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22、歪んだ世界

毒針がこっちに向かってくる。

毒針の先端から、赤い毒が垂れていた。

これで、何もかも終わり。

私も負け。

ゲームオーバー。

私は死ぬって思っていたのに、なぜか、怖くなかった。

突然過ぎたからか。

なにも考えられないぐらい、頭がキャリアオーバーになっていたからか。

わからなかった。

毒針の先端が近づいてくる。

もう、私は死ぬんだ…………。

「…………………………」

……………………………………………………あれ、痛く、ない?生きて、いる?

どうして、私は死んだはずっ。

恐る恐る目を開けると、私の前に誰かが立ち塞がっていた。

茶色の大きな着物。

ふわふわとした茶色の髪。

「……2人がかりで1人の女の子を襲うなんて、フェアじゃないなぁ」

優しい男の人の声。

「朱雀ちゃん、大丈夫だった?」

ゆっくりと振り返る。

緑色の瞳から、目が離せなかった。

「あの、私……」

この人は、一体……。

「玄武、なぜお前がここにいる」

!この人が、四神の最後の人、玄武さん!?

「いやあ、なんとなく?可愛い女の子が困ってそうな気がしたから」

「ちっ、相変わらずぬるいな、おぬし」

「そうだねー、まぁ、めのゆき程じゃないけど」

睨み合う2人。

「ごめん、朱雀ちゃん、ちょっと失礼」

玄武さんは手短に言うと、私の首と腰の下に手を入れ、抱え上げた。

「え……っ」

「じゃ、俺たちはこれで、アデゥース☆」

「そうはさせぬ!」

萠埜雪が針を構え直す。

「あーあ。そんなことしたら」

玄武さんはにやりと笑った。

それも、黒い笑みを。

「君の娘さん、どうにかしちゃうよ?」

玄武さんは指先を雪目に向けた。

「っ…………!」

「ふふふ。じゃあね、」

玄武さんはめのゆきを見据えたまま言葉を唱えた。

「あやかしの世界のあの2人の屋敷へ」

萠埜雪の瞳が私を捉えた。










ゆっくりと屋敷の床に降ろされる。

「……あの、本当にありがとうございました」

私は深く頭を下げた。

「いやいや、困ってる女の子を助けるのは、当たり前だからね。まあ、セイとハクトはご立腹だけどねー」

っ違う、違う!

「玄武さん!! 夢が!!夢を助けなくちゃ!!!」

「夢?」

玄武さんがとぼけた顔をする。

「あー、あの子か。大丈夫、あの子なら、先に人間界に送り届けといたよ」

「っ………。そう、ですか……。良かった………っ、本当に、良かった………っ!」

安堵の涙が止めどなく流れる

「……怖かった……、怖かったぁ………っ」

痛かった。

苦しかった。

「……お疲れ様、朱雀ちゃん」

玄武さんの声にもっと涙が流れた。


「朱雀!」

突然襖が開いて、セイが飛び出してきた。

「フカさん!何泣かせてるんですか!!」

「いや、違うって。俺、泣かせてないから。じゃ、セイ、あとよろしく♪」

「え、ちょ、フカさん!」

セイが私の方を向く。


「……とりあえず、涙拭けば?」

「……う、ん」

着物の袖で涙を拭う。

紅色の着物が、暗い紅色になる。

「………私、馬鹿だった……。ごめんね、ごめんなさい……!」

「……どうして、誰にも言わなかった」

「……それは……、雪目との交換条件で、夢を助けるために私が1人で行くか、セイとハクトに薬を飲ませるかどちらか行えって言われて、2人は優しいから、自分たちを犠牲にするんじゃないかって思って……。でも、1人でどうにかできるようなことじゃなかった!夢の命がかかってるのに、私の気持ちだけで行くべきじゃなかった!」

一度止まった涙が再び溢れる。

「……ごめんなさいっ!どうしてっ、私はこんなにも弱いんだろうっ、人1人も守れないようで、朱雀神なんか名乗る資格なんかない!どうして私なんかがっ!雪目の方が向いてた!大っ嫌い!私なんか、大っ嫌い!嫌い!大っ嫌い!」

「朱雀、」

「強くならなきゃっ!強くっ、もっと、もっと、強くなんなきゃっ!」

「朱雀!!!」

肩を強く引かれる。



「……………………私、もう、嫌だ……」



見えるのは涙で塞がれた歪んだ世界。

苦しみしかない、つまらない世界。

誰も、助けられないんだ……。

「……………朱雀、起こった事は変えられない。神でさえも、不可能だ」

右手を引き寄せられ、そっと抱き寄せられる。

「大切なのは、どんな未来を創るかだ。……もし、俺が朱雀だったら、同じような行動をしていたかもしれない。でも、お前は頑張った。朱雀の友達も朱雀も無事だったんだから、よかったっじゃないか」

っ、セイ……。


「………………でも、もう、心配をかけるようなことをするな。これ以上、朱雀を危ない目に合わせたくない。泣かせたくない。もう、遠くに行くな」

セイの熱が直に伝わる。

「朱雀の事は、俺が守る。夜暗並組からも、全てから。だから……」

セイの腕に力が入る。



「…………お願いだから、そばにいてくれ」



「……………………………っ、うん」






歪んだ世界が、崩れていった。

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