表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/42

番外編 セイ

【セイ】


俺の中に、父親の記憶はない。

俺が幼い頃、父親と母親は俺のことで喧嘩をし別居した。

普通の人間として生きて欲しい父親。

青竜神を引き継いで欲しい母親。

父親は青竜神であることの辛さを知っていた。

だからこそ、俺に継がせたくなかった。

母親は違った。

青竜神の母親。

その高い地位が欲しかったのだ。

母親の横暴さと息子への哀れみに耐えられなくなり、母親と喧嘩をした父親は家を出ていった。

そう、麒麟様から聞いた。


父親がいなくなり、母親は俺に暴力を振るうようになった。

俺に強くなれ、そう罵り、父親が出て行ったのはお前のせいだ、と泣いた。

母親の暴力により、その頃の俺には、全くと言っていいほど、『感情』がなかった。


そんな幼少期の最中、出会ったのが、ハクトと雪目だった。

真夏の暑い日、親に連れられ初めて会ったあの日、俺は初めて友達というものを知った。

優しいハクトと活発な雪目。

俺の中に感情を引き戻したのは、二人だと言っても過言ではない。


やがて、99代目の四神の中で、俺と母親を離した方が良いということになり、俺は99代目の麒麟様に引き取られることになった。

彼の名前は、「倻狗(やく)」といった。

彼は俺に武術を、学術を、全てを教えてくれた。

どんな時でも、俺を一番に考えてくれた。

優しく、時に厳しく、俺に向き合ってくれる倻狗が俺は大好きだった。



けどーー。

『倻狗、ボクのお父さんって、どんな人なの?』

そう尋ねると、

『………上手く、言い表せないな』

父親のことになると、彼はそうはぐらかした。



『セイ、お前に大切なことを教える』

倻狗は俺の頭を撫でながら優しく微笑んだ。

暖かい春の日、高い声で鳴く鳥がいた。

『もし、何かと、対立した時、争いになった時、お前はその何かを『敵』だと、思ってはいけない。『敵』ではなく、たまたま人生の中でぶつかってしまった、『同胞』『仲間』だと思いなさい』

『仲間……?どうして?』

『敵意で戦うのではなく、尊敬の気持ちで戦わなければならないからだ。一つ一つの死を、重く慎重に受け止めてほしいのだ。死を軽んじてはならない。もし、お前が一つ一つの死を正しく受け止めれば、きっと、誰よりも強い『青竜神』になれるぞ』

『慎重……?軽んじ……?』

幼い俺にはまだ難しいことだった。

『ははは、まだ、お前には難しい話だったな』

倻狗は快感に笑うと、俺を引き寄せた。

暖かい体温を感じた。

その時、倻狗の目に涙が浮かんでいるように見えた。




ある日突然、倻狗は消えた。

何も言わずに、何も残さずに。

俺は屋敷の者から倻狗がどこに行ったのか聞いた。

倻狗が突然消える訳がないと思いながら。

屋敷の者は言葉を濁した。

しつこく食い下がると、屋敷の者は一言、答えた。

『センソウよ』

センソウ…………、なんだか、分からなかった。

でも、俺は一度だけ、その言葉を聞いたことがあった。

数日前、倻狗と誰かがこっそりと話していた。

『倻狗は、センソウ、から、帰ってくる?』

俺がそう問うと、屋敷の者は静かに目を伏せ、何も言わずに去っていった。

屋敷の者の涙が畳に落ちた。




長い月日がたった。

戦争について、四神について、俺は多くのことを学んだ。

あの日は、街に出かける日だった。

街に出て、俺はいつもとは違う街の様子に気がついた。

戦争が終わり、復興が始まっていたその日、なぜか、熱気を帯びた街の者達はある場所へ向かっていた。

俺もそこへ、興味心で向かった。


ついたのは、街の中心の広場があったところだった。

多くのものが叫び、怒鳴っていた。

中心に向かって、人をかき分け、前に進む。

その時、俺はあるものを見た。

3人の男が手首を縛られ、うつ伏せになっていた。

俺はさらに前に進んだ。

怒りに燃えている街の者に押せれながらも、最前列に出た。

3人の男は静かに、怒りの声に耳を傾けていた。

『………………………倻狗……!?』

3人の男のうちの一人、黒髪の男、それは、ずっと会いたかった倻狗だった。

傷のついた倻狗の顔に驚きの表情が広がる。

『セ……イ……!どう……し……て……』

『どうしてじゃない!倻狗こそ、どうして!!』

倻狗は俺の質問に静かに首をふった。

『これ……は……。なん……でも……な……い……』

『ふざけるなよっ!!』

思わずこみ上げた涙をぐっと抑える。

『そうやっていっつもはぐらかしてばっかり!!!なんで!?なんでなにも言ってくれないんだよ!!そんなに俺のことが嫌いなのかよ!!』

自分で言って、悔しくなった。

『セイ……』

倻狗は静かに目を伏せた。

伏せた目には暗い色が映っていた。

誰も元に戻せないような……。

『……私は、大きな罪を、犯したのだ』

静かな告白。

うるさい群衆の中でも、俺の耳にはまっすぐと聞こえた。

『……戦争……を終わらせ……られなかった……』

周りがピタリと静まり、倻狗の声だけが聞こえた。

『そんなの、倻狗のせいじゃないだろ!!戦争を起こした奴が悪いんだろ!?』

周りがそっと顔を背ける。

悔しい、悔しい。

ただそれだけだった。

『……我々の、使命は……戦争を……止めること……だった。だが……沢山の犠牲を……出して、最悪……の形で終わらせてしまった……』

『だからってっ!』

もう我慢できなかった。

目から溢れた涙を止められなかった。

『なんでこんなことされなきゃいけないんだよ!!倻狗は!!倻狗は!!悪くなんか……!!!!』

どうしてこんな仕打ちを受けなければいけないのか。

到底理解できなかった。

償いをさせてもらえないこの世の中は、なんと冷酷なものかと思い知らされた。

『待ってろよ!!今、全部取るからな!!今、全部……!!』

ガチャガチャとした鎖を力任せに引っ張った。

『そこの者!!何をしている!』

役所の者らしき妖怪が俺を取り押さえた。

周りが騒めく。

『うるせえ!!離せ!』

もはや涙など拭えない。

抵抗してもどうにもならないのは分かっていた。

でも、抵抗せずにはいられなかった。

倻狗に繋がれている痛々しい鎖を壊したかった。

『やめろっ!!離せ!!!!倻狗!』

『……セ……イ………』

くたびれた声。

そんな声、聞きたくなかった。

その時、一際大きな歓声があがった。

1人の妖怪が現れたのだ。

大きな釜を持った死神が。

『やめろ!!!!!!』

どうしようとしてるのかは瞬時に分かった。

役所の者たちの腕を払う。

だが払っても、また掴まれるだけだった。

『倻狗!!倻狗!!』

『セ……イ………』

倻狗はそっと微笑んだ。

死ぬと分かっていたくせに、微笑んだ。

『お前と……一緒に………いれて……、うれ……しかっ……た……』

『やめろ!!!!!!そんな……』

お別れみたいな言葉。

その言葉を言う勇気がなかった。

『お前と……一緒に……い……れて……、幸せ……だっ……た』

『嫌だっ!!嫌だ!倻狗!!倻狗!!!!』

歪んだ世界はぽろぽろと流れていく。

けれど、倻狗の微笑みは視界から消えてはくれなかった。

『お前を……ずっと…………』

『倻狗っ!!!!!』

喉が張り裂けそうだった。

すぐそこにいるのに。

やっと会えたのに。

それなのに……!!

『お前を……ずっと……』

穏やかな表情。

死を確信している表情。

そんな倻狗に飛びついて、助けたかった。

でも、できなかった。

救えなかった。

『愛し……て……る……………』

『っ倻狗ーーーーーーっっっっっっっ!!!!!!』


倻狗の命は、振るい下された死神の《牙》によって絶たれた。






















『 拝啓

元気でやっているか。この手紙を読んでいる頃、セイはもう大きくなっていると思う。

セイが大きくなった時、そばにいれなくて悪かった。

私はどうしても、戦争に行かなければならないのだ。

四神として、行かなければならない。

起きてはならない戦争を、我々は引き起こした。

変えられぬ運命によって、私は明日、戦争に行く。


私はお前に伝えなければならないことがある。

直接伝えたかったのだが、私はきっと未来にはいないから、この手紙で伝えさせてもらう。

私はずっとお前に嘘をついていた。

自分を守るために、嘘突き通すためにお前をずっとはぐらかし続けた。



私はお前の父親だ。

私は99代目青竜神だ。

そして、赤子のお前を見捨てお前から逃げた最低の父親だ。


私はずっと怖かった。

全てを話してお前に嫌われることが。

お前が離れていってしまうことが。

それ程までにお前が愛おしかった。


私を恨んでもいい。

怒ってもいい。

だが、これだけは覚えていてほしい。

私はお前を愛していた。

そしてこれからも愛し続ける。

たった数年だったが、お前と時を過ごせて幸せだった。

もう一度だけ、お前の笑顔が見たいが、お前を抱きしめたいが、私はもう行かなければならない。

セイ、強く勇ましく優しい男になりなさい。

私はずっと、お前の味方だ。

悪を見出し善を尽くして、私に、我々にできなかった、平和な世の中を創り上げてくれ。


これからの世界をよろしく頼む。




愛しの息子 瀬潙(せい)


99代目青竜神 倻狗 』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ