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【第1部】1、ことのはじまり

想像なので、事実と違ってるところがあるかも知れませんが、この話の中では、こういうことになっていると思ってご覧になって頂けると幸いです。

『キーンコーンカーンコーン』

チャイムがなって、あちこちの教室からガタガタと席を立つ音がする。隣のクラスはもう授業が終わったのか、廊下から話し声が聞こえてきた。

「えー、それでは、来週、続きをしますので、復習しといてください。それじゃあ、終わりまーす」

古典のおじさん先生が授業を締めくくり、私のクラスの生徒もガタガタと席をたっつ。

我慢していたかのように、終わった瞬間、教室に話し声が弾けた。私も席をたち、帰りの準備をするためにロッカーに鞄を取りにいった。

私の名前は武井 朱雀(タケイスザク)。西澤高校、略して西高の一年生で、部活は弓道部。家族は兄と母と父という、いたって普通の高校生だ。

「朱雀ー?帰るよー?裕太も待ってるよーっ」

柔らかい、空気を和ませる声がして振り返ると、親友の坂本 (サカモトユメ)が、教室の出入り口から可愛らしい笑顔を浮かべながら私をよんでいた。

「あっ、うん!今行く!」

私は鞄を掴むと、夢のところにむかった。椅子がガタガタと大きな音をたてた。

「……おせえよ」

不機嫌そうな声が頭上からふってくる。

長身で誰がどうみてもイケメン男子、菅野 裕太(カンノユウタ)。小さい頃からの腐れ縁である。

「ちょっとだったんだから、いいじゃん」

「お前のちょっとはなげえんだよ」

「はぁー?失礼な!」

いつもの小競り合いが始まって、夢が慌てて私たちの間に入った。

「まあまあっ!ここ廊下だから、ね?いまは止めといた方がいいよ?」

夢の正論に私たちは、ムウッと、閉口した。それでも、私たちはまだ睨み合っていた。






「朱雀も裕太君も、幼馴染みなのに仲が悪いんだから……」

帰り道を歩きながら、夢が悩ましく言った。裕太が悪いのだもの、と私は内心、ふて腐れた。

「しょうがないだろ?相手がこんなやつだったら」

むっ!!

収まりつつあった怒りが、また沸々と沸き上がる。

「それはこっちの台詞だもん!」

「なんだと!?」

裕太は眉をしかめると私の頬をつまみあげた。

「いひゃいよ!!はにゃしてひょ!!」

裕太の腕を引き離そうとするも、断然的に力が強い裕太の腕はなかなか離れなかった。

「ははん。いい顔してやがる」

「はひゃして〜!!」

ニヤリと、悪魔のような笑みを浮かべた裕太は、なかなか離してはくれなかった。

「ちょ、ちょっと、二人とも。あぶないよ」

夢が慌てて間にはいって、裕太は渋々手を離した。

救われた、と頬をさする。

「……あ、みて」

夢がぱっと目を輝かせて、指を指す。

「ん?」

指の先には、可愛らしい茶色の小鳥がいた。

「わあっ、可愛い」

ちょんちょんと、小さな足で小鳥は歩くと、ちょこんと小首を傾げた。

「なんの種類かな、あの小鳥」

「さあな……、雀じゃね?」

「雀かあ……」

その雀の姿に、私は心が和んだ。

「……ふっ、同じ雀でも、朱雀は全然違うよなっ」

「どういう意味!?」

「そのままだよ」

「なんだとっ!?」

どうせ、私は可愛くないですよー、と裕太を睨む。

「でもいいもん。雀は雀でも、朱色の雀だもの。また別物よ」

朱色の雀なんて、想像できないけれど……。

「いや、朱雀、そういう意味じゃないと思うよ?」

夢が苦笑いをした。

「朱雀っていうのは、神様なんだよ。四神のなかの一人」

「へえー、そうなんだ。神様なんだ」

初めて知り、名前の捉え方が少し変わった気がする。

「……けど、なんでお前の親御さんは神様の名前をつけたんだろうな」

うん……。いわれてみれば……。

「名前の由来とか、聞いたことなかったかも」

「ええ?普通、聞くもんだろ」

「うん。私も聞いて、その印象が強くて……」

裕太と夢が話しに花を咲かせて、話し込んでいた。

名前の由来、か……。

本当に、どうしてだろう。

私は離れてしまった裕太と夢と肩を並べるために小走りしようとして……、やめた。

そういえば、夢は裕太が好きなんだったね。そしたら、私はここで天使にならなきゃ。

「お二人さん!私、用事を思い出したから、先帰るねー」

明るく言うと、

「え、なんっ……」

夢が顔を赤くしてうろたえた。夢に私の気遣いが伝わったみたいだった。

「じゃ、また明日!!」

私は、夢と裕太の答えを聞かずに走り出した。




「ぷはあー」

家に帰ってお茶を飲んだ私は、思わず親父臭く息をついた。久しぶりに走ったり喉が異常に乾いていたため、続けてぐびぐびとお茶を飲む。

「……お腹減ったぁ」

喉が乾いたと思ったら、腹が減ったのかい。と、我ながら忙しい奴だと思う。

「……あ」

目についたのは、緑色のカップラーメン。

「食べようかな……」

父親が買ってきたものを勝手に食べてきていいのか、と少し迷う。

「よし、食べるか」

私は潔く腹を括った。誘惑に弱いのを直さなければと思うものの、なかなか実行できない。

お湯が沸くまでの間、ボーッと台所に立っていると、ふと脳裏に夢と裕太の姿が写った。楽しそうに幸せそうに笑う夢。私の心の中はモヤモヤとしていた。

裕太が好きで、焦ってるという訳ではない。ただ、二人という大切な友達のなかに、私は入っていけなくなるのでは、と思って、恐くなってしまうのだ。二人が付き合ったとき、どう接すればいいのか、想像がつかなかった。

「あーあ。嫌だな」

と、思ってはいけないと思いながらも無意識に思ってしまう。先週、夢から裕太が好きだから、手伝ってほしい。と、言われたときには快く返事した。夢に幸せになってほしいのは今でも変わらない。ただ、私は今の関係を壊したくなかった。変にぎくしゃくした関係にはなりたくなかった。

「私、自分の幸せばっかり、考えすぎなのかなあ」

私は小さく呟いた。するとタイミングよく、そうだと言わんばかりに、

『キーーー』

とやかんがなった。

「よしっ」

私は考えていた事を頭から振り払うとカップラーメンにお湯を注いだ。

三分たったのを確認すると、箸を持った手を胸の前で合わせる。

「いっただーきまーす!!」

ズズズと、一気に麺を吸った。湯気で顔が温かくなる。この、なんともいえない温かさに幸福を感じる。私はいつものようにスープに口をつけた。一番太るところを飲んではいけないと思うが、手は止まらなかった。

そして、最後の一滴を飲み込んだとき、即座に体に違和感を感じた。体が浮いているような、ふわふわした感覚。

あれ……?なんか、意識が朦朧として、目を開けていられない……。

ふらふらとする頭を手で押さえたとき、急に体の力がぬけた。

そして、プツリと意識が途絶えた。

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