三人の世界
少年は普通を知らなかった。
目にするもの全てが新しく、美しく思えた。
少女は普通の中で生きていた。
見ていたもの全ては、少し前に壊されてしまったけれど。
壮年は普通で自分を守っていた。
作り上げた殻越しに、外を眺めていた。
「これで大丈夫だ、精神的なショックが大きいんだろうな。外傷もそんなにないし、うん」
「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎、◼︎◼︎◼︎」
「だから分かんねえよ……一応色々話し続けてやるけどさ」
心なしか少女の顔色は良くなった気がする。
中性的な人間の、濡れた服を着せたままにはしておけん、と服を脱がせた時に性別が発覚。少女。女の子。
うーそだろ、着替え担当見ず知らずのおっさんでごめんな……でもこのままだと風邪引くからな……うちに嫁さんとかいれば良かったな……と心の中で盛大に謝り、後悔し、あと勝手に伴侶関連で自爆。
孤独死真っしぐらを突き進むおっさんの後悔なんて引きずっては駄目だ、死にたくなる。切り替えていかねば。ううっ、くそっ。
相変わらずそれは意味のわからない言葉を話すし、統一言語に変える気もなさそうだ。
金髪を高い位置で結わえたこれまた可愛い顔立ちの子で、あの馬力はどこから出てんだと叫びたくなるような細っこい手足。なよっちくて、ちびっこい。
なんたって、背負ってきた女の子よりも小さい。
さっきの経験が無かったら、これが大人よりも戦えるとか逆立ちしたって思いもしない。
一瞬、俺と同じようにバフをかけて殴るタイプかと思いきや、起動に不可欠な精霊の反応は無し。
つまりは、あれが素。
ずるい。ずるいぞ。俺だってそんな馬力が欲しかった。
「その力はどこから出てるんだ?」
そんな思考をしつつ、下らない会話を一方通行で進めていたのだが。
そう問いかけて見つめてやると、それは一瞬「む」と悩むように唇を突き出して、口を開いた。
「ソロちからハどこカラ出てルルだ?」
淀みなく、イントネーションもほぼ完璧な文が飛び出す。
所々発音が残念だけれど、訛りみたいなもんだ。
意味は通じる。
「……へ」
今の、たった一回で? 聞き取りやすいようとか考えもしてなかった、むしろいつもより少し速いくらいだ。
嘘だ、いくら子供が成長が早いからって。そんな。
「? ソロチカラ……」
「そ、そのちから」
「ソ……ノ?」
「の」
「そのちから」
完璧になってしまった。
「どこから」
「どこから」
お、おいおい。
「出てるんだ?」
「でてる……ん、だ?」
ちょっと待ってくれ。待ってくれよ。
「その力はどこから出てるんだ?」
得意げにそれは笑った。どうだ、完璧だろう。
俺はというと、それを素直に認める事ができない。
俺が嫌な奴というわけではなく、驚きすぎて陸に上がった魚見たいな顔をしているという事である。
口、ぱくぱく。瞳孔ぱっかーん!
いや、おっさんの顔芸誰も嬉しくねえから。
セルフツッコミを入れ気を取り直す。
「……」
「……」
それは目を輝かせ、次を待っている。
次の言葉も完璧に発音してやる、と言いたげだ。
「……こんにちは」
「こんにちは」
「ありがとう」
「ありがとう」
ならば、という話である。
取り敢えず意味がわからなくても挨拶は発音できるようになっておくべきだ。
最悪、言うべき時に俺が促してやれば……。
……ん? なんで俺が、こいつと一緒にいる前提なんだ?
……こ、細かいことを考えていたら日が暮れるし、俺の顔も夕焼け色になってしまう。
取り敢えず発音を教える! 教えてやる! それで良い!
一回前置きにセンスないポエム書いたらなんか毎回やらなければとか思い始めてしまってダメですね、センスのなさに悲しくなってくるので次からは普通にしたい。
少年かわいいよ少年。彼が書きたくて話を始めたようなものなので可愛いのも当たり前だった。




