15、冠授祭、前夜
「朱雀ちゃん、元気にしてた?」
「うん。元気だよ」
「よかったー」
優しく微笑むハクトの隣にセイが座る。
「あー、セイ、来ないでよ。折角朱雀ちゃんと二人きりで話してたのにー」
「許せ」
「もー、しょうがないなー」
嫌がりながらもどこか嬉しそうなハクト、どこか安心しているセイ。
二人が揃って、やっといつもの光景に戻った気がする。
「ねえねえ、朱雀ちゃん。これから、何日かこっちにいるの?」
「ん?どうして?」
なんか、あったっけ……?
「だって、明後日は冠授祭だよ」
冠授祭?
「あれ、まだ、聞いていないの?」
「う、ん。冠授祭って?」
「冠授祭っていうのは、百代目の四神が皆揃ったから、百代目を正式に認める式のことだよ」
「えっ、そんな大事な事が明後日に行われるの!?」
どうしよう、なんの準備もしていない!!
「セイ、ちゃんと早めに言わなきゃ駄目だよ」
「悪い。いろいろあって、話す機会がなかった。でも大丈夫だ。朱雀神と名を呼ばれたら、出てきて頭を下げるだけだ」
「説明が大分ぶっとんでるけど……。まあ、セイのいう通り、大丈夫だよ、本当に。衣装とか小絵巳さんが準備してくれているから、朱雀ちゃんがしなきゃいけないことは、返事の練習ぐらいだよ」
そうなんだ。よかった……。
「あ、そうそう。衣装ね。おシュウちゃん、今、時間ある?」
「あ、はい」
会話を聞いていた小絵巳さんが、ひょこりと顔をだす。
「じゃあ、衣装合わせしてもいいかしら」
「はい。宜しくお願いします!」
「あ、おい、朱雀!」
高い声が床から聞こえ、私はしゃがんだ。
「これ、やる」
そういわれて禰霧の小さな手から渡されたのは、細い金色の糸と赤色の糸で編み込まれたヒモだった。
「ミサンガ?」
「そういうのか?よくわからないが、願いの糸という名前で店頭で売ってた」
「ありがとう。でも、……なんで?」
「それはっ……」
不機嫌そうに禰霧がそっぽを向く。
「俺、お前にいろいろと、ひ、酷い事いったから……」
禰霧の可愛い姿に、くすりと笑いがこぼれる。
「おシュウちゃん?どうしたの?」
「あ、いえ、今行きます!」
小絵巳さんに返事をすると、もう一度禰霧に向き直る。
「ありがと!」
私は巳を翻して、小絵巳さんのもとに駆け寄った。
禰霧は、意外と。
小絵巳さんの後をついていきながら考える。
悪いやつじゃないのかもしれない。
数分後………。
「これ、どうしたんだ? 」
セイが私の手についた金色のミサンガに目を向ける。
「あ、禰霧がくれたんだ」
「禰霧が?」
セイがうかがわしそうに眉をしかめる。
「あ、別に悪意って訳じゃなくて……。何て言えばいいのかな。仲直り、のようなものかな?」
「そうか」
ほっと、セイが眉を緩めた。
「うん。やっと仲良くなれそう。嫌なこととか言われたり、されたりしたけど、それは過去のトラウマのせいで、私を嫌ってたわけじゃなかったんだって思うと、嬉しいんだ」
「……そうか」
セイは手を伸ばして……。
「よかったな」
まるで、壊れ物を触るように私の頭を優しく撫でた。
くしゃりと髪の毛が揺れる。
「セ、セイ……」
「どうした?」
「は、反則……っ、だよ……」
とくとくと早鐘を打つ胸の音が温かく体に広がってゆく。
「反則?」
「うぅ、なんでもない……」
照れて思わず下がる視線。頬はきっと、林檎のように赤くなっているだろう。
『この世界に早く平和がきますように』
ミサンガをつけたときに祈った願い。
平和になることはまだまだ先かもしれない。
けど。
小さな幸せが大きな幸せをつくっていくと思うから。
小さな幸せを沢山つくっていこうと、思うんだ。