親切で優しい大魔王様
適当に、ぶらついていた青年は王冠をかぶった美少女に会い「あなたが勇者だ!魔王城にいる大魔王を倒せ」と言われ、青年は勇者となった。
「武器や防具を買うお金は持ってないし、魔物と戦いたくないから、その辺に落ちてる物で向かうか」
勇者は魔王城へ向かう道中、見つけた物を装備し大魔王のいる部屋を部下に見つからないよう、勘で探し遂に物々しい扉を見つけ入っていくのだった。
「よくぞ、ここまで来たな……」
「お前が大魔王か?」
「そうだ、我こそが大魔王だ!」
如何にも大魔王が着る黒い服装とマント、それに禍々しい角が頭部にある。
それだけでなく魔力を増幅させる大きな杖を持っている。
大魔王は勇者に自慢するかのように腕を大きく広げたが、そこで大魔王は気づいた。
「勇者よ……なんだ、その恰好は……」
勇者の恰好は麻の衣服に、ところどころが欠けた剣と簡単に作られた木の盾。
「これは、俺が一生懸命に集めた物だ! くらえ!」
そう言い、襲ってきたが……。
「我の『火の息』で終わりだ」
火炎をまとった息は勇者の身体を包み「あつっ!」と叫びながら倒れた。
「くそっ! ここまで来たのに……」
「っていうか、勇者……ホントに、よくここまで来たな。我の心強い部下を、どうやって倒したんだ?」
そして、必死に口を動かし勇者は言った。
「見つからないよう、隠れながら来た!」
「警備が甘かったのか? 配置を変えて、仕掛けも増やすか……ありがとう、お前のおかげでより魔王城を堅固にできる!」
大魔王は余裕の笑みを浮かべて、更に続ける。
「もう一回チャンスをやろう……」
「チャンス?」
「そうだ、このまま終わらせるのは、面白くないのでな……次、来る時はレベルを上げてこい。今のお前は、5レベルだ。100レベルまであるのに、たったの5だ!」
「5……レベル?」
「魔物を倒して経験値を稼ぎ、レベルを上げてこい!」
「わかった、レベルを上げてくる!」
「ついでにレベル上げをする、おすすめの場所も教えてやる」
「ほ、本当に教えてくれるのか!」
なんと勇者が起きあがり、教えてほしそうに大魔王を見ている。
「わ、わかった……マルの町の近くにある、シカクのほこらだ。初心者の冒険家に人気だ」
「ああ、覚えた」
「あと、マルの町まで転移させてやる」
「なにッ!? そこまでしてくれるのか!? 助かったぜ、どこにあるか分からなかったからな」
「世界地図を持っていないのか?」
大魔王は不安になってきた。ため息も出てきた。
「持っているけど、どこにいるか分からなくて……」
「しょうがない、これもやろう」
薄い小さな石を勇者に渡した。
「それは、行きたい場所を言えば案内してくれる魔法の石だ」
「ありがとう、こんな俺のために……」
「そう悲観するな。まだ終わっていない。我を倒す望みを持て!」
すると勇者はボロボロと涙をこぼし……。
「俺……やるよ! 絶対に、世界で恐れられている大魔王を倒し、平和な世界にする!」
大魔王は大きく笑って、言った。
「そうはさせないが、その気持ちだ! さ、マルの町へ飛ばすぞ!」
「ああ! 頼む!」
「では……行け! マルの町!」
転移魔法を唱え、勇者は一瞬の内に飛んで行った。
数週間後、再び勇者は魔王城へ訪れたのだった。
「はあ……やっと、たどり着いた!」
再び大魔王の前に姿を現した勇者だったが服はボロボロ……というより裸に近かった。
「ほう……確かに、レベルは上がっている。レベル100だ! さすが、我の認めた勇者……だが、服装は変わってないし、剣も欠けたまま。盾は盾というより持ち手だけじゃないか……」
「ああ、だからどうした! レベルは100なんだ! これで大魔王は終わりだ!」
勇者は剣で大魔王の身体に斬りつけたが、刃は折れる。
しかも、大魔王に蹴られ吹き飛んだ。
「これでも勝てないのか!」
「勝てるわけないだろ! 大魔王を舐めてるのか!」
「じゃあ! どうやったら勝てるんだ!」
「逆ギレか、勇者よ」
勇者は涙を浮かべながら話した。
「俺は勇者になりたくて、勇者になったんじゃない! 村で適当に散歩してたら、王冠かぶった美少女にお前が勇者だって言われて。こんな事、本当はしたくないのに」
「……そうか、大変だったな。だが! ここまで来れたのは、勇者だからだ! なぜなら、我の自慢の部下をお前が倒し、罠も避けつつ、たどり着いたのだからな」
「え? 誰もいなかったし、罠はなかったな。けど、穴がそこらじゅう掘ってあって、行きにくかったが……」
まさかと思った大魔王は、すかさず部下に通信機で連絡した。
「おい! 四天王! 聞こえているか!」
しばらくして返事が返ってきた。
「四天王の一人『ブラッディ』です……」
「おい! 何をしているんだ! 勇者が我の部屋に入ってきたぞ!」
「す、すみません! ちょっと穴に落ちてしまって……出られません!」
「他のやつも、落とし穴に?」
「はい……1週間ほど……」
「バカかー! 他のやつはともかく、お前は翼をもっているんだから飛べよ!」
「えっと、勇者は来ないだろうと思って穴で過ごしてました。大魔王様、聞いてください! この穴、温かくて……」
「知るか! さっさと出て、他の救出に向かえ! っていうか、我の部下が落ちるんじゃない!」
「は、はい! かしこまりました!」
大魔王は勇者へ向き直った。
「これから我は部下の救出に向かう! よかったな、勇者! 今、殺されなくて」
「部下思いなんだな、大魔王は……」
「当たり前だ! 部下がいるからこそ、我は大魔王になれたのだ」
「もう、俺を殺してくれ。俺は勇者じゃない。大魔王に負けた時点で俺は死ぬべきなんだ」
そして、勇者は大の字に倒れこみ目を瞑った。
「お前は本当にバカなのか! この世に生まれたのは我を倒す使命があるからだ!」
「なんで、そんなことが言える!」
「お前は散歩してたら突然、言われたんだよな! 王冠かぶった美少女に! そいつに会った奴、全員に『お前が勇者だ!』なんて言ってたか?」
「確かに、俺だけだった。他の奴が通っても、言わなかった……」
「分かっただろ? 大魔王を倒すのが、お前の使命で王冠かぶった美少女は、地球の守護神だったんだ。私の代わりに大魔王を倒せ、と伝えに来たんだ! これはお前にしか出来ないからだ!」
そう捲し立てると勇者は立ち上がった。
「よし! やってやる! もう俺は挫けない!」
「そうだ! 勇者は、そうでなくてはな! 敵に勝ったからといって勇者ではない。己に勝った時が勇者だ! そして、我を倒せば真の勇者だ!」
「次は必ず勝つ! 最強の防具と武器を揃えて!」
大魔王は、すっかり元気を取り戻した勇者に思わず笑ってしまった。
「我も嬉しい気持ちだ! とっておきの情報を教えてやる! 最強の防具と武器の在り処をな!」
「き、聞かせてくれ!」
あっさりと教えた大魔王は勇者を、その場所へ転移魔法で送ったのだった。
「ふ、これで我も本気を出して戦えるだろう。さて、部下の救出へ向かうか!」
数週間後、再び大魔王の前に勇者が姿を現した。
「とうとう来たか、ちゃんと揃っているではないか」
勇者は光り輝く兜『アエテルヌムヘルム』、光り輝く鎧『アエテルヌムアーマー』、光り輝く剣『フィーニスソード』。
この世で最強の装備を身につけていた。
「ここまで来れたということは、我の部下は全滅したのだろう」
「いや、そんなことはしていない! するわけないだろ!」
「しろよ! 別にしなくてもいいけど。っていうか、部下も何してんだ!」
「みんな、俺を恐れて攻撃してこないんだ! そんな無防備なやつを倒せるか!」
なんのための部下だよ、と心の中で叱る。
「まあ、全力でかかってこい!」
そして勇者は剣を構え、斬りつけてきたが……。
「ふん! 遅い! 何か剣技を持っていないのか?」
「剣技?」
勇者は、そんなもん知らねえといわんばかり。
闇雲に剣を振っているのだが大魔王には、かすりもしない。
「お前、勇者だけが使える必殺技も知らないのか? それでとどめをささないと、我は再び生き返る」
「くそー! なんてめんどくさい大魔王なんだ!」
「いいか! めんどくさいからこそ、大魔王と呼ばれているのだ! そして、教えてやる! 必殺技を教えてくれる賢者の居場所を!」
「本当は、大魔王が教える情報に頼りたくないが、聞くだけ聞く」
大魔王は賢者の居場所を教え、勇者を飛ばした。
そして再び戻ってくるも戦いの最中に勝てない要素が見つかり、また飛ばして、また見つかって、また飛ばして……。
「勇者! 回復魔法を使えないのか! 一旦戻って覚えてこい!」
「わかった! 送ってくれ!」
「勇者! 3つの技を極めないと必殺技は不完全だ!」
「わかったぜ! 転移魔法を!」
「勇者! 仲間がいないと、我の猛攻撃に耐えられないぞ!」
「また、来るぜ!」
大魔王は勇者が諦めず立ち向かってくる姿に感動し、勇者を尊敬し始めた。
何だか最近、部下がいない気がすると思った矢先、大魔王がいる部屋の扉が勢いよく開いた。
「ほう……やっときたか、勇者! ついに仲間を集め、今日で我を倒せる……なッ!?」
今日こそ我を倒せるだろうかとワクワクしていた大魔王だったが、そこに現れたのは、いつもの勇者ではなかった。
一方その頃、勇者たちは魔王城の前で仲間と集まっていた。
「俺は大魔王を倒す勇者だ! 今日こそ倒せる! 仲間がいるからな!」
「はい! 元魔王軍が、ついていますから倒せますよ! それに私、四天王のブラッディがいますから勝利は確実かと」
「はぁ? 何言ってんのよ? 魔王軍で一番かわいい女の子で、四天王で、あらゆる魔法が使える魔女で、完璧で、最強のアタシ『スピカ』がいるから勝てるのよ」
「ふん! 短気で生意気でうるさい小娘が、四天王とは今でも考えられん」
「なによ! 『ロビー』なんか、ただ身体がゴツイだけじゃない!」
「この身体は如何なる攻撃をも効かぬ、まさに最強の身体だ!」
スピカとロビーが喧嘩を始めたが、パチンと指を鳴らした音で、その場は一気に静まり返る。
「まったく……勇者様と行動を共にすれば何か変わるかと思ったが、ダメなようじゃな」
と言い、またパチンと指を鳴らした。
「世話焼きジジイも相変わらず、パチンパチン鳴らして、うるさいのよ!」
「『ハバネロ』じいさん、俺らのことを大切に思ってくれているのはありがたいが、俺たちの問題なんで邪魔しないでください。それより、小娘ぇ!」
「じゃが……パチン」
「俺の身体をバカにされて黙っていられるか!」
「アタシの”魅力”で黙らしてあげるわ!」
「パチン」
「はいはい、そこまでにしましょう! 戦いにいくのですよ、大魔王様と」
ブラッディは肩まで伸びた赤い髪をかきあげ、大声でそう言った。
スピカは怒りで逆立った青い髪が元に戻り、ロビーはスキンヘッドなので逆立ちはしないものの額に浮き出た血管は落ち着いた。
ハバネロが全員を見渡し、口を開く。
「そうじゃな、我々は大魔王様に力を示し、より信頼してくださるじゃろう!」
「はい、見せつけましょう! 魔王軍の団結力を!」
「ええ! そうね、アタシたちの完璧で、繊細で、大胆なパワーで魅了させましょ!」
「俺らを敵にまわすとこうなるって事を見せてやるぜ」
エイエイオー、と三回繰り返し、士気を高めた。
そして、ブラッディが勇者に尋ねた。
「それで勇者様、作戦はいかがいたしましょうか?」
「作戦か。作戦は”全力を出せ!” そして、苦しかったら助けを求めろ! 助けてもらうのは恥じゃない! もう皆、仲間だ! どんどん頼れ! 以上! 絶対に倒すぞー!」
「「「オーーー!!!」」」
皆のやる気が目に見えるほど出ているようだ。
「いざ、出陣!」
だが……。
大魔王の部屋で起こっていた事に、かなり高まっていたやる気が一気に吹き飛び、ある者は腰を抜かし、またある者は逃げ出し。
その場はパニックになっていた。
なぜなら……。
「だ、大魔王様!?」
「大魔王!」
何者かの大剣が大魔王の身体を貫き、床には大量の血が流れていたのだ。
目の前には、大魔王よりも一回り大きな巨人がいた。
真っ黒な巨体に、翼が生えている。
この状況でとっさに反応できたのは勇者と四天王だけだった。
「俺が必殺技で大魔王を倒して認めてもらうつもりだったのに、余計な奴が……入ってくるんじゃねー! 俺の倒すべき宿敵を傷つけやがって! 邪魔すんじゃねーよ!」
心の底から湧いてくる”怒り”。
それは、凄まじく勇者を覚醒させた。
黒い髪が逆立ち、剣は電気を帯びてより強い光りを発し輝いている。
「今から大魔王様を刺した貴方をこの世に二度と存在できないよう、我々が消滅させてあげましょう! ”最強の剣士”ブラッディが! この剣が、貴様の血を欲しがっているぞ」
ブラッディはそう言うと、腰にさしていた二本の真っ赤な剣”ブラッドソード”を両手に持ち構えた。
「いいえ、ブラッディ……”最強の魔法使い”である、このスピカが片付けるわ! アタシを怒らせると、天地がひっくり返るわよ!」
スピカは宙に浮きはじめ、可愛らしい飾りが付いた赤色の杖を取り出した。
「なら、俺がお前らや大魔王様を守る”最強の盾”となろう! 鍛え抜かれた鋼の身を信じよ!」
はッ! と、ロビーは気合いを出した直後、肌の色が赤く輝き、硬化した。
「ワシは補助でも、しておこうか。”最強の援護”を侮るなかれ!」
ハバネロは自身の魔法で最も魔力を使う禁断の補助魔法を唱え、勇者たちを手で触れていった。
触れられた者は ”力上昇” ”魔力上昇” ”反応速度上昇” ”行動速度上昇” ”物理耐性” ”魔法耐性” ”自動治癒” ”思考速度上昇” ”周辺視野拡大” ”痛覚遮断” の効果を得る。
それぞれを触れまわった後、お前たちに任せたと言って、地べたに倒れこんで眠りについた。
勇者も四天王も、より一層気合を入れた。
勇者は剣を握り直して。
「爺さん、ありがとう! 後は俺たちに任せろ!」
勇者や四天王は、もう勝つことにしか頭にない。
目の前の何者かは、邪悪な気を大魔王以上に出し、不敵な笑みを浮かべながら、血で染まった刃をこちらへ向けた。
「我は邪神『ヴィーヴル・カオス』! そこの大魔王とやらを倒しに来たのか? よかったじゃないか、貴様らは楽に目的を達成したのだからな! 今から見るか? 我が、世界を征服するところをォ!」
たまらず、スピカが反論する。
「はぁ~? 何言ってくれてるの? 世界最恐で最強で最凶で魔女のアタシが、世界征服される前に、あなたを殺すわ!」
「邪魔する者は、我が大剣で斬り裂いてくれるわ!」
邪神の持つ大剣が、大きい音と風を起こしながら、スピカに向かって振り下ろされた。
だが、建物を揺らすほどの轟音を響かせた後、動かなくなった。
ブラッディの、ブラッドソードによって止められたのだ。
「何ッ! 我が渾身の力を込め、振り下ろした大剣を止めるだと!?」
「止めただけでは、ありませんよ。ブラッドソードは斬りつけた相手の血を吸う。それだけでなく、相手の武器を破壊する効果もあるのです!」
そして邪神の剣は、ブラッドソードで受け止められた所から徐々に破壊され、とうとう塵となってしまった。
怯んだ隙を突いて、ブラッディが巨体を切り裂いていく。
「くそッ! なら、これはどうだ! 究極属性魔法『アルテマジック』!」
邪神の手より放たれた黒の玉は、ブラッディに向かって飛んでいき、全てを滅ぼす爆発を引き起こす。
……はずなのだが、ロビーがブラッディの前に出て、黒の玉を両手で押さえ込み無理矢理、押しつぶしてしまった。
「はぁ……はぁ……何とか押さえ込んだぜ」
「バカなッ! 我の魔法を!?」
そして、スピカは魔法を放つ準備を終え。
「極限属性魔法『エクストリマジック』ー!」
スピカが唱えると、邪神の真下に魔法陣が現れ、強大な破壊光線を放たれた。
邪神は全身を強烈な光に包まれ、大ダメージを受けていた。
「だから言ったでしょ。最強の魔法使い、って」
「クソ、が!」
邪神はまともに食らい、悲鳴をあげ膝を屈める。
それでも、まだ終わってないぞと言わんばかりの真っ赤な目を向け、立ち上がった。
「我には、やりたいことがある。目的を達成するためには、勝利への執念こそが大事だ……。負けを認めるわけにはいかないのだー!」
邪神は残っている全ての魔力を消費し、世界を火の海へと変え、生きとし生けるものが存在しなくなる究極魔法を解き放とうとした。
そうはさせまいと、勇者は光り輝く剣を振り抜いた。
「くらえー! 大魔王の優しさによって強化された必殺技を! 『エクスペリエンティア』!」
「ウォーーー!! 我が……邪神である我が……我がーーー!!」
「これが大魔王を倒すため、努力してきた……俺の”経験”だー!」
邪神ヴィーヴル・カオスは、勇者の必殺技によって、その身体から邪悪な魂が消え失せ、バタンと倒れた。
こうして、邪神と勇者たちの戦いが終わったのだった。
「「「大魔王様!」」」
「大魔王!」
勇者と四天王が大魔王のもとへ行き、ブラッディが声をかける。
「大丈夫ですか?」
「ああ! 我は大丈夫じゃ! それにそんな簡単には死なない!」
「「「大魔王様!」」」
四天王と大魔王は肩を寄せ合い、生きていることを喜びあうのだった。
「大魔王、さすがだな!」
「勇者こそ邪神を倒し、よく頑張ったな! 最初の頃とは大違いだ!」
大魔王は薄汚く並んだ歯を全部まき散らすような大笑いをし、一息ついたところで勇者の方へ向き直った。
「勇者、よくやった! 驚いたわ、仲間を連れてこいと言ったら魔王軍を連れてくるとは。ブラッディも、スピカも、ロビーも、ハバネロも、よく邪神と戦ってくれた!」
「ハバネロジジイ、起きてよ!」
スピカが、ハバネロを揺らし起こした。
「ん? ……もうおわったのか?」
ハバネロはボケーっとしていたが、やがて状況を理解し「大魔王様!」と喜び、パチンと指を鳴らした。
「大魔王様、勇者と戦われるのですか?」
「もう、その必要はない。我の……いえ、私の使命の一つは終わりましたから」
「大魔王……様?」
すると大魔王の身体は光に包まれ、やがて王冠をかぶった美少女となった。
勇者は、その姿に驚き思わず。
「その王冠にその容貌は……」
「ええ、そうよ。あの時、あなたに『勇者』と言った者」
さっきまで大魔王だった美少女は、お淑やかに微笑んだ。
「大魔王……いや、あんたは一体何者なんだ!?」
「私は、この地球の守護神です」
そう言って、苦しそうな表情になるも続けて話した。
「大昔、突如として現れた邪神ヴィーヴル・カオスは地球のエネルギーを奪い、生物を次々と殺して自らの力へと変えていったのです。私は何とか封印したのですが……その時は、まだ守護神としては幼く、1万年しか封印する力を持っていませんでした。そして、今日1万年の時を経て復活したのです」
「じゃあ、何のために俺に……『勇者』という使命を与えたんだ?」
「私の力は封印の時に使いきっており、戦えない状態です。未だ邪神と戦う力は回復していませんが、封印なら出来る状態です。戦いに勝てたとしても、封印する力が残っていなければなりません」
唐突に守護神は勇者を指し。
「そこで、あなたの力を借りようと思ったのです!」
「なんで、俺!?」
勇者は心の平穏を乱されたが、何とか落ち着いて聴く体勢に入る。
「あなたは、どんな事にも一生懸命に努力をしている頑張り屋さんなのです」
「み、見てたのかよ」
「ええ! 神は、いつでも見守っています。あなたの行いや皆さんの行いも。で、あなたに邪神を倒す力をつけてもらおうと待っていたのです」
勇者は「はぁ」とため息を出し。
「親切で優しい大魔王様、か。『大魔王を倒す力』をつけていたのではなく、『邪神を倒す力』をつけていた訳だったんだな」
「けど、あなた自身も強くなってよかったでしょ?」
勇者は、フフッと笑って納得した。
「さて、私は邪神が二度と復活しないよう封印しないと。じゃあね、真の勇者様! それと魔王軍の皆さん。皆さんとの暮らしも楽しかったですよ!」
「大魔王様! 魔女だからと忌み嫌われ、誰からも見捨てられていたアタシ、スピカにこんな楽しい世界を教えてくれてありがとう!」
「このブラッディ……たくさんの人に知りあえてよかったですよ。魔王城は今まで一人、寂しく暮らしていた私にとって最高の居場所でした! 大魔王様には感謝しております!」
「大魔王様に、ついてきてよかった! 強い奴に会えると誘われ、そして会えた! これからもこの、ロビーの活躍を見守ってくれ!」
「せめて、寿命が尽きるまえに楽しい場所に連れてってくれ、と大魔王様に言って連れてこられた魔王城。ここには、たくさんの物語が生まれた。もう、このハバネロに悔いはない。ありがとう、最期に良い思い出をつくることが出来た、パチン」
守護神は辺りを見回して微笑み。
「皆さん、お疲れ様でした!」
そう言うと、守護神は邪神の肉体と共に、どこかへ消えてしまった。
こうして、世界から大魔王による支配は無くなると同時に、邪神による脅威も無くなり平和となったのだった。
しかし、勇者が大魔王以上の力を持つ邪神ヴィーヴル・カオスをも倒したことを知る者は居なかった。
そして、勇者の行方も不明となった。
邪神との戦いの後、元魔王軍四天王は勇者を捜したが見つかることはなかった。
ただ、兜と鎧と剣が発見されただけだったのである。
彼は死んだのだろうか。
それとも、どこかの地を放浪しているのだろうか。
やがて、邪神との戦いを覚えている者はいなくなったが、平和は続いていた。
また、四天王によって勇者の活躍が伝わった地域もあり、美化されてはいるものの勇者に憧れる子供たちが増えていた。
この子供たちも将来、”真の勇者”になるだろう。
そう思って微笑んだ地球の守護神は、今日も空から見守っています。
お読みいただき、ありがとうございました!