エリート霊能力者の俺による実録変人レポート。
やあ、俺はエリート霊能力者だ。
いや、妙な目で見ないでくれ。頭はきちんと正常だ。
俺の家は代々霊感の強い人間が多く、悪霊や怨霊を退治することを家業にしている。
化け物はぶっ潰すというのが家訓で、その筋では有名な人も多い。
その中でも俺は飛び抜けて力が強く、
小さい時は頭部のない女に追いかけ回されるなんてことはざらだった。
幸い自分で対処できるようになってからは、そう言った恐怖体験も段々減っていったのだが。
そんな俺が遭遇した忘れられない事件を話そうと思う。
当時俺は高校生で、友人に日延明和と言う男がいた。
こいつは真面目な男だが、何処かがずれている有り体言えば変わった人間だった。
それでも気の良い奴だったので、俺とは馬が合い仲良くやっていたと言うわけだ。
ある日の事、俺は明和の様子がおかしい事に気が付いた。
少し痩せたようだし、妙に顔色が白く体調も悪そうだ。
「明和、あんま思い詰めるなよ。お前と付き合ってくれる心の広い女子なら何処かにいるさ。」
「やめろ、人がそんなことで思い悩むたちに見えるか。」
「見える。」
そう言うと、明和は恨みがましそうな目で見てきた。
うん、下手な低級零よりも怖い。(ちなみに奴は顔が良いのにモテない。変人だからである。)
「まあ、悩みがあるならドーンと話してみろよ。役に立てるかどうかは、分かんないけどさ。」
俺が謙虚にそう言うと、あいつはぶつぶつ言いながら話し始めた。
明和には懇意にしていた近隣の老婆がいた。
夫は既に他界しており、子供もいなかった彼女は明和を孫のように可愛がってくれたそうだ。
元々奴の両親も共働きで不在しがちだったため、奴も殊更懐いていた。
子供の頃よりやや疎遠になったとはいえ、明和と老婆の関係は細々と続いていた。
ところが、その彼女は老衰でぽっくりと逝ってしまったらしい。
「それで落ち込んでいるのか?仕方ない、気晴らしにカラオケにでも…。」
「違う。話はここからだ。」
明和は首を振り、ため息を漏らした。
奴は老婆の葬式に参列し、彼女の冥福を祈った。
ところがその半年程後から、奇妙なことが起こり始めたのだそうだ。
まず、家の庭を不審な人物がうろつき始めたのだと言う。
初めに見たのは母親で、その時は何だか白いものを見たと言う程度だったらしい。
しかし今度は奴の弟が足のない人間を見たと言って騒ぎ始めた。
それに付け加え、明和も二階の窓から人影を見てしまったそうだ。
丁度背格好が老婆に似ていたが、半透明に透けていたらしい。
それから夜には何処かから視線を感じるようになり、寝付けなくなったそうだ。
気のせいだと思おうとしても、寝返りを打つうちに夜が明けてしまうらしい。
そしてとうとう、昨日の深夜に2階の自室の窓が急にバンバンバンバンと叩きつけられたのだ。
次の日の朝、悪い夢でも見たのかと思ったそうだが、窓を見ていると指紋がべっとりついており、言いようもなく不気味だったとのことだ。
当然、奴の自室の窓は普通の人間が外から叩ける位置にはない。
淡々と話すあいつをこいつメンタル強いなと尊敬のまなざしで俺は見た。
普通、そんな目に遭ったらもっと半狂乱になっているものだ。
「俺なら何とか出来るかも知れないから、一肌脱いでやるよ。」
「何の魂胆があるんだ。さっさと言え。」
「いや、お前と同じ部活の田中さんに渡りを付けて欲しくだな。」
「お前馬鹿じゃないのか。」
明和は呆れかえったと言う顔をした。
そんな風に俺達は騒ぎながら、奴の家まで行くことになった。
その後、俺は奴の家に泊まることになった。
俺は要領が良いので明和の母親とも気安い関係を作り上げている。
そう言うわけで和やかに夕御飯を頂き、お風呂を貸してもらい夜に備えることになった。
取り敢えず奴の自室の四方に盛り塩を置き、明和と一緒に時間を潰すことになった。
そして深夜、自分の腕を過信していた俺は盛り塩が黒ずんできたのにも気が付かなかったのだ。
ギシリ、ギシリ、ギシリ、
お年寄り特有のテンポの遅い足音がした瞬間、気が付いたが全ては遅かった。
ギギィと嫌な音を立てつつ扉が開いた瞬間、俺は我武者羅に清めの塩を叩きつけた。
ギャアとかアァとか言いつつももんどり打つ老婆の霊に更に追加で投げようとしたが腕を掴まれた。
「やめろ、苦しがっているだろう!大丈夫ですか。」
そう言うと明和は老婆に走り寄って行った。
俺が唖然としていると奴は彼女の傍らで話し始めた。
申し訳ない、俺の友人が無礼なことを…。
友人は選べ?いえ、あいつは調子の良い所もあるのですが悪い奴じゃないんです。
そもそも、未熟者の俺が幽霊になった貴方との付き合い方を指南して欲しくて招いたんです。
もっと、穏便な方法かと思ったのですが説明不足でした。
え、最近墓参りに来てくれない?
申し訳ありません。忙しかったものですから…。
寂しい思いをさせてしまってすいません。
もっと頻繁に通うようにします。
話し合いが終わると老婆は満足したのか姿を消した。
その間、俺は空気だった。
しかし、この事件は俺の人生を変えたのだ。
その大部分が変人の奴の行動に寄与している事は言うまでもない。
俺は家の方針に疑問を持つようになり、跡を継がずに独立をすることになった。
今では明和とタッグを組んで心霊事務所を経営するまでになっている。
業界では有名になった俺達コンビの活躍の話は、また別の機会にしよう。




