7、ことの歯車
「はあ〜……」
私は大きくため息をついた。ため息をつくと幸せが3つ消えるっていうが、この際気にしてられなかった。
「なんでかな。なんで、私が、なのかなー」
神だと告げられたときはショックで、そのまま二人の前から逃げてきてしまった。二人には悪いことをしたという罪悪感を感じている。
「……朱雀、元気ないなぁ、なんか、あっただか?」
気がつくと、目の前にまるっこい、ボールのような生き物がひょっこり立っていた。
「キジムナー!」
「おうよ!久しぶりだあ、朱雀」
キジムナーは背中から風呂敷に包まれた荷物を下ろした。
キジムナーは沖縄を本拠地とする妖怪で、なかなか旅好きなのである。
時々私のところにやって来て、話を聞いてくれるのだ。
「あのね、キジムナー聞いて。私………」
私はいままであったことをすべてキジムナーに話した。キジムナーは一心に耳を傾けてくれた。
「……がー。そうだったか。いよいよ言われっちまっただか」
「ん?キジムナーは私が四神の一人って前から知ってたの?」
「あたりまえだ。一様妖怪だがらね」
「え、ってことは、いままでであった妖怪は、みんな、私が四神の一人だって知ってたってこと?」
「そんなことないだ。おいらぐらい妖力が強いやつじゃなきゃ、わからんもん。まあ、名前をいったら、すぐにわかるけどな」
「そっか……。はぁ……。やっぱり、まだよく分からないな……」
「まだ信じられないだだか?」
「うん……」
事実、力があるのは分かる。襲撃のときも力があったからと言われたら納得がいくし、今だって手をふったら、机の上の消ゴムも飛んでいってしまうのだろう。
分かっているのだけど、認めたくなかった。
「朱雀は、神だってしって、何がショックだっただ?」
なんかさ、と私はもう一度ため息をついた。
「私は生まれてからずっと人間だって育てられてきたからさ。それで、なんか、裏切られたっていうか、悲しいっていうか。誰にどう裏切られたとかっていう具体的なのは、よくわからないんだけど。「私は……、神でいるのが恐いの。ほら、神ってとても位の高い生き物じゃん。だから、それを知った瞬間、みんな、態度を翻して、私から離れていきそうで。一人になってしまいそうで」
そのときのことを思うと、深いため息がでた。苦しくて、私は人だということを信じたかった。
「けど、素晴らしい力をてにいれることができだんだだよ?」
「そしたら理性が保たなかったらどうしよう。もしも、そのの力を使って、みんなを苦しめてしまったら、どうしよう。みんなを死なせてしまったらどうしよう」
不安になり、膝をぎゅっと抱きしめた。
「朱雀が友に打ち明ければいいだ」
「それは……っ、無理だよ。友達が私から離れていってしまう」
「……朱雀。お前の友は、そんな簡単に朱雀から離れていくやつだだか?」
「っ!」
頭に夢と裕太の顔が横切る。
「言ってみないことにはどうなるかわからないだ。それに」
キジムナーはそっと小さな手で私の背中をさすった。
「青竜や白虎という仲間もいるのだろう?」
セイとハクトは……、凄く私に優しくしてくれた。自分達の危機よりも優先して、私を元の世界に戻してくれた。
そんな二人を私は知らず知らずのうちに深く信用していたんだ。
だから、告げらとき、余計パニックになったのかも知れない。
「朱雀、頑張るだ。もし朱雀になにかあったら、おいらもすぐ飛んでいくだ。安心してくれだ。おいらは朱雀の見方だからな。ずっと」
キジムナーはそういうと優しく微笑んだ。
「キジムナ〜!!」
私はキジムナーに泣きついた。心が軽くなった気がする。
「……ほじゃ、おいら、もういくだ」
「えっそんな。きたばかりなのに!」
キジムナーは微笑むと、再び風呂敷を担いだ。
「おいらも多忙だ。いそがなきゃいけないっちゃ」
「そっか。ありがとう。キジムナー」
「感謝されるようなことはなにもしていないだ。ほな」
キジムナーは窓枠にひょいっと登った。
「またな、朱雀」
「うん!またね!」
私は笑顔で手を振った。キジムナーは窓枠に足を引っ掻けると、空に飛び立った。
私は窓枠に急いでかけよった。そして、キジムナーに大きく手を振った。その時、キジムナーが突然空中で止まって振り返った。
「そういえばだだ!!その、雪目、とやらに気を付けるんだー!朱雀!」
雪目……?あの、狐さん?
どうして、と聞こうと口を開いたが、すでにキジムナーの姿は見えなくなっていた。
《???》
薄暗い部屋の中で、小柄な生き物と、人の形をした生き物が向かい合っていた。
小柄な生き物は人の形をした生き物に深々と頭を下げた。
「……なんのご用でしょうか、御主人様」
小柄な生き物が艶のある綺麗な声で言った。
「以前話した計画を実行しろ」
「っ!」
小柄な生き物は息を飲んだ。
「やはり、予言は間違っていなかったのだ。予言通りに奴は表れただろう」
人の形をした生き物はニヤリと笑った。
「……いつからにいたしましょう、御主人様」
「明日からでも実行しろ」
「承知しました。御主人様」
人の形をした生き物はしずしずと頭を下げた。
《セイ》
「朱雀ちゃん、行っちゃったね……」
縁側に座った俺にハクトがそっと声をかけた。
「ああ、根性が足りないのだ」
「いやいや。セイ、あんな風に迫られたら誰だって怯えちゃうよ」
「そういうものなのか……」
「うん。優しく穏便に、ね」
「そう考えると、悪いことをしたな」
「まあ……。セイ、女の子に馴れていないからね……。五分五分さ」
「なっ、おなごに馴れていない?別に、必要ないだろ、そんなの!やはり、あいつの根性が足りんのだ」
俺はこんな大口を叩きながらも、多少、傷ついていた。
神を軽蔑するような、あの眼差しが、あの人にそっくりだった。
「けどさ、セイは心配じゃないの?」
「なにがだ?」
「覚醒、だよ」
「ああ……」
俺は自分が覚醒したときのことを思い出した。
「ただでさえ朱雀ちゃんは強い力を持ってるのに。もっと凄いことになっちゃうんだよ?」
「どうなるんだか」
昨日、鬼と戦ったときの、朱雀の戦いっぷりはすごかった。自分がなってほしいと思ったことをすぐにできるのだけでも凄いのに、それをするのがはじめてだとくるんだから驚く。
「セイは心配じゃないの?」
「俺は……」
俺は思わず言葉を濁した。
「わからん」
それだけいうと、俺はごろんとよこになった。