2、セイとハクトのご来店
それは当日、すべての準備が終わってもうすぐ、お客さんが入ってくるような時間だった。
「どうしよう!!」
クラス委員の女の子が息をきらして教室に駆け込んだ。
「どうしたのー?」
クラスメイとの一人がのんびりと訊いた。
「メイドやってくれる、佐々木さん、休みだって」
「えーーっ!!」
クラスに絶叫が響いた。それもそのはず。その佐々木さんはクラス1の美人さんで、朝から夕方までメイドをしてくれる予定だった。彼女なしでは、運営できない。
「だ、誰か、代わりはできないのかよ」
教室の最終確認をしていた男子生徒が慌てたように言った。
皆、周りをキョロキョロとみた。
「……あ」
さっきの女の子がじとりと私をみた。
……素晴らしく嫌な予感。
「……朱雀ちゃん、やってくれない?」
………ですよね〜。
「ていうか、やって?ね?やるでしょ?」
「頼む、武井様!!」
皆に拝まれ、頭をさげられ、背中を押され………。
「……ううー。わかったよ」
私は渋々了承した。
《萠埜雪》
「榎本先生!ここ、どうすればいいですか?」
「あ、それなら、こっちに置いといて」
三日前から、この学校の教師の榎本紫乃の体を奪って、この学校に潜入している。榎本紫乃の魂は部下に縛って監視させていた。
この学校に潜入している理由。
それはー……。
「榎本先生?どうしたんですか?ぼーっとしちゃって」
一人の女子生徒が顔をのぞきこむ。
「んー?なんでもないよー?」
得意の作り笑顔で、答えた。
服の袖に、毒針があるのを確認しながら。
《朱雀》
「い、いらっしゃいませー」
開店から1時間。私は休む間もなくお店にたった。
あ゛ーーー!!
つーかーれーたー!!
佐々木さん、どんだけ頑張ろうとしてたの!?むしろ、尊敬するよ!!
疲れて、お盆を持ったまま、壁によりかかったとき、
『からんころん』
お客さんが入ってきたときに合図をするベルが鳴った。
「あ、朱雀ちゃん行って!」
総合監督の女子にいわれて、私は
「はーい」 と返事して、出入り口に向かった。
「いらっしゃいま……あっ!!」
私は入ってきた二人組のお客さんをみて、足を止めた。
青い髪の男子と、白髪の男子。
セイとハクトだ。
今日もいつもの着物を着ている。
けど……。
その後ろの女子の大群はなに!?
怖いよ!!セイとハクト、どれだけモテるの!!
「あ、朱雀ちゃん」
ハクトがヒラヒラと手を振った。
それだけで、女子の視線が鋭くなる。
「こ、こちらにどうぞ〜」
作り笑いをしながら、私は、なるべく目立たない、個室のようなエリアに誘導した。
「朱雀、その、『めいど』の服は着なかったんじゃないのか?」
「いや、あの。私は代わりで。一人、メイドさん、休んじゃったから」
「そうか」
セイとハクトにまじまじと服や私をみられて、私は恥ずかしくなった。
「そ、そんな見ないでよ!!」
こんなに見られるなら、いっそ、笑われた方がましな気がする。
「可愛いよ、朱雀ちゃん」
ハクトが人懐っこい笑みを浮かべて言った。
「あ、ありがと」
私はたどたどしくお礼を言った。
「セイもなんか言ったら?」
ハクトがセイを促して、セイはようやく口を開いた。
「……そんな服きるな、馬鹿が」
そっぽをむいたセイの耳や頬は、何故か、真っ赤だった。
「あと、愛想笑いは、男性客に絶対するな。それにスカートが短い」
「は、はあ……」
どうしたんだろ、セイ。 不思議に思ったが、その姿が面白くて、私はくすりと笑った。
「セイ、お父さんみたい」
「は……っ?父?なぜそうなる」
「まあ、そう見えたよ。さすがに」
「訳がわからぬ」
その姿も面白くて、私とハクトはまた笑った。
「……あ、そういえば、朱雀ちゃん。この学校になにか、いるから。気をつけて」
なにか?
「ああ。相手は上手く自分の真の姿を悟らせないようにしている。かなり、上級のものだ」
「分かった。気をつける。あと、私は私で探してみるね」
「うん。けど、無理しないで。朱雀ちゃんに何かあっては遅いんから」
「ああ。なにかあったら、俺たちを呼べばいい。すぐに向かえるような位置に待機しておく」
「ありがとう、二人とも」
そこまでいって、私は注文をとっていないことに気がついた。
「えっとー、なに食べる?なに飲む?」
メニューを差し出すと、二人は興味深げに身を乗り出した。
「なにが美味しいんだ?」
「オススメは、このクレープかな。あ、でも、甘いのが苦手なら、ビターケーキもあるよ」
「じゃあ、俺、この、『バナナキャラメル&チョコ』クレープと、烏龍茶で」
ハクトはすぐに決まったらしく、ぱぱっと注文を言った。
「じゃあ俺は、『ビターケーキ』と、『サワーグレイプ』で」
「わかりました〜。じゃあ、少し待っててね。すぐ持ってくるから。じゃあ、失礼します!」
一様、客なので、それらしくしてから私は席を外した。
皆が、興味津々の目を寄せてくる。
だよね〜。あんな、美男子二人組みちゃったら、興味津々だよね〜。
「ねねっ、あの人たち、どなた?彼氏?」
肩を寄せて、総合監督の女子がいう。
「彼氏?そんなわけないじゃん!!えっとね、あの人たちは〜……」
どうしよう……。あっ、そうだ。
「お、お母さんの友達の息子たちなんだっ。お母さんの友達の旦那さんが外人さんで……」
「へーっ!!でも、髪は染めてるよね。でも、それが更にかっこよさをきわだていていい!!」
あの〜、総合監督さん。もいかして、イケメン好きなんですか……。ていいうか、そうなんですね……。
「朱雀ちゃん、どっちかが好きだったり、する?」
「フブッ!!」
な、なにを!?
「そ、そんなわけないじゃ……」
そこまでいって、私はセイに抱きしめられたときのことを思い出した。
力強い筋肉質な腕、柔らかなセイの香り。耳元で囁く、艶のある低い声……。
「ああああっっ!!」
思い出すな、私!!あっ、あれは、慰めのようなもので……!!
「どっちも、好きな人じゃ、な、ないよ!!」
そうそう、そうだよっ!!そんなわけないって!!
「そーお?私にはそうみえないけどな〜」
怪しげな視線を総合監督は私になげかけた。
「ないないない!!」
慌てて手をブンブン振っていると……。
「……なにやってんだ、お前」
「ひゃわっ!!」
背後から声がして振り返ると、そこには、なにか、未知なるものでもみたような顔をした裕太がいた。そのとなりには、夢がクスクスと笑いながらたっていた。
「あっ、裕太君、夢ちゃん!実はね、今……。朱雀ちゃんの好きな人がきてるんだよ!!」
「だから違うって!」
にやにやしてる総合監督を目尻に、私は二人に耳打ちした。
「ほら、あの。あっちの世界でお世話になってる人」
「……ふーん」
……あれ?どうした、裕太。
なんでそんなに不機嫌なの?
「あそこにいるやつらか?」
「え、うん。って、やつらってなに。やつらって」
私の言葉を無視して、つかつかとセイとハクトがいるエリアに向かった裕太のあとを、私と夢は慌てて追いかけた。
「おぬし、誰だ?」
ハクトと話をしていたセイは失礼なソイツを見上げた。
「……別に?ただの、幼なじみ」
「ほう。幼なじみか」
バチリと、二人の視線の間に火花が散った気がした。
……うん。どうして、こんなに空気が悪いのでしょう。




