10、文福茶釜
「はぁー……」
私はベットにごろりと転がった。
バレちゃった……。これからどうしよう……。
心の奥が少しだけうずく。
もし、優音ちゃんの気に入らないことがあったら、即行バラされるんだよね……。
『私たち、友達、だからね♪』
その言葉が頭から離れない。
友達って何?私と優音ちゃんって、友達っていえるほど仲がよかったっけ……?
『……公表されたくなければそやつの存在を消せばよい』
頭の中で、なにか、が囁く。なにか、知らないものが頭に現れた気がして、頭が歪むように痛くなった。
何をいっているの……?!馬鹿なこと言わないでよ。
『しかし、公表されたら……』
頭の中になにか、のイメージがズルリと入ってきた。頭の中に映像が浮かび上がる。
まず最初に見えたのが、滅茶苦茶になった教室。机や椅子が倒れ、窓ガラスが割れている。それから怯えている生徒、その隣に立って呆然としている教師、教室のドアの前で失望している夢と裕太。そして………………。泣きながらめちゃくちゃに力を使う私。
「……やめて……!」
頭がガンガンと痛い。 廊下を歩くと生徒たちが私に、ひれふをした。
『ひぃ!朱雀様だ!』
『ほらっ!ひれ伏しなきゃ消されるよ!!』
『恐いよぉっ!こんなとこ、居たくないよぉ』
「やめてってば!」
たくさんの声が聞こえて、そして、それをみた私は……。
悦楽な、そしてゾクリとする笑顔を楽しそうに浮かべていた。
「いやーーっ!!」
私は頭を押さえて叫んだ。
『ならば、あやつの存在を消せ』
そんなの……無理にきまってる。
『全ては御あの方様のために』
すっと、頭の中なら何が離れていった。なにも考えられなくなった私は無意識に頬をさわった。
違和感を感じ、触れた手をみると、涙でじとりと濡れていた。
「存在を消す……?」
私はぼそりと呟いた。
『カアカアッカアッ』
外でカラスが鳴く。
もう朝か、と私は思った。
「朱雀ーー?起きなさいよーー」
母が1階から叫んだ。
「うん……」
小さく呟くと、私は身を起こした。
昨日は悪夢をみた。泣き叫ぶ人々、投げたおさてている木々や建物。血を流して動かない人々。………そして、笑う私。
「もう、やだ……」
いっそ、この力をどこかに捨てられば、と思った。
「……いってきます」
準備を終え、家を出ると、私は裕太と夢が待つ場所へ行った。
「おはよっ」
「おはよう二人とも」
「はよ……って、朱雀、顔色悪いぞ?」
「ああ、うん……」
「大丈夫?」
私たちは学校までの道のりを進んでいった。
「今日は、悪夢をみて。なんか、世界がめちゃくちゃになるのを私が笑ってみている夢」
「それは怖かったね」
夢が優しく私の肩を抱く。
「うん。いっそ、力なんかいらないって思って……」
二人の友人はなにも言葉を返さなかった。
「………あれ?」
私は目の前を歩く小さな物体を見つけた。
「文福茶釜?」
茶釜から頭や手足、尻尾が出ている、可愛らしい狸だ。
「どうしたの?なにかいるの?」
そっか、夢と裕太にはみえないんだよね。
「うん!文福茶釜がいたよ!おーい!」
「あ?あ、朱雀だ」
文福茶釜は可愛らしい外見と声にに似合わず、口悪く答えた。
「元気だった?」
「ああ、まあな」
私はいろんな妖怪と友達なのだ。
「あ?……お前、なんか、臭いぞ」
「えっ、嘘!」
きちんとお風呂も入ってるし、洗ったばかりのブラウスを着ているんだけど!なんで!?
「そうじゃなくて。なんか、『負』というか、『悪』っていうか……。なんか、そんな臭いがするぞ?」
ドキ……。もしかして、存在を消すとかどうだかとかばっかり考えているから?
「よし。これから、お前さんについてやる。感謝しろよ」
え、ほ、本当に!?
「あ、別に心配してるわけじゃないからな!?これは、その、あれだ。恩を売ってるだけだ。うん。か、勘違いするなよ!?」
文福茶釜は意外とツンデレである。
「ありがと。よろしくね」
「ふん!」
文福茶釜は私の肩に乗ると、堂々と構えた。
「……それで、どうしたんだ」
裕太が不機嫌そうに言った。
今になって、ほったらかしだったことに気がつく。
「えっと、文福茶釜っていう妖怪がそばにいてくれるってはなしになったんだ」
「えっ、妖怪が!?」
「……ある意味すごいな、お前」
裕太が呆れ声でそういった。
ええ、なんで?
「臭いが強くなってきているぞ」
「うん」
私も初めての頃ほどじゃないけど、『嫌な感じ』がする。
「おはよー!」
「あっ、おっは!朱雀ちゃん!」
私はクラスメイトと挨拶を交わした。
「うっぷ……臭い!」
文福茶釜は顔をしかめた。
私は、大丈夫?と訊こうとして、口を開きかけた。
「あ、朱雀ちゃん!」
明るい声がして顔を上げると優音ちゃんが小走りに近寄ってきていた。
「なんか、肩に可愛いののせてるね」
優音ちゃんは可愛らしく微笑んだ。
けれど……なんか、苛立ってる?
「お主、もしや」
文福茶釜は優音ちゃんを睨んだ。
「………先を続けたら殺すよ♪」
優音ちゃんは、黒い、笑みを浮かべた。
殺すって……!
「っ!」
文福茶釜はただ、優音ちゃんを睨んだ。
「フフフ♪」
優音ちゃんは楽しそうに笑って去っていった。
「……一体、どうしたの?」
私は小声で文福茶釜に訊いた。
「あれは……」
文福茶釜は怯えるように体を震えさせた。
「……人ではないぞ」
「え…………」
と、私は聞こえないぐらい小さな声で、呟いた。