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千年皇国の戦略魔法師(エクストラ)  作者: 綾部 響
第二部 第一章 【逃避行】
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旅立ち

突然倒れたアイシュを気遣うマサト達は、ホテルの部屋で今後について話し合う。

(本当にゴメンね……マー君……大事な時に倒れちゃって……)


 マサトの中にいるアイシュは、肩を落として恐縮したように弱弱しく呟く。

 一通り必要な物を買い終わったマサトとユファはホテルへと戻って来た。それから程無くして意識を失っていたアイシュが目覚めたのだ。


(あの夜、意識を失った俺を付きっ切りで看病してくれたんだ。消耗して当然だよ。俺の方こそそんなになるまで気付けずにゴメンな)


 そう言ったマサトの言葉にアイシュは首を振って答えた。


(ふむ……アイシュの魔力がどの程度のキャパシティを有しているか定かではないが、当分は現界に干渉する事を控えた方が良いじゃろうな)


 体の前で腕を組み、目を瞑ったユファが考えを巡らせながら答える。


(えーっ!そんなー!)


 ユファの言葉に、駄々をこねるかの様な異を唱えるアイシュ。


(えーっ!では無い。我と全く同じ条件ならばこちらとしても助言を与え、お主の状態を知る事が出来るやもしれん。じゃがお主の状態は我とは異なり、どの様な事が起こるかも知れぬのじゃ。何の前触れも無く消滅してしまう様な事を望みはしまい?)


 そんなアイシュにピシャリと言い放つユファ。アイシュは消滅と言う言葉を聞いて、随分と委縮している。


(う……うん……それは嫌だし……困る……)


 一気に肩を落として小さくなるアイシュ。彼女自身も大丈夫だと言い切る材料が無い状況では、ユファの言葉に反論する事は出来ない。


(ならば常に余裕を保ち行動する事じゃ。決して限界まで無理する事はならん。良いな)


(はぁーい)


 その掛け合いはまるで本当の姉妹に見える。

 マサトの知るアイシュは、常に彼の世話を焼く「お姉さん」的なイメージがあった。マサトの妹であるノイエも、彼女を実の姉かの様に慕っていた。

 だから今、彼の目の前でユファとの掛け合いを見せるアイシュは、どこか新鮮な物に映ったのだ。


(お主が動けぬ間、我がお主の代わりを務めよう)


 その申し出に、マサトもアイシュも目を丸くして驚いた。


(ユファ、お前、魔法士だったのか?魔法が使えるのか?)


 思わず口から出たマサトの言葉に、ユファは如何にも心外と言った風で反論する。


(やれやれ……この世界に魔法士でない物が存在するのか?)


 だがその言葉はもっともだった。この世界に魔法を使えない者等「基本的に」存在しない。


(それもそうよねー。ユファとは変わった出会い方だったから思い違いしてた。それに皇女様だし)


 元々マサトの中に居付く切っ掛けが、彼女の魔力が枯渇した事によるものだ。少し考えればその事に気付くことだろう。だが彼女がこの国の皇女であると言う事実が、どこか特別な存在だと思わせていたのだ。


(皇女と言えども魔法位使える。この状態では万全という訳にはいかぬが、今のお主よりは役に立つじゃろう)


 どれくらいの時間安静にしていれば安全だと言えるかは解らない。アイシュの状態は過去に例が無いのだ。だがある程度魔法が使えるならば、確かに今のアイシュよりは役に立つかもしれない。


(ふーん……ランクはどれくらいなの?)


(ふむ……今の状態ならばランク六相当……といったところかの)


 だが役に立つと言う処の話では無かった。


(ランク六!?凄いじゃない!これなら安心してお願いできるよ!ね、マー君!)


 アイシュの声にマサトも頷いた。ランク六と言えば高位魔法士も良いところだ。イスト自治領を襲ったガルガントス魔導帝国の兵士達も、その殆どがランク二か三。指揮官にもう少し高位の魔法士がいたかもしれないが、ランク六と言う魔法士等いなかったのではないだろうか。少なくとも「今の」アイシュよりも高位の魔法士と言える。


(当面は俺が動く様にする。ガルガントスとの戦闘になっても、俺の朔月華なら何とか切り抜けられるかもしれない。だけどどうしようもなくなったらユファ、その時はお願いする)


 だがその話の中で、マサトは大事な事を思い出したのだ。

 ユファもまた、万全の状態では無いと言う事を。

 そもそもマサトの中で魔力の補充を行っている現状がそれを物語っている。

 彼女の物言いならば、ユファの魔力保有量は常人のそれを大きく上回っている。それも比較にならない程に。

 そんな彼女がこの数日、マサトの中に居て魔力の回復に徹している。それがどれほどの捗りを見せているのかは解らない以上、過剰に彼女の力を当てにする事は出来ない。


(うむ、心得た。それでこれからの進路についてじゃが……)


 マサトの言葉に頷いたユファはそう続けた。

 今晩、マサト達はこのスツルト自治領を発つ予定だった。

 元々そのつもりで行動していたのだが、スツルト自治領主カムランとの会見を終えてその必要性は更に高くなっていたのだ。もうこの地に長居出来そうも無かった。


(そうだな。俺は非管理区域を進もうと思ってるんだが……)


 それが正しい選択かどうかは解らないが、現状ではそれしか選択肢が無いと彼は考えていた。


(え!?自治領主様に貰ったチケット、使わないの?)


 マサトの言葉にアイシュは意外感を露わにした。

 自治領主カムランに貰った魔導カードの一枚は、このスツルト自治領からピエナ自治領へと向かっている直通列車使用許可証である。これならば大した時間を掛ける事無く、この大陸から出る為の船を多数有するピエナ自治領へとたどり着く事が出来る。


(万一それが罠であった場合、停車する事の無い列車で襲われてはこちらとしても手の打ち様がない。ましてやそこに一般人が同乗していれば尚の事じゃ)


 カムランがどこまで思惑を張り巡らしているかは解らない。もしかしたらマサト達の考え過ぎと言う事もあり得る。


(え!?罠なの?)


 だからアイシュの反応も当然の物だった。

 罠と確定した訳では無い。確かに尾行されてはいたが、それだけで陰謀を勘ぐるのは早計だった。


(可能性の問題だよ。俺達は普通じゃない立場に立たされていると考えた方が良い。その上であらゆる可能性を考えておかないとな。それにユファの言う通り、関係の無い人まで巻き込む訳にはいかないだろう?)


 そう説明を受けて、漸くアイシュも納得した様だ。


(でも非管理区域と言う事は魔魂石の効果範囲を外れてって事よね……)


 アイシュが不安気に呟く。それが唯一で最大の難題なのだ。


(魔獣……が徘徊しておるの。少なからず接触は免れんじゃろう。じゃが罠を張ろうとしている者達の裏をかく事が出来るやもしれん。時間稼ぎにもなる)


 誰も好んで非管理区域に足を踏み入れようとする者は居ないだろう。魔獣と遭遇する事を考えれば、出来れば近づきたくない場所の筈だ。

 それだけにマサト達がそこへ向かったと言う発想には辿り着かないだろう。そう考えるにしてもある程度の時間を有するはずだった。ユファの言う時間稼ぎとはそう言う事だ。

 だが間違いなくマサトも、そして彼に同行する彼女達をも危険に晒す事となる。それはマサトの望むところでは無い。


(どんな道を選んでも、私はマー君に付いて行くからね!絶対守るから!)


 熟考するマサトに、アイシュは屈託のない笑顔でそう言った。


(今回その役目は我なのだがな)


 溜息と共にユファがそう呟く。だが彼女の口元は緩んでいる。


(あうー……ゴメン……ユファ……)


 ハッと気づいて再び恐縮するアイシュ。本当にユファの妹の様だ。


(じゃが我もアイシュの意見に賛成じゃ。結局のところお主の判断一つで、我らは一蓮托生なのじゃからな)


 そういってニヤリと笑みを浮かべてマサトを見るユファ。

 彼女達の言葉を受けて、マサトは強く決心した。


方針の決したマサト達は、危険を承知で、早急にスツルト自治領を出る為の準備に取り掛かる。

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