19、白
私は、雪の積もった地面に立っていた。
真っ白い大地にはそれ以外はなくて、周りを見渡しても、雪ばかりだった。
私の体の傷はついていなくて、骨もどこも痛くはなかった。
いつもの着物を着ていて、セイからもらったかんざしをつけていた。
雪が降っているのに、寒くはなかった。
なにも感じなかった。
……私、死んじゃったのかな。
ここはきっと、冥土なのだろう。
ここは、出口があるのかな。
でも、見渡す限り、雪しかない。
……ない、ね。
はあー……。
しょうがない、か。
ここでずーっと過ごすのかな……。
ひとりぼっちかーー。
みんなの顔が自然と思い浮かぶ。
お母さんの怒った顔。
お父さんの楽しそうな顔。
夢の愛らしい笑顔。
裕太の意地悪そうな顔。
小絵己さんの猫の耳姿で笑う顔。
禰霧の打ち解けてくれた時の顔。
麒麟様の優しく笑う顔。
ハクトの元気に私の名前を呼ぶときの顔。
セイの……………。
セイの………。
セイの……。
………………。
……………ああ、駄目だ。
セイは沢山の表情が浮かんでくる……。
笑う顔。
照れる顔。
怒る顔。
幸せそうな顔……。
セイばっかり……。
なんで……?
なんで、セイだけ……?
なんで、セイばっかり……。
セイだけ……。
セイ……。
………………。
……………………。
………………………。
……………………………っっっっっ。
……………あーーーっ。
うーーーーー。
はーーーー……っ。
分かった……。
やっと分かった。
私、私……。
ずっと………………っ!
セイのことが、好きだったんだ。
出会った瞬間から、ずっと。
ずーっと……。
話した時に感じるときめきとか、セイといるときの幸せな心とか、笑いあっているときの嬉しさとか…………。
それらを全部、恋、っていうんだ。
ああ……。
ああ、もう……っ。
どうして、早く気づかなかったんだろう……っ。
どうしてっ………………、どうしてっ!
なんで……、気付かなかったのっ!
なんで、なんで、気付けなかったのっ!
なんでっ!
どうしてっ!
馬鹿、私の、馬鹿!
もっと早く気づいていればっ!
……………っ、生きてる頃にっ、気づいてればっ…………。
…………せめて、気持ちだけでも、伝えられたら良かったのに……っ。
生きてる間に伝えたかった………………!
振られても、いいから……っ!
だから……っ。
だから……っ!
あーーーーー……………っ。
…………遅いよ、私……。
もう………………。
もう、会えない、のだからっ。
もう、一緒に笑ったり、話すことが、できないのだからっ……………。
そんなに大切に思っていなかった時間が、貴重で、幸せだった。
時間は無限大にない。
時間は待ってくれない。
だから、時間は、なによりも大切なものなんだ……………。
お願い神様っ……!
もう一度だけ……っ!
もう一度だけ!
一度だけでいいから、
チャンスをください。
お願い、もう一度だけ会わせて。
話をしたい……っ。
お願い……っ。
お願い………………っっっ!!!
「……………朱雀」
優しい声が、背後から聞こえる。
かすかに香る、花の香り。
誰?
幻聴?
「朱雀」
再び優しい声がして、私はおもむろに振り向いた。
「……どなたですか?」
灰色の髪の毛をした、優しくて、元気そうなおばあちゃんがそこに立っていた。
「あらあら。そうよね」
おばあちゃんがころころと笑う。
「私はね………」
そっとおばあちゃんが微笑んだ。
「柴江、あなたのおばあちゃんよ」
「え……………………」




