12、重ねる嘘
夢が連れ去られてから早4日。
その間にたくさんのことが起こりすぎて、まだまだ脳が完全に読み込めていない。
けど。
一つだけ確実なものがある。
それは、まだ得意術と決め字を見つけられていないこと。
2日後まで見つけないと、私と夢は、確実に……。
「朱雀、何難しい顔してんだ?」
「わっ」
眉間を突かれ、思わず声を上げる。
「裕太!」
「どーも」
私の机に寄りかかった裕太は、じとりと私を見た。
「……朱雀、なんかあったか?」
え……。
「だってほら、ここ最近ずっと強張った顔してるから。なんかあったんだと思って」
「……何もないよ」
夢まで巻き込んだ上に裕太まで巻き込めない。
ましてや、私のことや夢のことを話したら、裕太はどんな顔をするのか。
むかつく幼馴染だけど、優しい奴だから話なんてしたら、すごく心配しちゃうだろう。
「ふーん。嘘つくんだ」
う……。
「う、嘘じゃないよ?」
そう言いながら無意識に机の上のシャープペンを弄る。
「あ、でた!それ、お前が嘘をついてるときの癖。お前って昔から嘘つくときなんか触ってないといれないよな」
なっ……。なんでそんなことを。
「そんなことないし。それに、私は嘘なんか……」
言いながら自分をどんどん苦しめているのがわかる。鎖のように苦しみが私の体を縛り付ける。私は罪悪感を感じ、思わず裕太から顔を背けた。
「……お前、何でそこまで嘘をつくんだよ」
悲しさを帯びた裕太の声。それが胸に刺さり、苦しくなる。
「少しは頼れよ、俺のこと。そんなに信用できないか?俺は……」
「……ごめん。お願いだから、それ以上言わないで」
耐えきれなかった。これ以上嘘をつくことも、裕太の悲しい声を聞くことも。
「裕太のことは信頼してるし、頼れることはわかってる。けど……」
この先、一体何と言えばいいのだろう。
複雑な事情があると?どうしても言えないと?
「じゃあ、どうして何も言ってくれないんだよ!」
裕太が私の肩を強く掴んだ。
「なあ、俺、しつこすぎるか?迷惑か?わかんねえんだよ、朱雀が今、考えてること!俺はどうしても、朱雀の悩みを減らしてやりたいんだよ!」
私は……っ!
「関係のない人は口を出さないでっ!」
勢いよく出た言葉はそんな言葉だった。
「部外者でしょ、裕太は!」
ちがう、こんなことを言いたいんじゃない!私が言いたいのは……!
「お前、部外者って!」
私たちの言い争う声に教室中が静まり返った。
「そんなの、ないだろ!」
「あるよ!」
言いたいこともまとまらないまま、口が勝手に動いていく。
そして、次の瞬間、私は一番言ってはいけないことを言ってしまった。
「幼馴染なんて血のつながりも契約もない、ただの関係でしょ!?幼馴染ってだけで、そんなに踏み込んでこないで!」
言ってしまった途端、自分が何を言ったのかに気がつき、我に返る。
裕太の傷ついた表情。冷たく凍り付いてしまった教室。
「ごめん……」
私はそれだけ呟くと、教室を飛び出した。後悔が押し寄せ、涙がこみ上げてくる。
裕太は思ったことをまっすぐに伝えてくれた。なのに、私は……っ。酷いことを!
私の言いたかったことはあんなことじゃない。それじゃあ、私は何て言いたかったんだろう。言う台詞なんて、思い浮かんでいなかったのかもしれない。
「あやかしの世界の……!」
涙を袖で拭いながら私は叫んだ。
「セイの元へ!」
なぜか、セイに無性に会いたくなった。セイなら、私の考えてることを上手くまとめてくれる、と思ったのかもしれない。




