18、決戦2
「でも、私のお母さんは、暗姫様じゃないのよ。また別の人なの」
どういう、こと……?
雪目の声が空気の流れを変えてゆく。
「これは、あなたたちに公表していない情報だから、知らないはずよね……。お母さんは、朱雀神になるはずだったの。でも、お母さんは、恋をしてはならない人に、恋をしてしまった。それこそ、暗姫様のように。お母さんは……、ハクトのお父さんの弟、唯爾さんに恋を抱いてしまった。どうしてもその人と一緒にいたかったお母さんは、自分の素性を隠して唯爾さんに近づいたの。唯爾さんもお母さんを愛するようになって、二人は結婚まで約束していたわ。でも、それを、暗姫様は見つけてしまったのよ。自分の娘が目の前で、敵方の男と愛を紡いでいるのを。暗姫様はお怒りになったわ。何度もお母さんを殴り、罵声を浴びせた。きっと、暗姫様は怖かったの。自分と同じような形で恋をしてしまった娘の姿を見るのが。でも、一番厄介だったのは、お母さんが私を身ごもっていたことよ。だから、暗姫様は罰として、朱雀神の位を私に与え、私にお母さんを監視させた。……でも、お母さんは変わった。笑わなくなった。活発に話さなくなった。表情に影を浮かべるようになった。それから、武術に熱中した。前のお母さんのことを想像出来ないぐらい、お母さんは変わってしまったの」
そんなことが……!
「さて、茶番もここまで。そろそろ決戦といっていいかしら」
雪目の瞳がきらりと光り、まっすぐに私を見据えた。
地を這うような風が吹く。
「ゲームはこう。私の背後ある部屋にはあの女がいる。あなたがもし私を倒してあの女を助けたら、あなたの勝ち。でも、私を倒せなかったら、ゲームオーバー。……いいかしら?」
「了解。絶対に負けないから」
「あら、随分と強気なのね」
鋭い二つの視線が絡み合う。
もし、私がここで負けたら、二人とも助からない。だから私は、負けるわけにはいかないっ!
「裂雷壊空!!」
私の叫び声とともに、腕からまっすぐな黄金の光がでた。ぱちぱちと音をたてて光るそれは、雷そのものだった。
「炎天豪暑!」
雪目の腕から、真っ赤な炎が噴き出す。二つの技によって、畳間は瞬く間に真夏のような暑さになった。
その雷と炎は、まるで猛獣で、お互いを威嚇するように蠢いていた。
「……あなたのおばあさん。柴江、って言ったかしら」
暑さのなか、雪目は楽しそうに笑いながら言った。
「あの人、100代目麒麟と結婚できなかったのよねっ。ふふふ、相思相愛だったのに。かっわいそうー」
っ!!!!!
「馬鹿にするなぁっ!!」
怒りに駆り立てられ、雪目との距離を縮め、目の前に雷を構える。
雪目の歪んだ表情が目の前にあった。
「誰よりもまっすぐで強かったあの人のことを、知ったように話さないで!!!」
私は雪目に雷を振りかざした。勢いよく、鋭く。
「……ふっ。そっちこそ、あまり知らないくせに」
雪目は雷にぶつけた炎の奥で、くすりと笑っていた。
ぶつかりあった炎と雷がさらに勢いよく蠢いた。
髪の毛の先がちりちりと焦げ、顔が炎にさらされて、熱をおびてゆく。
「雪目っ!私はあんたなんかに絶対負けないから!」
雷を剣に見立てて、技を打ち込む。
素早く雷を動かし、隙をつく。
だが、雪目には一回も触れなかった。
雪目も私の攻撃に合わせて、炎を素早く動かした。
「負けない?ふっ。そんなの勝ってから言いなさいよ」
何度雷を跳ね返されようが、私は絶対に諦めなかった。
腕がしびれても、熱が迫っても、何度も何度も攻撃をだした。
「……雪目。私にはあって、あんたにはないもの、教えてあげる」
何千回とぶつかり合う炎と雷がその度にばちばちと音を立てる。
「それはね、仲間、だよ」
「仲間?」
熱が容赦なく私を炙り、私の体のいたるところに火傷をつくっていった。
「……馬鹿じゃないの?そんなの必要ないわ」
雷の勢いが少しずつ減るのに反し、炎はみるみる大きくなっていった。
雪目と私の強さの差が垣間見えたが、私はそれを切り離して戦っていた。
「必要ない?いいえ、必要よっ」
雪目に押されながらも、私は強い声で返した。
もう、雪目の瞳は笑ってはいなかった。
「私はそれに救われた。助けてもらった!」
「うるさい!黙れ!」
雪目が鋭く叫ぶ。けれど、それは苦しみの声にしか、聞こえなかった。
「必要なの!私にも、あなたにも!」
「黙れ黙れ黙れっ!!!!」
炎が雷を押さえつけ、飲み込んでゆく。
雪目は鬼のような形相で私を睨んでいた。
熱い空気が私たちに纏わりつく。
雷はさらに炎に飲み込まれていき、消えてゆく。
私も負けは、目前だった。
「なにが雪目をそんな風にしたの!?一体なにがっ!?」
「っ!!!うるさい、うるさいっ!!!黙れっっっっっっ!!!!!」
炎が雷を、完全に飲み込んだ。
無防備になった私の体が後ろへと飛ぶ。
鈍い痛みを頭に感じ、骨を強打した。
呼吸が止まりかけ、空気を求めるように口が無意識に動いた。
痛みに苦痛を感じ手に耐えるように力が入る。
鼻腔の奥から、血の匂いがする。
「私から全部奪ったくせに、大口叩かないで!仲間なんて……、人間なんて……、どうせ、また嘘をつくんだわ」
どう……いう……こと……?
意識が朦朧として、雪目の顔が曇ってみえる。
「乱」
雪目は決まり字をいい、だした日本刀を私に向けた。
自分が死ぬ、ということがやっと感じられる。
思い浮かぶのは、お母さんの顔、夢と裕太の顔、ハクト、セイ、麒麟様の顔……。
「……さようなら。100代目朱雀神」
日本刀が振りかざされ、完全に視界が真っ暗になる。
動かない手足。
朦朧とした脳。
指先に感じるどろっとした液体。
ああ、まだ死にたくない。
痛みの中、私の意識はなくなった。




