3、行き違い
「……と、取りあえず、ね?ほら、初対面だからね?」
夢のおかけで、凍っていた空気が少し、柔らかくなった。
「自己紹介でもしようか」
ハクトが優しく微笑んだ。
「僕の名前は、ハクト。四神の一人で、白虎に値します。年は〜……。大体みんなと同世代かな?」
ハクトはそれだけいうと、セイも、と、セイを促した。
「俺の名はセイ。四神の一人で、青龍に値する。年はハクトと同じだ」
無機質な声で、セイが言った。まったく、イライラしちゃって。どうしたんだか。
「私は坂本夢です。普通の人間です。好きなことは……、お菓子作りかな?」
ほんと可愛いいな、夢は。お菓子作り得意だもんね……。私は……。クッキーも作ったことない……。
「俺は、管野裕太。好きなことは、剣道」
……こちらも不機嫌面しちゃって。まったく。
「……剣道?」
ポツリと、セイが呟いた。
「あ?なんか文句でもあんのか?」
ヤンキーのような口調で裕太が噛みついたが、セイはそれに気にせず、ジッと眉間にシワをよせて、考え事をしていた。
「……ふむ。いいな、使えるな、おぬし」
「は……?」
裕太ら目を白黒させた。うん。セイ、なにを言い出してるの?
「……ああ、ごめん。えっと、気分悪くさせるかもしれないけど……。あやかしの世界では、普通なんだよ。斬り合いとか、殺し合いとか。その戦いで使えそうだって話……」
「はあ!?そんなに頻繁に争い事が起きる場所に朱雀はいるのか!?」
急に裕太が立ち上がり、その反動で椅子が後ろに倒れた。
大きな音がして、クラスにいた人達が皆、裕太に視線を集めた。
「いや、あの。そこまでじゃないから。ね?」
慌てて宥めるも、
「起きることにはかわりないんだろっ!?」
と怒鳴られ、私は閉口した。
「……ちょっとこい」
周りの視線に気がついた裕太は、少し声を落としてセイの肩を掴んだ。
「なんのようだ」
立つ素振りもしないセイに裕太はイライラと更に強く肩を掴んだ。
「アイツのことで話がある」
「……承知した」
セイは渋々言うと、さっと席を立った。
「ちょっと!」
慌てて呼び止めようとするも、二人は足を止めようとはしなかった。
「なにあれ……」
セイも、裕太も。意味の分からないことばっかり言って。
「……まあ、しょうがないかな」
「……ですね」
しみじみと頷く、夢とハクト。
「ちょっ、そこ!!なんで、分かるの!?」
「まあ、男の事情ってもんだよ」
は、はあ……。
「……僕もライバルなの、裕太君は知らないのかな」
誰にも聞こえないような声でハクトが呟いた。
「ちょっと、朱雀ちゃん。学校案内をしてくれないかな。なかなか興味があってね」
「あ、うん。もちろん!!」
「じゃあ、朱雀。私は次シフトだから、一時間後ぐらいにまたきて」
「分かったー」
そっか。夢は次、係なんだ。
「じゃあ、いってらっしゃい」
「うん!」
「行ってきます」
笑顔の夢に見送られ、私とハクトは席をたった。
「………はい、お待たせしましたー。『ミラクルトロピカル……』って、誰もいないじゃん」
誰もいなくなったその席に、料理を届けにきた総合監督がしょんぼりとしてその料理を食べていたのは、まったくの余談である。
《夢》
……いっそ、あそこがくっついちゃえばいいのにな。
二人の後ろ姿を見ながら、私はそう心のなかで、呟いた。
あ……。だめだめ。これじゃあ、最悪な人じゃん。
私は朱雀を応援するんだ。
けど……。
さすがに、あんなに朱雀のことを想っている裕太君を見ているのは辛い。でも、私は私のやり方で裕太君を振り返らせなきゃね。私は私だから。
そう自分に気合いをいれると、私は教室の前で、また通る人に愛想笑いを向けた。
「坂本さ〜ん」
遠くから、私を呼ぶ声が聞こえた。
「あっ!」
みれば、あの人は、
「榎本先生!!」
去年の担任の榎本先生がこっちに向かって、一直線に走ってきていた。
「ちょっと……、いいかな?」
「え、あ、はい」
どうしたのだろうかと、私は小首をかしげた。
《セイ》
「お前、どういうつもりだよ」
「どう、とはなんだ」
鋭くこちらを睨む、男子生徒。たしか、管野裕太とかいったな。
明るい茶色の髪、意思の強そうな瞳。
格好いいの部類に入る男だ。
「なんで、朱雀に戦わせるんだよ!?」
「それは……」
俺は一度、言葉を濁した。
「それがアイツの運命だからだ」
管野裕太の瞳に、赤色がさらに灯った。
《朱雀》
「なんか、修羅場だったね」
「うん」
「いったい、どうしたのかね」
「……知ってるけど、教えない」
「え〜……」
ハクトは、さっきからこの調子だ。なんか、いつもと違う雰囲気がいて、私は居心地が悪い思いをしていた。
「しかしさ、私が思うにね……」
「ねえ」
重い空気を変えたくて、明るくいってみたが、あえなく、ハクトによって、止められた。
「……ねえ、朱雀ちゃんはその力をどうしたいの?」
え……?
「それ、は……」
「意味もないのに、力を使わないでほしい。意味もないのに、訓練とか、しないでほしい」
冷たく、固い声でそう呟くように告げると、ハクは呆然としている私を置いて、人混みに紛れていった。
「……え……」
その意味をはっきり捉えられずに、私はまた同じことを呟いた。




