こんな夢を観た「ポンポンパウンス登場!」
席をちょっと離れて戻ってみると、机の上に何やらカードが置かれていた。
〔求めよ サラダ与えられん。冷蔵庫にはいつもチーズ・かまぼこ。そして、冷えたジンジャー・エールを! by ポンポンパウンス〕
「何これ?」カードを読んで、たっぷりと5分は考え込む。
ポンポンパウンスって誰だっけ? そんな名前の知り合いなど、いたっけかな。
それに、書いてある内容がまったく理解できない。求めよ、なんて言われても、今は別にサラダなど食べたいと思っていないし、あいにく冷蔵庫にはチーズもかまぼこも、それにジンジャー・エールすら入ってなかった。
ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴る。
イスから立ち上がるとドアまで行き、 レンズをのぞき込む。
ど派手なピンク色をした、風船のようなものが転がっている。いや、よく見れば、短い手足がついていて、そこに立っているのだった。
「何だろう。どこかのテーマ・パークのお土産かな」大人がひと抱えできるほどの大きさだ。
近くに、持ってきた人物がいないか、注意深く探してみる。どこにも人影が見えない。置いて、そのまま去ってしまったのだろうか。
用心のため、チェーン・ロックはそのままで、ドアをそっと開ける。隙間から、じっくりとその物体を眺めてみた。
まん丸い体から、棒きれのような手足がにょきっと突き出ている。顔はイルカに似ていて、くりっとした大きな黒目をしている。
「何てぶっさいくなぬいぐるなんだろう。こんなの、わざわざ選んで買うのもあれだし、しかも人んちの玄関に捨てていくなんて、まったく趣味が悪いなぁ」
突然、それがこちらに向き直った。尖った口をパカッと開けて、姿とは似つかないバリトンで言い放つ。
「おれ、ポンポンパウンス。遊びに来てやったぞ」
わたしはギョッとして1歩、後へと下がった。
「何これっ?」
「だから、おれ、ポンポンパウンスだって。いいから、中へ入れろっ」そう言いながら、ドアの隙間から入ろうとする。チェーン・ロックのおかげで、ドアはそれ以上開かず、ポンポンパウンスは入ってこられない。
「ちょっと、無気味な姿でこっちに来ないでくれる? さっさと、どこかへ行っちゃえっ」
こじ開けようとするドアを何とか押し返し、ようやく閉め出すことに成功する。
外で、ドアを叩いたりののしる声がした。低い声だが、声量があるので、とても迫力がある。
やがて静かになった。
「あきらめて帰ったか」ほっと胸をなで下ろしていると、今度は居間の方で、窓を叩く音がする。
エアコンを付けていたので、窓は閉めっきりだった。
「ほら、ここを開けろ。さっさと中に入れろっ」窓ガラスがビリビリ振動するほど大きな声で叫んでいる。
「何なのさ、あんたって?」わたしも負けずに怒鳴り返す。
「おれ、ポンポンパウンス。さっきからそう言ってるだろ。遊びに来たんだ、お前んところに。早く、部屋に入れろよ」
「そのポンポンパウンスって、いったい何? 宇宙人? 新種の動物? それともロボットなの?」
ポンポンパウンスは束の間考えるそぶりをしたが、すぐに反論してきた。
「じゃあ、お前は何だ? 人間って何だ? 地球人って何なんだ?」
「そんなの知らない。ただの人間だし」つい、そう答えてしまう。
「おれだって、ポンポンパウンスだ。ただのポンポンパウンスにすぎない」
「とにかく帰って。それか、どこかよそへ行って。こっちは、あんたみたいな変な生き物と関わりになりたくないし、暇もないんだから」
「そうか? 遊びたくない、そう言うんだな?」凄みのある声だった。表情が読み取れないだけに、なおのこと恐ろしい。
窓を破って中に入ってくるだろうか? そして、そのまま襲われるのだろうか。
「わかった、今日のところは引き上げる。だが、気が変わったら呼んでくれ。また遊びに来るからな」
意外なことに、すんなりと引き下がった。
ポンポンパウンスは、体をボイン、ボインと弾ませながら、あっという間に通りの向こうへと消えていく。
「いったい、何だったんだろう」わたしはあっけに取られて見送った。
ふと思い出して、机の上のカードをもう1度読み返す。
〔冷蔵庫には霜降牛、それからミックス・ジュース。新鮮なうちに召し上がれ! 君の友、ポンポンパウンス〕
まさかと思って冷蔵庫を確かめると、カードに書かれていた通り、霜降牛とミックス・ジュースが、いつの間にか入っていた。
「……ほんとに、何なの、あれ」




