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青春と僕たちの架空  作者: 白木雨芽
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第十二話 現実は想像を超える

高校生になったら、放課後は友だちとオシャレなカフェで語り合い、ちょっと都会まで行ってショッピング。制服でプリクラを撮って、「イツメン最強」とか言いながら、街を練り歩く。

誰もが私たちに向かって「今が一番楽しい時期だ」と言うけれど、それは努力次第。高校生なんて期限が短い。何も考えず電車に揺られているだけなんてもったいない。私は後悔するような青春時代を送らない、絶対に。

私は入学してすぐ、ある女の子に目をつけた。

江南ハジキ。明らかに他の子と違うオーラを放っていた。赤ちゃんのように柔らかいほっぺと大きいクリクリの目が特徴的だった。

あ、私、この子と友だちになりたい。そう思った私は、気付いたときには話しかけていた。

「私、針宮三琴っていうの。よろしく」

私の言葉に、ハジキはニコッと笑って「よろしくね」と言ってきた。近くで見ると、顔が小さくて睫毛も長くてお人形さんみたいだった。私は、芸能人を目の前にしたような気持ちになって、ハジキの顔をじっと見ていた。

それから、私とハジキは行動を共にするようになった。お弁当を食べるときも、移動教室に行くときも、ずっと一緒だった。

「ハジキって、好きな人とかいないの?」

トイレ掃除をしていると、私の頭の中に浮かんだ素朴な疑問が自然と口に出た。鏡にハジキの驚いた顔が映っていた。

「急だねー。好きな人かぁ。うーん、いないなぁ」

ハジキは誰に対しても愛想がよく、表裏が全くない。いつもニコニコしていて、むしろ心配になってしまうほどだ。

「みこっちゃんこそ、いるでしょー?」

「私の話はいいの」

トイレの窓を開け、空気を入れ替えた。ハジキは持っていたホウキをしまおうと、掃除用具入れを開けた。

「きゃー‼」

突然ハジキが悲鳴を上げた。掃除用具入れに虫でもいたのだろうか。私は嫌な予感を抱えながら、そっと中を覗いた。

「わあー‼」

それなりの覚悟をしていたが、私も叫んでしまった。

なんと、窮屈な掃除用具入れに人間が入っていたのだ。

「何やってるの、麺定朱里さん……」

同じクラスの女子だった。

「ごめん、私狭いところに入るのが大好きでつい……」

何かの言い訳のように聞こえるが、これは事実だった。麺定さんが掃除用具入れに潜み、人を驚かしてしまったことはこれが初めてではないのだ。

「よりによってトイレの掃除用具入れはやめといた方がいいよ……。見えない菌がたった今全体的にまとわりついた……」

麺定さんの「狭いところが好き」というのは、中毒なみだった。目の前に美味しそうなプリンがあると我慢できない私たちのように、麺定さんは狭いところを目の前にすると入りたくて仕方なくなるのだ。

「江南さん、今日あなたの家に行ってもいい?」

何を言うかと思えば、麺定さんは私も行ったことのないハジキの家を訪問しようとしている。

「急にそんなこと言われたら、ハジキも困るよね?」

ハジキのことだから、断ることは難しいだろう。ここは親友の私が止めに入らないと!

「ううん!いいよ、前にも行きたいって言ってたもんね」

私は耳を疑った。そもそもハジキが麺定さんと接点があったこと自体、知らなかった。それに、いいの?彼女の制服、雑菌だらけだよ⁉いや、落ち着け私。きっと、何か事情があるに違いない。

「じゃあ、私も行ってもいい?」

「みこっちゃんも?いいよ。女子会だね!」

ハジキの曇りのない笑顔が、今は見ていて心配になった。



「お邪魔しまーす」

私たちは、玄関でハジキのお母さんに挨拶をし、二階のハジキの部屋に向かった。

「わあ、ハジキの部屋めっちゃ綺麗!期待を裏切らない」

白とピンクで統一された部屋は女の子らしさにあふれていて、私は思わず感心してしまった。

「麺定さんはこっち!」

ハジキはなぜか麺定さんだけ、違う部屋へと手招きした。そこは部屋というには狭く、ただの納戸のようなものに見えた。

「えー、最高‼」

麺定さんは甲高い声でそう言った。

「ただの納戸では……?」

私も覗いてみたが、特に変わった様子のない納戸にしか見えなかった。

「針宮さん、わからない?この絶妙な壁と壁との距離感!足を伸ばしきれない奥行き!居心地の良さが満点だよ!」

麺定さんは、その納戸の良さとやらを力説した。私がぽかんとしていると、ハジキが小さな声で言った。

「実は私も狭いところマニアなの。正直、さっきの掃除用具入れもゾクゾクしてた」

私はハジキの突然の告白に、しばらく口角を上げることしかできなかった。

「針宮さんも、入る?」

麺定さんの粋な計らいに「あ、うん」と答え、隣に座ってみた。それはとても、狭かった。

読んでいただき、ありがとうございました!

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