表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/42

4、電拓通り

外に出るとたくさんの妖怪が庭や畑の手入れなどをしていていた。ぬりかべ、猫又、あと、あれは……。

「これから行くのはあそこの雷拓通りだ」

不意に声をかけられ、私はセイが指を指した方をみた。たくさんの昔ながらの家がならんでいる活気に溢れた通りだった。私たちは足を進めた。

「……それで?どうしてシュウちゃんはここに来たの?」

ハクトが興味深そうに言った。私はシュウが自分だということに気づくまで、数秒かかった。早く、慣れなければ。

「えっと……、家でカップラーメンを食べてたら、急に意識がなくなって、気付いたら小さな丘にいて」

「丘?鬼馬ヶ丘か。あそこは、昔からふしぎなことがあるって言われてるからな」

「そうなんだ。……あ、そういえば、ここに来たときすごく賑やかだったけど、なにかやっていたの?」

私が聞くとセイとハクトは小さく噴き出した。

「いつもあのくらい賑やかなんだ」

「そうそう。あれが普通なんだよ」

あれが普通?なんか、すごい……。

「そういえば、シュウ、おぬしは妖怪をみてもたいして驚かないが、恐くないのか?」

ん?ええっと。

「私、昔から幽霊とか見えるからあんまり恐くないんだと思うよ。まあ、同じ生き物だしね。私たちだって恐がられたら、傷つくもの」

幽霊さんは、生きてないけど、まあ、ね。

「フッ」

どうしたのかと隣のセイを見上げると、セイは笑っていた。自然な優しげな笑顔で私は不覚にもドキリとした。

ずっと笑っていればいいのに。と心なしか思ってしまう。

「シュウは今までどんな幽霊をみたの?」

「えっ……と、あ、そうだ。ある日、家に帰ったら、幽霊さんが物欲しそうにカップラーメンを見つめてたの。それからこっちをジドッとみて、私も食べたい的な顔をして。ははっ、あの顔、面白かったなあ……」

「………普通にホラーな話だよね。笑える話じゃないと思うけど……」

え?そうなの?

「……そういえば、さっきから聞いてると、『カップラーメン』という食べ物があるようだか、なんだ、それは」

ええ?知らないの?

「簡単に言えば、3分で出来ちゃう魔法の食べ物だよ」

「ほう。もっとも美味で妖術で出来ている食べ物か」

うん……。なんか違う気がする。

「ねえねえ、今度食べさせてよ!」

「ん……、私のいる世界から持ってこなくちゃいけないんだけど……」

「持ってこればいいじゃん!」

へ?持って来れるの?

「あっちに帰れない訳ではない。好きに出入りができるからな」

「そうそう」

それは良かった……。

「ああ、あと、いい忘れていたな。あっちの世界で1分進んだら、こっちでは100分過ぎたことになるんだ」

ってことは、ここでのんびりしてていても、少しの時間しか進んでいないってことか。

「あの店だ」

みると、なんとも可愛らしい着物が並んでるお店があった。薄緑色の暖簾がかかっている。

中に入ると、猫の耳がついているスタイルのよい可愛いお姉さんが、

「いらっしゃいませえ〜」

と、私たちを迎えてくれた。

「ああ、小絵己(サエミ)さん、今日はこの子の服をお願いします」

セイが頭を下げると、小絵己さんは、なぜかニヤニヤした。

「あら〜、セイくん。そちらはもしかして?セイくんの……。ふふふ。それで、お名前は?」

名前?どっちを言えば……。私が困ってセイをみると、セイは、

「本名で大丈夫だ」

と、私の考えていることを見抜き、教えてくれた。

「小絵己さんは名前で着物を選ぶんだよ」

ハクトも安心して、というように笑いかけた。

「そうなんだ。それじゃあ、えっと、名前は、武井朱雀、です」

「朱雀……?」

小絵己さんが私の名前を聞いて固まる。そして、その瞳に暗い陰が浮かんだのを私は見過ごさなかった。泣き出しそうなその瞳は必死になにかを耐えているようだった。

「あの……」

なんで、私の名前を聞くと反応をするの……?

「小絵己さんっ、お願いしますっ」

ハクトが慌てたように頭を下げた。

「えっ……、あっ、ええ。ごめんなさい、少し、物思いに耽ってたみたい。もう、嫌ね。歳をとったのかしら。あ、それで、気付けよね。分かったわ。じゃあこちらにどうぞ」

小絵己さんはごまかすかのように目尻を下げて微笑むと、私の手を引いてお店の奥につれていった。

「えっと、なんて呼べばいいかしら」

「あ、シュウで」

「分かったわ、おシュウちゃんね」

お、おシュウちゃん!?

「えっと、おシュウちゃんは……」

小絵己さんは鼻歌を歌いながら着物をだした。

「これかしらね」

わあっ……。

小絵己さんが出してくれたのは、とても可愛らしいものだったのだ。鮮やかな朱色をベースに桃色の桜の花びらが散らされている。

帯は黄色で、その上に赤い細い紐がリボン結びのようにあしらわれていた。

「着てみますかね」

小絵己さんは、丁寧に私に着付けを教えてくれた。久しぶりの着物に腹が苦しく感じる。

「……あの、小絵己さん」

「なにかしら?」

帯の位置を調節してくれている小絵己さんに私は声をかけた。

「何となくなんですけど、私の名前を聞くと、皆、いい顔しないっていうか、なんか、不思議な反応をするのですが……、なんでですか?」

小絵己さんは一瞬手を止めた。

「……それは、私の口からは言えないわ」

真剣なその表情の裏側に、私には何らかの事情があることが物語られていた。

「まあ、でもいつか、聞くことにはなるから」

「そう、ですか」

小絵己さんはニコッと笑って、私の背中を軽く叩いた。

「さっ、できたわよ、あら、可愛いいわ」

そうかな。なんか、照れるな。

「ほら、二人のところに行ってらっしゃい」

う、うん……。

私はおずおずと裏から出た。そして、私の姿を認めた瞬間、二人は目を見開いた。

「あ、あのっ、似合わないからって、あ、あんまりひどい態度しないでね……じ、自分でわかってるからっ」

早口で声をかけるも、二人はまったく動かなかった。

「えっと……?どうし……」

「シュウ、可愛いっ!!!

へ?

ハクト、今、なんて?

「可愛い!似合うよ!ぴったり!」

そ、そう……?ありがとう。

あれ、でもセイはピクリとも動かない。やっぱり、ハクトが言ってたのってお世辞だよね。

「……似合っているんじゃないか?」

っ……。

「あ、ありがとう」

な、なんか、ドキドキするな……。

「良かったわね。おシュウちゃん」

小絵己さんがにこにこと笑いながら近づいてくる。

「はい。小絵己さん、いいの選んでくれてありがとうございました」

「いえいえ。それが仕事ですから。また暇があっらきてね」

私たちは笑顔で見送る小絵己さんに頭を下げると、お店を出た。

「取り合えず、ぶらぶらしようか」

私はハクトの言葉にコクリとうなずくいた。周りを見渡すと、御茶屋さんやお水屋さん、宅配屋さんもある。

「……あっ」

私はあるものが目についた。それは、ピンク色の綺麗な繊細な細工が施されているかんざしだった。

「ん?」

ハクトが立ち止まる。

「あ、なんでもない。へえー、たくさんお店があるね」

「あやかしの世界も有数の町並みだからね」

「そうなんだ」

他の町も行ってみたいな……。

「悪い」

急にセイが立ち止まる。「用を思い出した。悪いが、あそこの茶屋で待ってもらえるか?」

「分かった。行こ!シュウちゃん」

「うん。じゃあ、またあとでね、セイ」

私たちはセイと別れると茶屋に入った。

「おばあちゃーん。お茶と団子2つずつくださーい」

「はいよ」

元気なおばあちゃんが中から返事をする。

お茶とお団子が出てきて、私はお礼を言ってお茶を飲んだ。

「どう?こっちは」

「なんか、楽しい。けど……、少し恐いかな……」

急に襲われたりするからね。

「……大丈夫だよ、なにかあったら僕が守るから」

へ……。

ハクトの顔を見上げると、ハクトは赤面して照れ笑いをした。

「あっ、ごめん。なんか、ゆ、勇者気取り、みたいなことしちゃって……」

「ううん。逆に、ありがとう」

なんか、嬉しいな。

私はほっくりと心が温まって、自然と笑顔になった。

「……待たせて悪かったな。用は終わった」

あ、セイ!

急いできたのか、軽く息を切らしている。

「よし、行こうか!」

私たちはおばあちゃんにお礼を言ってから立ち上がった。

「シュウ」

ん?急にセイに呼び止められる。

「後ろ向いて」

ん?うん。

私が後ろを向くと、なぜか、頭を触られた。

「えっ、なんっ……」

「ん、できた」

へ?

意味が分からす、首をかしげると、

『シャラン』

耳元で綺麗な音がする。 も、もしかして……。

「かんざし?」

「ああ。欲しそうに見てたからな」

ええ?!バレてた?

「あ、あの、ごめんなさ……」

謝ろうとした私をセイは手で制した。

「やめろ。ありがとうの方が嬉しい」

「っ、あっ、ありがと……っ」

「ん」

耳元でなる綺麗な音が心地よい。意外と優しい人なのかも、とセイを見上げながら思う。

「…………しっ」

ぶらぶらと歩いていると、ふいにハクトが厳しい表情をした。

「……聴こえるか?セイ」

「……ああ」

へ?何が?

「……シュウよく聞け。『元の世界の自分の自宅へ』と言え。こっちに来る場合必要があれば『あやかしの世界の』の後にいきたい場所を言えばいい」

え、うん……。でも、どうして急に……。

「はやくっ!」

緊迫感を感じ、私は急いで口を開けた。

「元の世界の……」

そこまでいいかけたとき、急に周りが騒がしくなり、あちこちでなにかが光った。セイとハクトが身構える。

「私の自宅へ!!」

私が言い終わった瞬間、あたりがごおっと風が吹いた。そして、その風によって視界が曇った。

体が浮いた感じして、元の世界に戻っていく感じがしたとき、少し、風の隙間から、セイとハクトの様子が見えた。

「……っ!!セイっ!!ハクトっ!!」

私は必死で叫んだ。しかし、何度よびかけても返事は来なかった。

なぜか叫んだのかー。

セイとハクトが体格のよい何者かと斬り合っていたからだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ