん、さっき聞いたことはなかったことにしてくれないかな」

必死だった。僕の高校生活をこんなところで終わらせるわけにはいかない。

「いいよ、日直の仕事を手伝ってくれるなら」

「もちろんだよ!」

青石さんが単純な人で良かった。僕の輝かしい高校生活は、約束された。

「じゃあ、放課後、教室に残ってね」

「うん!」

青石さんは、急いで教室を出ていった。そういえば、次の授業は移動教室だと言っていた。そんな知らせ、僕には届いてなかったので、僕も慌てて青石さんの後を追いかけていった。



放課後、僕と青石さんと、それからもう一人の日直の久代湖石が静かな教室に残った。

「あれ、どうしたの?日直じゃないよね?」

当然ながら、僕がいることの不自然さに久代さんは疑問を投げかけた。

「羽立くん、神様だから何でもしてくれるって!」

青石さん⁉さりげなく僕の秘密をぶっこんできた。

「本当に?あたし、神様とかそういうファンタジックな話、大好きなの!」

ノリなのか?神様の解釈がずれている気がする。

「早速だけど私、ちょっくら部活に顔出してくるから、二人は日誌書いてて!」

青石さんは風のように教室を出ていってしまった。

「左利ちゃん、バスケ部のエースだもんね」

「へえ。一年生なのに凄いね」

思えば、久代さんとも話したことがなかった。夕暮れの教室の中で女子と二人きりというのは、慣れないものである。

僕たちは、とりあえず机を向き合わせて日誌を埋めていくことにした。

「久代さんは、部活とか入ってるの?」

沈黙を破るように、僕は久代さんに話しかけた。

「あたしは、ファン研だよ!」

ファン研……?僕の聞き間違いか?

「ファン研ってどんな部活なの?てか何の略なのかな?」

「ファンタジー研究部のことだよ!活動内容はね、この世のあらゆる不思議を調査するの」

ずいぶん抽象的な活動だ。

「その活動で何か大きな結果は出たの?」

「今のところ、特にファンタジックな出来事はゼロだよ!だから羽立くんが神様って話、聞かせてほしいな!」

神様の解釈が絶対に違う。ちょっとこの人、面倒な人かもしれない。

「残念だけど僕はただの人間だよ……」

僕の自尊心がすり減っていく感覚がする。

「えー!そうだったんだ……やっぱり、弧国くんかなぁ」

「なぜ弧国⁉」

ここで弧国の名前が出てくるとは、屈辱的だ……。

「弧国くんって、少女漫画の王子様って感じだよね。普通の人とは違うオーラっていうか、生まれながらの天使っぽい!」

弧国がとても褒められている。この僕を差し置いて。

「ファン研としてはやっぱり、弧国くんの魅力をクローズアップすべきだよね!羽立くんと話してよかった!早速部活に報告してくるよ。日誌、あとはよろしく!」

久代さんは目をキラキラとさせて、僕を教室に残して去っていった。

「僕は、世界の中心……」

教室には、僕のか細い声だけが響いて散った。


読んでいただき、ありがとうございました!

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