3、助けてくれた人
「………ん」
私はゆっくりと目をあけた。まだ、頭が少し痛む。体を起こすと、私は所は大きな畳間にいることがわかった。花がいけられていたり、壁に水墨画がはってあったりと、なかなか綺麗なところだ。襖の隙間から漏れているの光が畳を温かく照らしている。
「けど、私はなんでこんなところにいるんだっけ……」
まず、頭に浮かんだのは緑色のカップラーメン。次に、赤い鳥居とあやかしの世界という言葉。それから、狐さん。 あ、そうだ。襲われたんだ……。あれ?でも、それからはぷっつりと記憶がない。
「あ、起きた?」
ふいに可愛らしい男の子の声がして、私は声の主を探した。
「あのっ……!」
気がつくと、目の前には同世代ぐらいの男の子が立っていた。ふさふさな癖っ毛の白い髪にくりくりと小動物のような茶色の目。えくぼのある可愛らしい口で男の子は優しく笑っていた。
か、かわいい。癒される。
あれ?ということは……。
「あの、助けてくれて、ありがとうございました」
「ああ」
男の子はにっこりと笑った。
「お礼は僕じゃなくて……」
男の子がいいかけたとき、スッと誰かが入ってきた。その人は、なんとも不思議な男の人だった。同世代ぐらいなんだけど……。
真っ青でストレートな髪。金色に妖しく光る目。鼻筋の綺麗な鼻。小さな口。小さな頭。
絶世の美男だ。さっきのと男の子とこの人が並ぶと、なんとこの世の中、不公平なんだと嘆きたくなる。
「起きたのか」
「ああ、うん!」
その人の問いかけに、男の子は楽しそうに答えた。
「元気そうだな」
その人は眉ひとつ動かさずに言った。なんか、怖そうな人だ。
「あ、はい。助けてくれて、ありがとうございました」
「ああ」
軽くその人は受け流した。
「……あ、そういえば自己紹介をしてなかったね」
男の子はポンッと手を打った。
「僕の名前はハクト」
ハクトはそういってにこりと笑うと、クイクイとその人の袖を引っ張って促した。その人が面倒くさそうな顔をする。
「俺はセイだ」
セイもハクトも珍しい名前だ。
私はハクトの期待した眼差しを感じて、口を開いた。
「私は武井朱雀。高校生です」
「よろしくね」
ハクトがふんわりと笑った。
私も、よろしくね、と言った。
「けど、どうして私、こんな世界に……?」
普通に自己紹介してしまったが、思い出してみれば、ここに私がいるのは異常なことだ。
「あー……、えっと、それはね……」
言葉を濁すハクト。なにか、知っているのかも知れない。
「なに?それはね、の続きは?」
「あー、うん。えっと……」
「知らん」
ハクトの言葉を遮るように、セイが言葉を重ねた。
「知らんって……、今、ハクトは……」
「知らん。知らんといったら知らんのだ」
口を真一文字にすると、セイは答える気ないとでも言いたげにそっぽを向いた。
「ハクトー」
「あはは、ごめん、ね?」
ハクトにすがりつくと、困ったように笑われてそれ以上踏み込めなくなった。
「じゃあさ、さっき、私、襲われたんだけど、それってどうして?」
「ああ……」
ハクトが困ったように笑った。セイは少し迷ってから説明した。これは答えてくれるらしい。
「まず、ここはあやかしの世界だ。だからいろんな妖怪がいる。朱雀を襲った狐は雪目という狐で、まあ、いろいろなやつがいるんだ」
あれ?何となく、はぐらかされている?
私は一瞬そう思ったが、次の疑問を口にした。
「それじゃあ、あなたたちは、どういう方たちなの?えっと……、種類?」
「ああ……。我々は、ただの人だ。たまにいるんだ、そういうやつが」
へえ、そうなんだ。
「けれど……」
セイは、ふっと厳しい表情をした。
「外で軽々しく自分の名を名乗ってはいけない。名前を教えることで、襲ってくることもあるからな」
あ、だから、襲われたんだ。
あれ、でも、あのとき、あの狐さんは私を探していて、名前を聞いたとたん、敵扱いした気が……?
気のせいだったかな……。
「……そうだな、そなたは朱雀の朱からとって、シュウと呼ぼう」
シュウか。なんか、かっこいい。
あれ?でも。
私は首をかしげた。
なんで、私の名前の漢字を知ってるの?
「あ、でも、このお屋敷のなかなら、名前で読んでもいいんだ」
そうなんだ。あれ?そういえば……。
「ここって?どなたのお屋敷なの?」
「ここは、俺とハクトが住んでる屋敷だ。ああ、あと、仕えの者も住んでるな」
凄い、お金持ち。
「ところで、朱雀ちゃん、そんなかっこじゃ、目立つから、着物とか買いにいこうか」
見てみれば、まだ、制服のままだった。そっか、着物を着なきゃいけないものね。
「あ、でも、私、お金を持っていない……」「そのくらい、我々が出す」
「あ、ありがとう」
ハクトはよいしょっと立ち上がった。
「それじゃあ、朱雀ちゃんがここに来たなれそれを聞きながら、買い物に行きますか」