17、決戦
向かえにきた………。
ついに、この時がきてしまった。
胸があり得ないほど高鳴る。
決まり字も何も決まってないのに……。
でも。
やるしかない。
「わかった。連れていって」
「ふふ。言われなくとも」
雪目は狐のように目を細めて笑い、私の手をとった。
「××××へ」
身を切り裂くような風か、ほほをかすっていった。
【セイサイド】
っ、朱雀の奴、どこ行ったんだよ。
あたりを探したが、朱雀は煙のように消え去っていた。
「セイっ、いたっ?」
「いない!」
ハクトが荒い息をしながら俺に走り寄る。
「どこに行ったんだっ、朱雀!」
「セイ、落ち着いてっ」
「なんで突然消えたん……」
その時、俺はあることを思いついた。
「連れ去られたんじゃないかっ?夜暗並組に」
「まさかっ」
ハクトが信じられないという顔をしたが、可能性は高いと俺は思った。
「朱雀を絶対に連れ戻す。……行くぞ、夜暗並道へ」
「冠授祭はっ」
「中止だ。朱雀神がいないのに、出来るわけがないだろう」
「分かった。まあ、しょうがないか。朱雀もいないのに、あの人も来ていないしね」
あの人、を思い出して、思わず苦笑する。
「時間にルーズなんだよ、フカさんは」
「ルーズすぎ、だけどね」
フカさんを思い出したのか、ハクトも苦笑を浮かべた。
【朱雀サイド】
着いた場所は殺風景な畳間だった。
前に来た、薬を飲んでしまったあの部屋と同じ部屋なのかもしれない。
静かな静寂を纏ったその部屋は、壁の四隅が見えないほど暗かった。
「……ここはねぇ、」
雪目の声が畳間に響く。
「『繕いの間』というのよ」
「………………そんなことより、はやく、夢に会わせて」
夢の安否の確認が、今、一番望むことだった。
「急かさないでちょうだいよ。大丈夫、女は元気よ。それに、急いだって、二人とも殺されるんだからいいじゃない」
笑顔の雪目に寒気が走る。
雪目は、人を殺すことを躊躇わないんだ。
どうして……、なにが雪目を狂わせてしまったんだろう。
「繕いの間は、いわば、決戦の場みたいなもので、殺しはいつもここでやるの。拷問も、戦いも自決も。なのに、繕いの間なんて……、不思議よね」
ふと笑った雪目の表情に私はある感情を読み取った。
「……寂しい、って顔している」
その表情が寂しげで、苦しそうだった。
「なっ、寂しい!?私が?はん、笑わせるのも大概にしてちょうだいよっ」
雪目はそういったが、その焦り用は、まさに、その言葉を肯定しているようなものだった。
雪目の目に映った苦しさが、私の心に映る。
「…………ねえ、雪目。あなたは、いったい、誰なの?」
それは、橘家の立場として。私たちのてき、という立場にして。
そして、なぜか感じる、不思議な懐かしさ。
敵なのは知っている。怖い人だっていうのも知っている。
でも、何か、違うんだ。何かが、敵じゃないって、心の奥底で囁いているんだ。
「っ、なんで、そんなことを聞くのよっ?!」
「……わからない。でも、あなたが敵に思えなくて」
「!!!!敵よっ、私はっ!!!」
雪目が悲鳴のような叫び声をあげた。
何かを怖っがっているかのように。
「なんでっ?なんで警戒しないのよっ!私は、あなたを殺せるのよっ!?難なく、殺せるのよっ!?」
「敵だなんて、知ってるっ!でも、違うの!あなたと争うべきじゃないって、誰かが言ってるのっ」
私の叫びに、雪目は呆然とした。
「どうして……必死で、ここまでやってきたのに、全部壊すの?私のものを、全部奪わないでよ!」
「全部?」
奪う?私が?なにを?
「……いいわ。教えてあげる。本当の私」
雪目はいつもの冷ややかな目元を三日月のように歪ませた。
「私の名前は、橘雪目」
っ!!!!橘!?
「私は、100代目朱雀神になるはずだった、橘雪目よ」
私に全てを奪われた。
私は……、私は、雪目から、朱雀神を奪ったんだ。




