ゲームの中で
気付いた時、俺は俺だった、
今より前の記憶なんてものは無い。
俺が誰なのかもはっきりしない。
今わかることは、身体が勝手に動いている、ということだけ。
ザッ、ザッ、ザッ、―――
これは楽だ、と声に出そうとして気付いた。声が出ない―――
そんな疑問を置き去りに、歩き続け、止まった。
人形……?
一体の人形の前で止まり、腰に刺さっていた物で徐に叩き付け始めた。
ガッ、ガッ、ガッ、―――
一定の力で、一定の間隔で、ひたすらに。
……
……おい
いつまでやってんだ!?
どれくらい経ったか解らない、が、大分前から腕は悲鳴をあげている、なのに振る腕の速度も力も鈍らない。
どれだけ時間が過ぎただろうか。ようやく振るう動きが止まったが、腕は激痛を超え麻痺している。物を握る手も同様に。それでも掴んでいる物を手落とすことは無かった。
休む間もなく身体はまた動き出す。どこに向かうのか……そして、
俺が来る前から振り続け、まだその動きを止めない無数の人達は……俺と同じ……?
囲いの外を抜け、薄暗い洞窟に入っていく。……なにか、いる?
……うぉっ!? と、なんだ、こいつらは?
なにかいる、で済まない。無数の化け物が徘徊していた。そしてその化け物の群れの中を……
全く、歩みを止めることなく、気にする素振りも無くその中を突っ切っていく。
化け物に接触する度にぬちゃりとした嫌な感触を覚えると共に、襲い掛かってくるんじゃないかと気が気でなかったが、化け物共もこちらを気にせずそこらを歩き回っている。
ひたすら振らされていたことより奇妙な状態におかしくなりそうだが、俺を勝手に動かす存在は何を考えている?
洞窟を奥へ奥へ、ひたすら奥へと歩き続けると、広大な空間に出た。
ここになにかあるのか?
その空間の中央付近まで歩くとようやく止まった。
立ち止まってからひたすら、ただひたすらその場で、身動き一つ取ることなく停止しつづけた。
今度は足が……ん?
目の前、ほんの少し先、なにかが蠢いたと思った直後、巨大で、醜悪な化け物が出てきた。
さっきまでの化け物の時とは違い、腰の獲物を取り振りかざした。どうやらアレとやり合わなきゃいけないらしい。
ゴッ――ギャッ――ゴス――
なんだ、わけがわからない。
何故、こんな化け物と正面から殴りあう?
何故、殴り合い最中に水分をとってる?
何故――
殴られた痛み、取り過ぎた謎の液体による吐き気。それでもなお、殴り続け―――液体が底を尽きたのか、これ以上飲まずには済むようだが、次に来る、いや、来たもの、それは、
……死ぬ、な。
化け物が倒れる気配は無い。だが俺はもう持たないのがわかる。
――いや、これでいい。
――これでもう、勝手に身体を動かされることも無い。
――自由に、なれる……
そして、
目が覚めた。
……なん、だと? 俺は確かに死んだはず……
見渡せば、そこは最初に俺が、身体を勝手に動かされる時にいた場所。
その疑問を気にすることすら必要ない事態に陥る。
「おっすおっす」
「うーい」
なんだ、喋れるじゃないか……いや、俺が喋ったんじゃない、俺を動かすやつが……いや、いやいやいや!?
何故、喋ってるはずなのに、口が、動かない?
「マジこのキャラないわー。初心者用ボスもポットがぶ飲みしても倒せねー」
「そりゃ最弱職だしなー」
「さすがすぎた。ま、ちょっと初心者用新ボス見たかっただけだし」
「物好きな」
「褒めるな褒めるな。さて、キャラデリッて真面目にサボキャラつくるわー」
「てら」
その言葉「キャラデリ」という響に、一瞬心臓が止まった。握られたかとさえ思ったほどに。
周囲に見える人の群れも、一瞬その言葉に震えたように見えた。
それがはっきりとナニかはわからない。
だがそれは「俺」という存在を否定する言葉だということは何故か理解できた。
――やめろ! やめてくれ!
――俺は! 生きてる!
――俺は、ここに―――