表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

こんな夢を観た

こんな夢を観た「ポンポンパウンス登場!」

作者: 夢野彼方

 席をちょっと離れて戻ってみると、机の上に何やらカードが置かれていた。


 〔求めよ サラダ与えられん。冷蔵庫にはいつもチーズ・かまぼこ。そして、冷えたジンジャー・エールを! by ポンポンパウンス〕


「何これ?」カードを読んで、たっぷりと5分は考え込む。

 ポンポンパウンスって誰だっけ? そんな名前の知り合いなど、いたっけかな。

 それに、書いてある内容がまったく理解できない。求めよ、なんて言われても、今は別にサラダなど食べたいと思っていないし、あいにく冷蔵庫にはチーズもかまぼこも、それにジンジャー・エールすら入ってなかった。


 ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴る。

 イスから立ち上がるとドアまで行き、 レンズをのぞき込む。

 ど派手なピンク色をした、風船のようなものが転がっている。いや、よく見れば、短い手足がついていて、そこに立っているのだった。

「何だろう。どこかのテーマ・パークのお土産かな」大人がひと抱えできるほどの大きさだ。

 近くに、持ってきた人物がいないか、注意深く探してみる。どこにも人影が見えない。置いて、そのまま去ってしまったのだろうか。


 用心のため、チェーン・ロックはそのままで、ドアをそっと開ける。隙間から、じっくりとその物体を眺めてみた。

 まん丸い体から、棒きれのような手足がにょきっと突き出ている。顔はイルカに似ていて、くりっとした大きな黒目をしている。

「何てぶっさいくなぬいぐるなんだろう。こんなの、わざわざ選んで買うのもあれだし、しかも人んちの玄関に捨てていくなんて、まったく趣味が悪いなぁ」

 突然、それがこちらに向き直った。尖った口をパカッと開けて、姿とは似つかないバリトンで言い放つ。

「おれ、ポンポンパウンス。遊びに来てやったぞ」


 わたしはギョッとして1歩、後へと下がった。

「何これっ?」

「だから、おれ、ポンポンパウンスだって。いいから、中へ入れろっ」そう言いながら、ドアの隙間から入ろうとする。チェーン・ロックのおかげで、ドアはそれ以上開かず、ポンポンパウンスは入ってこられない。

「ちょっと、無気味な姿でこっちに来ないでくれる? さっさと、どこかへ行っちゃえっ」

 こじ開けようとするドアを何とか押し返し、ようやく閉め出すことに成功する。

 外で、ドアを叩いたりののしる声がした。低い声だが、声量があるので、とても迫力がある。


 やがて静かになった。

「あきらめて帰ったか」ほっと胸をなで下ろしていると、今度は居間の方で、窓を叩く音がする。

 エアコンを付けていたので、窓は閉めっきりだった。

「ほら、ここを開けろ。さっさと中に入れろっ」窓ガラスがビリビリ振動するほど大きな声で叫んでいる。

「何なのさ、あんたって?」わたしも負けずに怒鳴り返す。

「おれ、ポンポンパウンス。さっきからそう言ってるだろ。遊びに来たんだ、お前んところに。早く、部屋に入れろよ」

「そのポンポンパウンスって、いったい何? 宇宙人? 新種の動物? それともロボットなの?」


 ポンポンパウンスは束の間考えるそぶりをしたが、すぐに反論してきた。

「じゃあ、お前は何だ? 人間って何だ? 地球人って何なんだ?」

「そんなの知らない。ただの人間だし」つい、そう答えてしまう。

「おれだって、ポンポンパウンスだ。ただのポンポンパウンスにすぎない」

「とにかく帰って。それか、どこかよそへ行って。こっちは、あんたみたいな変な生き物と関わりになりたくないし、暇もないんだから」

「そうか? 遊びたくない、そう言うんだな?」凄みのある声だった。表情が読み取れないだけに、なおのこと恐ろしい。

 窓を破って中に入ってくるだろうか? そして、そのまま襲われるのだろうか。


「わかった、今日のところは引き上げる。だが、気が変わったら呼んでくれ。また遊びに来るからな」

 意外なことに、すんなりと引き下がった。

 ポンポンパウンスは、体をボイン、ボインと弾ませながら、あっという間に通りの向こうへと消えていく。

「いったい、何だったんだろう」わたしはあっけに取られて見送った。

 ふと思い出して、机の上のカードをもう1度読み返す。


 〔冷蔵庫には霜降牛、それからミックス・ジュース。新鮮なうちに召し上がれ! 君の友、ポンポンパウンス〕


 まさかと思って冷蔵庫を確かめると、カードに書かれていた通り、霜降牛とミックス・ジュースが、いつの間にか入っていた。

「……ほんとに、何なの、あれ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なんだ!いい奴じゃんポンポンパウンス! 小さい頃、動物園でそんな風船が売られていました。一瞬欲しいと思ったけど買いませんでした。それが夢野さんのところへ行ったのかもしれません(^v^* 声…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ